錫也に告白された夜、久々に一樹の前で泣いた夜。
「私が一生、一樹のものだって補償が欲しいの。」
そう言った私を引っ張るように一樹は生徒会を出た。
「ねぇ、かずくん。どこ行くの?」
月明りしか光源のない暗闇を黙々と歩き続ける一樹にいた聞いたら「遠出の準備をして来い」といつの間にか辿りついていた職員寮の前で手を離された。
「遠出…?」
「あぁ、早くしろ。」
「なんで?」
「欲しいんだろ?補償。」
ニヤリと笑う一樹は強引な生徒会長様で私はただ頷くことしか出来なかった。
急いで準備をして寮から出ると一樹も準備をしてきたようで私と同じくらいの大きさの鞄を持って立っていた。
「よし、行くぞ。」
再び手を取られ、私たちは夜の学園を抜け出す。もう最終バスは行ってしまっているから徒歩しかない。だけど一樹と一緒なら構わないと思えた。山奥にある学園から少しずつ、でも確実に離れていきながら私は泣きすぎて痛い目を擦る。
麓の駅に着いたのは夜中で最終電車が近付いていた。一樹が券売機で買った切符を私に差し出してくれる。自動改札を抜け人のいないホームのベンチに座る。
ホームから見る夜空は町明かりのせいで少しもの足りない。五分程で来た電車の到着する大きな音と駅のアナウンスに紛れるように一樹が口を開いた。
「これからお前の両親に会いに行くぞ。」
思いもしない言葉に身体が強張るのを感じたけれど拒否する間もなく私の身体は一樹によって車内に入った。扉の閉まる気の抜けた音を聞きながら私の脳内は必死に笑っている両親の顔を探していた。
遠い場所へ
20110416
無断的抜出
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