え、ちょっと待ってよ。まだ心の準備がなんていう私の声は電話の向こうの梓に届かず少しの間の後に心臓に悪い声が聞こえてきた。
『椿?』
「錫也先輩…」
名前を呼ばれただけなのに心臓がバクバクと大きな音を立てはじめる。下の階に居る両親に気付かれちゃうんじゃないかってくらい。
『携帯無くしただけで良かった。椿に何かあったんじゃないかって俺心配で…』
喜んだらだめなんだけど、きっと反省しなきゃいけない場面なんだけど錫也先輩が心配してくれていたという事実は私の胸をきゅんとさせた。
「心配お掛けしてすみません。私は大丈夫です。」
『本当に良かった。今実家なんだよな?ゆっくり休んでるか?無理とかしてないか?』
「はい。大丈夫です。」
私がそう答えると錫也先輩は笑いながら、"実家だもんな。俺が心配しなくても大丈夫だよな"と続けた。そして少し声を小さくして甘く"なぁ"と囁かれ私の頭はショート寸前だ。
『寂しくはないか?』
ささささ寂しいですよ!携帯なくして誰とも連絡取れないし何してても錫也先輩の事ばっか考えてるしでもうちょっとした逆ホームシック状態ですよぉぉお!錫也先輩いなくて寂しくないわけないじゃないですか!錫也先輩に会いたいですよおおお!…って言いたくて脳内でバタンバタンする自分とりあえず落ち着け。
浅く息を吸い顔から火を噴く思いで声を絞り出す。
「…錫也先輩に、会いたいです。」
変じゃないよね?彼女、だから変じゃないよね?と不安になる私をよそに電話の向こうが静かになる。
『行く。今すぐ行く。』
「え?」
『だからちょっと待ってなさい。』
走っているような呼吸音になった錫也先輩の向こうで"ちょっと東月先輩椿の家どこか知ってるんですか!?"という梓の声が聞こえた。
また迷惑をかけてしまったようです。
20110415
心臓に悪い声
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