バンと道場の床を叩くように落ちたのは私の持っていた弓だった。そしてその後、密着していた宮地君を突き飛ばしたのは私の手だった。
「…っ」
「ご、ごめんなさい。」
弾けるように合いた距離の向こうの宮地君が辛そうに眉を寄せた。強く押してしまったから痛かったのだろう。強く押した証拠に私の手も熱を帯びているようだ。
「すまない。」
顔を背けながら謝る宮地君。どうしたんだろうか。私はどうしたんだろうか。手だけではなく宮地君が触れたとこ全てが熱くてたまらない。
「私こそ、ごめんなさい。」
「い、嫌か?」
どうしていいかわからなくて謝ることしかできない私に宮地君は小さく聞いてきた。
「え?」
「む…そのだな、部長や犬飼たちに触れられるのは良くても、俺に触れられるのは嫌か、と言うことだ。」
嫌?そんなんじゃない。ただ、鼓動が早くなって驚いたのだ。今もまだ、すごい速さで脈打っている。
「すまん。もうこんなことは二度としない。忘れてくれ。」
答えない私に焦れたのか宮地君は丁寧に頭を下げて背を向けてしまった。
「宮地君っ…」
それは嫌だと思った。なんでかとかそんなことより、もう二度と宮地君に触れてもらえないということが嫌だと思った。自分から突き飛ばしておいて我侭もいいとこだが、私は熱さと鼓動の速さ故に震える手を宮地君へ伸ばした。
「嫌、じゃない、です!」
「天野…?」
「嫌、じゃなくて、なぜか、鼓動が早くなってしまってですね。」
つかんだ宮地君の腕はしっかりしていて、たくましかった。
「だから、本当に触れられるのが嫌とかじゃなくて、」
何を言っているんだろうか。もう、建設的に考える余裕は残っていないようだ。本当に私はどうしてしまったんだろうか。いつもの真剣な顔で宮地君が私の名を呼ぶ。彼の呼ぶ私の名前はいつから他人の呼ぶそれと違う響きだったろうか。
「分かんないの。なんで、こんなに鼓動が早いのかとか、どうして宮地君に呼ばれると特別に聞こえるのかとか、どうしてこんなこと言ってるのかとか。全部分かんないの。」
交錯する思考を吐き出す。宮地君に抱きしめられるという行為はどうやら私の中の何かを外してしまったようだ。犬飼君がまず俺と抱き合ってから宮地君と抱き合えっていったのは抱き合うという行為には人間の心理のなにかを変化させる行為だと犬飼君は知っていたからなのかもしれない。
「意味わからないこと言って、ごめんなさい。」
「いや、俺も同じだ。」
再び謝る私に宮地君は困ったように笑った。
「俺も、なぜ、天野に触れたいのか、天野が部長たちと居ると気分が優れないとか分からない。俺たちはまだまだだな。」
「そう、だね。」
この世の中にはまだまだしらないことが多い。それを理解していても自分のことが理解が出来ないということは、とても怖い。
しかし、宮地君も理解出来てないと感じているその事実が私をこの混沌から救ってくれそうだ。この″分からない″を克服すべき努力せねば、そう思える。
分かんないことだらけ
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