一樹との初対面を思い出すと同時に思い出した視線にまた酔う。見るな。好奇の目で、珍しいものを見る目で私を見るな。違うのに、今はその視線に囲まれているわけではないのに恐怖が襲ってきて気持ち悪くなる。

「おい、大丈夫か?」

私の変化に気づいたのか、一樹が近寄って私の右頬に触れた。

パシッ

「!?」

条件反射のようなものだった。右頬に触れたのはあの人でないことを脳では分かっていても長い間に染み付いた反応は働いてしまった。驚いた顔の一樹と一樹の手首を強く握る私の手。

「ご、ごめん、い、痛かったよ、ね?」

急いで手を離したけれど、一樹の手首には赤く私の手の痕が残っていた。それを見て、体の震えが止まらなくなった。油断などするからいけないのだ。もっと、いつものように全てに神経を張り詰めさせていれば頬を触られたときの反射など防げたのに。

「ごめんね、保健室、行こ?」

壊れたみたいにかたかた言いながら呆然とする一樹から遠ざかる。思い出される私を怖がる視線を思い出した。しかし、一樹は私の心配に反し初対面のときのあの顔で、笑った。

「え?」

「俺は男だぞ?女に強く手首握られたくらいで痛くもなんともない。」

一樹はからからと笑って私を撫でた。ぐしゃぐしゃと容赦なく撫でた。

「それより、星華、調子悪いんだろ?保健室行くぞ?」

そう言って私を担いだ。お姫様だっことかじゃなく、米俵を肩に載せるみたいに担ぎ上げられた。

「ちょうし、わるくない。」

「嘘つくな。」

一樹の背中だけ見つめながら私は一樹のついた嘘は見抜けずに、一樹のくれた笑顔を思い出して泣いた。



ちょうし、くるうわ

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