嫉妬印


 
先輩を噛んだ。

本当にただ噛んだ。しかも思い切り。

「あ、ずさ、くん?」

ねぇ、いたいよ。そう言った先輩は痛みより驚きを感じているようで見開いた目で僕を見る。

「僕の愛です。」

先輩の手首から口を離して僕が言うと先輩はようやく泣きそうになりながら"意味分かんないよ"と呟いた。ゆっくりと先輩の瞳から涙の滴が落ちるのを確認して僕は僕が噛み付いた先輩の手首に視線を移す。

「歯形残っちゃいましたね。」

「あんなに強く噛んだら残るに決ってるよ。」

先輩の手首に赤く僕の歯形が並んでいる。まぁ先輩の言う通りですよね。すみませんと笑いながら謝って僕は自分の手首からひとつリストバンドを外す。

「跡が消えるまでこれ、貸してあげます。」

「梓君のせいなのになんか偉そう。」

「だから、すみませんってば。」

先輩の華奢な手首にリストバンドをはめる。

「先輩が僕のって証です。」

「こんなことしなくても私は梓君のものなのに。」

可愛いこと言いながらリストバンドを撫でる先輩。可愛いなぁ。本当に。でもそんなんじゃ許しません。僕は今日の昼休み、翼に手首を引かれ学校を走り回る先輩を思い出す。

「今日、翼にこの手首引っ張られてましたよね?先輩?」

「み、見てたの?」

「はい、ばっちり。噛んだのは僕以外の男に触れさせた罰でもあるわけです。」

次はなしですよ。と釘をさす僕を見て先輩は口に手を当てて笑った。

「梓君に嫉妬してもらえるなんて嬉しいな。」


こんなに可愛いだなんてこの人は僕をどうしたいんだろうか。







20110425

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