入学式を終え、数日が経った。僕が部長を勤める弓道部も3人の新入部員を向かえ賑やかになった。その日ももちろん放課後は練習があったのだけど僕は担任に用事を頼まれていて弓道場へ向かおうと教室を出たときはもう6時が近づいていた。

傾き始めた日のまぶしさに手をかざしながら廊下の角を曲がると僕のよく知る白金の髪が視界に入った。あの髪色をもつのは同じクラスで一樹の彼女、そして僕の友人でもある巽星華だけだ。部活に入っていない彼女がこんな時間にしかも一樹以外の生徒と一緒にいるのは珍しい。彼女が一緒に歩く男子生徒の方へ顔を向けるのにあわせふわふわと揺れる襟足。声をかけようと手を挙げたところで隣に立つ男子生徒が彼女に顔を近づけた。

「!?」

驚いて思わず挙げた手で口を覆う僕の前で彼女は拒否することもなく男子生徒の唇を受け入れた。

しばらくしてそっと唇が離れると同時に星華ちゃんが僕に気付いた。自分でもどんな顔をしていたかが分からないくらい混乱していた僕に星華ちゃんは驚く様子も無く微笑んだ。

「星華?何見てるの?」

不思議そうにたずねた知らない男子になんでもないよ?と答えた星華はもう一度僕の方を向いて真っ白な人差し指を口に当てた。



見てはいけないもの

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