蛇口を捻り勢いよく出る水に頭を突っ込む。ザーザーとうるさい水音をしばらく無心で聞いて頭を引き抜いた。
髪から滴る水はポタポタと言うには多くてあっという間に道着が濡れる。久々に我を見失いそうになった。それもこれも全部犬飼君のせい。大体神聖な道場であんな話をするなど言語道断だ。あとでお説教しよう。
この話は忘れよう。よし、と自分に気合いを入れ直し水道から離れる。わーわーという声に目を向けるとグラウンドでサッカー部が騒いでいた。あまりに騒がしいのでじっと見てみると練習試合でもしたのだろうか二手に別れた片方だけが異常に盛り上がっている。互いにハイタッチしたり抱き合ったりすごく嬉しそうだからもしかしたら何か賭けていたのかもしれない。学校で賭け事はよくない。そこまで考えて自分の思考に引っ掛かりを感じ、思考を少し戻した。
…抱き合って…?
かちかちと"抱き合って"という言葉とさっきの自分の"宮地君に抱き締めて欲しい"という感情を比較する。それらはすぐにカチリと納得する答えにはまり、私の心は軽くなる。思わず頬を緩めてしまうほどだ。やはり私の宮地君に対する感情は恥じるものなどではない!
抱き締めて欲しいっていう気持ちは抱き合って喜びを分かち合いたいっていうことだ。あんな風に抱き合ってわーわーと騒ぎながら喜びを分かち合う!青春ではないか!私の感情は多分それだったのだ。
そうと分かればこんなところでサッカー部なんか見学している暇はない。宮地君と喜びを分かち合うために部活に精進せねば。目指す喜びとはすなわちインハイ優勝だ。
よし、頑張るぞ。えいえいおー!
心の中で叫んだとき頭にふわりと何かが掛かった。触るとふわふわと優しい感触。タオルだ。しかもこれは宮地君のタオルだ。
「頭を冷やすどころかずぶ濡れじゃないか。さっさと頭を拭いて練習に戻れ。」
声に振り向くと宮地君が眉間に皺を寄せて立っていた。わざわざ追いかけてくれるなんてさすが副部長だ。自分の練習時間を削ってまで部員を気に掛ける。まさに副部長の鑑だ。
「うん。心配かけてごめんなさい。インハイ、絶対優勝しようね!」
「当たり前だ。」
ふわりと柔らかくなった宮地君の表情に私は益々頑張ろうと心に誓った。
そんな貴方と喜びを共有したい
20110428
ほら、やっぱりね!
[ 13/21 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]