「あ、椿。」

夏休みは終わったがまだ暑い日の午後。隣に座っている錫也が窓の外を見て呟いた。それに釣られ俺も窓の外に目をやると外には体操服の一年がうじゃうじゃ居た。次は体育なのだろう。その中に一際黒い髪の毛が揺れてこっちを向いた。射抜かれそうにまっすぐな視線に俺は思わず視線をそらす。しかし錫也は嬉しそうに微笑んで控えめに手を振った。

「可愛い。照れてる。」

「ああ、そうかよ。」

俺が適当な返事を返しても反応がない。それくらい錫也は窓の外の恋人に夢中だ。どんなときにも俺らが安心する笑顔しか見せなかった幼馴染は最近出会った一人の女のためには様々な表情を見せる。

堺椿は不思議な女だ。

無口で、無表情で背が高くてなんでもこなす。時々喋ったと思ってもその声色に抑揚が無くていきなり話しかけられると心臓に悪い。感情なんてものを持たないかのようにどんなことにも「はぁ」とか「ええ」とか短い言葉で返す。恋人になったはずの錫也にも今だに敬語で話す。錫也からは錫也が堺が好きなことが行動からも言葉からもひしひしと伝わってくるのに、堺からは伝わらない。本当は錫也と仕方なく付き合ってんじゃねーかとかそんな風に思ってしまうくらい。

しかし、錫也は堺のことが好きだと言う。俺には分からない堺の表情や感情を見ている。「困ってる」とか「喜んでる」とかそういうものを読み取る。そして堺と居ることが幸せだと言う。

幼馴染の俺らでも見たことのないような幸せな顔をしてそう言う。

「おい、哉太?機嫌悪いのか?」

「べっつにそんなんじゃねぇよ。」

「なら体調が悪いのか?無理はするなよ?」

「お前はほんとオカンだな。」

また幼馴染の顔をして俺を心配する。

機嫌が悪いか。たしかにそうかもしれない。ずっと一緒だった、一番近かった幼馴染の一人を取られて俺はどうやら堺に嫉妬しているらしい。


幼馴染の嫉妬

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