中庭で座ってる堺を見つけたのはサボろうと思ってぶらぶらとしていたときのことだった。真面目だと思っていたけど、授業中の時間帯にこんなとこに居るということは俺と同じ目的(サボること)だろう。
「おい」
「・・・あ、七海先輩。こんにちは。」
驚くかなと少し期待して後ろから声をかけたのだが、堺は驚いた様子もなくゆっくりと振り返りぺこっと頭を下げた。
「授業中にここに居るっていうことは堺もサボりか?」
にししと笑って隣に腰かけると堺は笑うでもなくきりっとした顔で俺をみた。
「いえ、私は美術の授業中でして。」
そういってすっと差し出された手にはスケッチブックと鉛筆が握られていた。
「七海先輩はサボりなんですか?」
スケッチブックに視線を移し、鉛筆を滑らせながらそう聞いてきたけれどそれは責められているとかそんなんじゃなく本当にただ質問しただけという感じだ。
「ま、まぁな。・・・その錫也には秘密にしてくれ。」
「私から言う理由もありませんけど。」
手を止めることなく堺はデッサンを仕上げていく。
「けど、錫也先輩にはバレちゃうと思いますよ。」
消しゴムを傍においていたペンポーチから出して堺は「たぶん」と付け足した。
「そりゃあ、同じクラスだし気付かれるか。」
「そういうことじゃなくて、錫也先輩は七海先輩のこと好きですから七海先輩がいくら隠し事しても気付くんじゃないかなと思うんです。」
堺の口から発せられた言葉に驚き思わず大きな声で聞き返すとしぃっと注意されてしまった。
「親愛的な意味ですよ。」
「わーってるよ!」
なんだか俺が気持ちわりぃこと想像したみたいに言われ少し腹が立ったものの堺は相変わらず無表情なのでなんだか怒るのは俺がおかしい気がしてため息を吐くだけに留めた。
「そういや、堺も幼馴染と入学したんだってな。」
とにかく空気を変えたくていつか錫也から聞いたことを話題にだす。
「はい。」
「もちろん男だよな?」
ここは月子と堺しか女子がいないから当たり前なんだけど堺が錫也以外と居ることは想像しづらい。
「はい。木ノ瀬梓です。」
真っ黒な髪を耳にかけて堺は忙しそうに細かく鉛筆を動かし始める。
「宇宙科のか?」
「はい。確か、夜久先輩と同じ部活ですよね?」
そういえばよく月子の口から出る名前だ。そう思い頷けば堺は終わったのかスケッチブックを閉じて俺の方を向いた。黒い瞳が俺を見た。少しだけ堺が言いづらそうに声を小さくしたのが分かった。
「七海先輩、幼馴染ずっと一緒に過ごしてきた者同志としてひとつ聞いてもいいですか?」
いつもと同じ真剣な顔だったけれど、これは本当に真面目な話なんだろうと俺でも分かる。
中庭での会話
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