「指輪、くすんでるぞ?」

夏が近づいた休日の午後、錫也の隣で本を読んでいたら錫也に指摘された。その指摘に視線を本から左手に移すとたしかに結婚指輪が若干くすんでいた。

「本当だ、最近磨いてなかったからなぁ。」

暇だし、今磨くか。と右手で指輪をつまんだ瞬間、錫也が左手を握ってきた。私より幾分も大きな手に結婚して結構経つがドキドキする。

「ちょ、何?指輪取れないんですけど。」

「俺が磨いてやるよ。」

いい笑顔でそう言うと錫也は金属を磨くための布を出してきてまた私の手を取った。

「やっぱ、指輪したままじゃ磨きにくいでしょ?取るよ?」

「いいから、大人しく磨かれなさい。」

指輪を外そうとする私を再度止めて錫也は布で指輪をこすりはじめた。ガラスを扱うように丁寧に私の指を扱う錫也の手がくすぐったくて恥かしくて顔を背けた。

「はい、出来た。」

あっと言う間に錫也に磨かれた指輪はきらきらしていて、こんなにきれいだったんだねと思わず感嘆の声をあげてしまった。そういえば、私の指輪があんなにくすんでいたんだから錫也の指輪はどうなんだろう。そう思って錫也の左手をちらりと見れば、私の考えてることに気付いたのか錫也が私に見せるように左手を上げてくれた。

「わ、綺麗。」

その指にはまっていた私と同じデザインの指輪はくすみどころかくもりひとつないくらい綺麗だった。

「毎日、磨いてるからな。」

なんせ、大事なお嫁さんとの絆を示す大事な指輪ですから。
いつものように平気な顔で甘ったるい言葉を口にする錫也にドキドキしながら私も毎日指輪を磨こうと心に決めた。



左手の輝き

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