グレープサイダーの瞳
しばらくしてやっと落ち着いたらしい小夜香は俺の知るきれーな顔で笑った。
「えへへ、恥ずかしいとこ見せちゃった。」
「…そうでもない。」
キリキリとした罪悪感に苛まれ上手い返事が出来ない。星月センセはここで寝ることを諦めたのかいつの間にか消えている。授業中ということもあり不気味に静かな保健室。その静寂の中を割くように小夜香が口を開いた。
「私は夏目小夜香です。星月学園星詠み科に在席しています。苦手なのは夏です。」
これが私の基本プロフィールだよ。他には何が知りたい?そう言って小夜香は首を傾げる。長い髪がさらさらと肩から落ちた。
「じゃあ好きなもんは?」
少し悩んで小さく尋ねた俺を見て小夜香はすげぇ優しく微笑んだ。
「好きなのは、哉太。七海、哉太。」
小夜香の女にしては少し低い落ち着いた声が響く。
「な!?お、お前…」
「本気だよ。哉太のことが好きなの。だからね、哉太のことも知りたいな。」
好きだなんて色めいた言葉に免疫ねぇから顔が赤くなる。焦る。
焦るけど見惚れるほどに小夜香はきれーに笑う。
小夜香の紫の瞳が俺を捕えて放さない。
まだ知らねえことのが多くて怖いけど、こいつの神秘的な色の瞳に俺が映るのは悪くない。
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