一樹の胸をそっと押し、優しい腕から離れる。

「落ち着いたか?」

「お陰様で」

へらりと笑って答えれば頬をふにっと摘ままれた。

「嘘つくな。」

「嘘なんてついてないよ。」

見透かされる心情がぶるりと震えた。

やめてよ。
これ以上、私に近づかないでよ。

頭の中でなお喚き散らす私が抱いちゃいけない感情を踏み潰す。なるだけ戻れないように粉々に踏み潰す。

「星華は嘘だらけだ。本当は近付くことを恐れてるだけだろ?」

真剣な顔で私の心に踏み込む一樹の左手が眩しくて目が潰れそうだ。

「何言ってんの?出会ってそんな立たないのに私の何を知ってるっていうの?」

なるだけ穏やかに。なるだけ笑顔で。私は一樹を傷つける。そんな私に怯むでもなく一樹はさらに声をあげる。

「星華が好でもない男に唇や体差し出してまで独りを怖がる理由はなんだ。」

「かずくんの言ってること分かんないや。」

ははっと笑った私に一樹はとうとうキレたようで顔を一気に強ばらせた。

「逃げるな!!自分に向き合え!!怖いことがあるなら俺に全部ぶつけろ。」

そこまで言ってまた一樹は私を少し乱暴に抱き寄せる。

「俺が全部受け止めてやるから。独りが怖いなら、俺が一生星華を愛してやるから。」



この言葉がずっと欲しかった。だけど、今の状況では聞きたくなかった。

一樹の手を振り払うようにほどき、私はまた笑う。感情が滲まないように注意しながらまた笑う。


「私のことなんにも知らないのに、一生とか愛してやるか重い言葉使わないで。それこそ、かずくんが好きな人に言いなよ。」

私は最低だと自覚している。

「俺が好きなのはお前だ星華。だから、黙って俺に愛されろ。」

そんな最低な私をあなたはなぜ愛してると言うかが分からない。

「お前はもう、人を傷つけない触れ方を知ってるだろ。」

そして私も真実がばれたときまた独りになってしまうのにこの人信じたいと思う理由が分からない。

私の全てが愛されることなどありえないのに。

「来い。自分から触れることを恐れんな。」

もうやめてよ。
私に貴方を好きにさせないで。

一樹の広げた両手には飛び込んで私はたまらず一樹にキスをする。

自分からした初めてのキスだった。


夢見た言葉

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