「おい、星華なにぼけっとしてんだ。こっち来い。」

約束の夜、屋上庭園でにかっと笑う一樹はいつもの自信たっぷりの笑顔なんだけど私はこの状況に引きつった笑みしか返せない。一樹の隣には水色の頭のクラスメイトと赤色の頭のクラスメイトが居るのだ。おかしいだろう。デートに友人連れっておかしいだろう。

「あ、うん。今行くね。」

重い足を仕方なく一樹の方に進める。

「金久保くん、白銀くんこんばんは。」

とりあえずと形だけの挨拶をしたら金久保くんに澄んだ笑顔で返されて思わず心臓が跳ねる。

「星華こっち座れ。」

ぽんぽんと隣を叩く一樹に従えばパシャリと音がする。

「一樹と星華ちゃん、本当に付き合ってたんだねぇ」

音の方へ向くと構えたカメラから少し視線をずらし白銀桜士郎がこっちを見ていた。あ、嫌い。直感的に思って取り消す。

「おいおい、桜士郎疑ってたのか?」

「まぁね、一樹強引だから無理やりなのかなと思ってたけど、相思相愛っぽいじゃない。」

私の何を知ってるんだ。探るような目がものすごく不快だ。取消やっぱ取消。私やっぱこの人嫌い。

「桜士郎、失礼だよ。ごめんね巽さん。」

「いや、別に。」

「なんだ星華、今日はずいぶんおとなしいな。」

焦ったようにフォローする金久保くんに意地悪く笑う一樹。その顔を見て、一樹はデートだなんて一言も言ってなかったことに気づく。

「そんなことないよ?」

へらっと笑ってもきっと嘘だってことに一樹は気づいているだろう。けど、まぁ今は金久保くんと桜士郎が騙されてくれればいいだけだから構わない。

「星、見よっか。」

金久保くんの一言に視線を空に移した三人に反して私は一人彼らの横顔に視線を移した。

驚くほどの純粋な視線を星空に捧げる彼らを見て私は俯いて笑う。

そして私を呼ぶ一樹を思い出して、挨拶したときに金久保くんの笑顔を思い出して、カメラを構えた桜士郎を思い出して笑う。彼らの視線は私が今まで貰った欲にまみれた不躾なものとは違う。

「なになに?星華ちゃん何笑ってるの?」

「白銀くんにはひみつー」

「じゃあ、僕には教えてくれるのかな?」

「金久保くんには教えてもいいよ。」

私のにやにやに桜士郎が気づいて静かだった屋上庭園がまた騒がしくなる。

「誉、でいいよ?星華ちゃん。同じクラスだし、これからは仲良くしようよ。」

「うん。」


誉と話す私を満足そうに見る一樹にしてやられたと思った。この人はきっと初めからこうするつもりだったんだ。

ちょっと悔しいな。

でも、すごく楽しい。


いいな、こういうの。

素直にそう思った。


視線

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