やだやだと駄々捏ねながらも結局次の日の昼には地元に着いてしまった。私にとって久々の地元は懐かしい場所ではなくどちらかと言えば怖い場所だ。この田舎では化け物を知らない人の方が少ない。

「怖いか?」

隣を歩く一樹の言葉に「怖い」とだけ返す。時々私たちの近くを通りすがる人は昔の記憶にいる人で刺さる視線に苦しくなる。気付かないで欲しい。この田舎町から去るときの私と今の私は随分変わったからその変化に呑まれて昔の私は消えちゃえばいいと思った。

「大丈夫だ。俺が居る。」
「当たり前だよ。かずくんいなきゃこんなとこ来ないよ。」


八つ当たりだと分かってる。だけどそれすら包むような一樹の存在の大きさを知ってる。

「怒るなよ。」

「怒るよ。バカ。バ一樹」

「おいこら。キスするぞ。」

「ごめんなさい。」


いつも通りだ。二年とちょっとで作り上げたいつもの私だ。右耳を触りピアスの数を確認して右手のシルバーリングも確認する。そして息を吸ってからこの田舎町で一番大きな家の前で立ち止まる。


「かずくん、ここが実家だよ。」

「おう。」


私の震える指の代わりに一樹の指がインターフォンを鳴らした。


『はい。』

「…星華です。」

『星華?』

機械特有のノイズの交ざった声でも分かる。母親の声だった。

『今、開けるわ。』


どうしようと呟く私の頭を撫でて一樹はネクタイを締めて上着を脱いだ。重い鞄は一樹がもってくれていたけど私の気持ちは身体が地面にめり込んじゃうんじゃないかってくらい重かった。


「星華が欲しいもんやるから安心して俺に付いてこい。」








この門が開かなければいいのに


20110417
畏怖的帰省

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