不可解な保健室
相変わらず散らかった保健室は電気が点いていなくて少し暗い。星月センセはそこら中に散らばる書類とかいろんなモンをばさばさと落としながら椅子に座った。
「七海、あそこにいる奴をなんとかしろ。」
ぎぎぎと音を立てて椅子に体重をかけた星月センセがだるそうにカーテンの閉まったベッドの一つを指さした。
「…誰すか?」
さすがに何かも分からないもの(人)に近づくのは嫌で小さな声でそう聞いたが、星月センセはいいからと顎で再び締められたカーテンへ俺を促しただけだった。これ以上はもう何も答えてくれそうにない。
こえぇ…
い、いや、怖くねぇ!!さっきのはナシだ!!そう自分を奮い立たせ俺は目を閉じてゆっくりとカーテンを引いた。意を決して目を開いた俺の視界に入ったのはよく知るばさばさの長い髪だった。
「…小夜香」
名前を呼ぶと小夜香はベットの上から落ちるんじゃねぇかってくらいの勢いで顔を上げた。
「哉太!!
哉太、哉太!!」
小夜香はベッドから降りて俺に抱きついて壊れたおもちゃみてぇに俺の名前を連呼する。
「ちょ、おまっ」
「ごめんね!ごめんなさい!!私、哉太が知りたいんだったらなんでも教えるし、なんでもする!だから、だから」
嫌いにならないで。泣きそうな声で叫ぶように言った小夜香はいつのまにか立ち上がっていた星月センセの手によって剥がされた。
「落ち着け。」
「は、離して。琥太ちゃん離してよ。哉太、どっか行っちゃう。」
「七海、困ってるだろうが。いいから黙れ。」
星月センセにあやされる小夜香を見て俺はただぼーっとした。ぼーっと二人を見ながら小夜香が幽霊とかそういう類のもんじゃねぇってことに少し安心した。だけどそれでも出会ったばかりの俺になぜこんなにも嫌われまいとしているのかとか、星月センセが小夜香の扱いに慣れている感じとかわかんねぇことばっかだ。
しかしひとつ確実なことがある。謝って許しを乞うべきなのは俺を慕ってくれている小夜香じゃなくて小夜香に酷い言葉を浴びせた俺だってことだ。
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