それはもう私の高校生活で初めてなんじゃないかってくらい全力で走った。通学用のヒールの高いロングブーツじゃなかったのが不幸中の幸いだ。あれだったら足三回はくじいたと思う。
「はぁはぁ…」
「星華!どこに居たんだ?心配しただろうが!」
部屋に入った瞬間、一樹がどこかの父親みたいなこと言いながら抱き締めて来た。やだ、今私汗臭いかも。
「お前の顔見たくなって部屋に来たらお前居ないから心臓が止まるかと思った。」
ぎゅうっと力を強めた一樹の背中に手を添える。まだ朝の六時前なのに。こんな朝早くに私の顔が見たくなってくれるなんて。しかも部屋まで来てくれるなんて。心臓が止まりそうになるほど心配してくれるなんて。私はその事実だけで勝手に部屋に入られたことも下着を見られたことも帳消しにした。
「心配かけてごめんね。」
謝ったら返事ではなく口付けが振ってきた。それは少し乱暴に押し付けるみたいなものだった。すっと離れた唇に物足りなさを覚える。
「次は無しだからな。」
「うん。」
まだ少し怒ったような顔の一樹の胸に顔を擦り付け大好きな匂いを吸い込む。
リリリリリ
そんな二人の時間に携帯の着信音が入り込んできた。一樹は迷うことなく応答する。
「もしもし…月子か?」
一樹の口から出た名前に私の心臓がびくんと跳ねた。
「あぁ、分かった。すぐ行く。」
だめだめ。行っちゃやだ。
「星華、顔見れて良かった。俺、生徒会の仕事が出来たから先に行くな。」
行かないでよ。もっと抱き締めてよ。
「うん。頑張ってね。行ってらっしゃい。」
キスしてよ。
「行ってきます。」
パタンと静かに閉まったドアを見てストンとその場に座り込んだ。隣の部屋のつっこちゃんはいつからいなかったんだろう。いつから一樹を呼ぼうとしてたんだろうか。
そして女は別の男に癒しを求める
20110330
心停的心配
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