頭おかしいんじゃないかって思った。

私が一樹に担がれて保健室に連れていかれた次の日、毎度のように男子生徒といちゃいちゃしていた私を毎度のように一樹が発見した。ここまではいつものことだったのだが、怒鳴りながら駆けてくる一樹の左手首を見て私は絶句した。

「こぉら星華!やっぱり昨日言ったこと分かってない…ってどうした?」

いつもと違い黙ったまま逃げようとしない私の異変に気付いたのか一樹が心配そうな顔になる。

「かずくんのバカ。嘘つき。」

「はぁ?」

自分でも分かるくらい声が震える。一樹の手首はギプスで被われていたのだから冷静でいられるわけがない。

「手首!なんともなくないじゃん!それギプスでしょ!?折れてるじゃん!!」

「おい星華落ち着けって」

またやってしまった。
その後悔と共にこんなことになっていたのに昨日大丈夫だと宣った一樹に腹が立つ。お前のせいじゃないやら何やら抜かす一樹の嘘に更に腹が立ち喚いた。

「落ち着けるわけないでしょ!?てか、そんなにまでなってなんで男の骨折るような怪物のことかまうのよ!!頭おかし」

ぐちゃぐちゃの頭を抱えて叫ぶ私の言葉を遮ったのは一樹だった。一樹が右手で私の頭を一樹の胸に押し付けるように抱いたのだ。

「落ち着け、星華。自分のこと怪物なんて言うな。」

本当にこいつ頭おかしい。私がまた本気で腕とか握ったり殴ったりしたらどうするつもりだったんだ。

「このギプスはお前のせいじゃない。こけて折れた。それだけだ。」

私の頭を優しく撫でながら一樹はそういった。嘘つきだと繰り返す私に「嘘なんてついてねぇよ。」とからりと笑う。

一樹の胸の予想以上の温もりに私はまた涙腺が緩む。

私がケガをさせて再び近づいてくれる人間は少なくて、近づいてくれても再度近付いたときその人の心は遠退いていた。

嘘をついてまで私の心に近づく人は初めてだ。


このままこの温もりの側に居たい。けれど私のもう1つの秘密を知ったとき、彼もきっと私から離れてしまうからこれ以上近づく訳にはいかなくなった。
心理的距離も埋める腕

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