屋上庭園から誰も居なくなると一樹がそろそろ帰るか、と立ち上がった。帰りたくない。離れたくない。この穏やかな星空の元から離れたらまた一樹は星空と私以外を見始める。そして私もまた一樹以外を見て、一樹以外に好きだと吐きはじめなくてはならない。

「立てるか?」

「うん。」

差し出された手を握って立ち上がると私より幾分も背の高い一樹を見上げる形になる。灰色の髪の毛が屋上庭園の小さな光にさえ反射しきらきらする。職員寮までの間、今日私が窓ガラスを叩いたとき一樹が何してたかとか、誉はどんな反応をしただとか一樹を呼んだ私が可愛かっただとか(これは恥かしかったので途中で切った)下らない話をした。

「かずくん、今日は楽しかったよ。ありがとう。」

「俺もだ。」

職員寮に着いて一樹と向かい会う。

「なぁ」

いつもより少し低い声でそう言った一樹は勢いよく私を抱き締めた。

「星華」

「何?どうしたの?」

「星華は俺のこと好きか?」

一樹の顔が見えない。

「うん。誰よりも愛してるよ。」

「じゃあ、」

ついに来た。今まで知ってても何も言わなかった一樹を私は知っている。

「じゃあ?」

「なんで東月や翼とキスしてるんだ。なんで俺の前で泣かなくなった。」

私は何もいわずぎゅーっと抱き締めた。ありったけの愛を込めてただ抱き締めた。


苦しい。苦しい。だけど錫也や翼に嫉妬する一樹が愛しい。



私は一樹を離して笑った。

「勘違いだよ。おやすみ、また明日。愛してるよかずくん。」

一樹の制止は聞こえないふりをして私は職員寮のエントランスへ入った。















苦しい、苦しい。




20110322
猜疑的彼氏

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