幼稚な嫉妬と


 
最低だ、あたし。


目の前の錫也は困ったような怒ったような悲しいような複雑な表情をしている。自分が悪いことはよく分かっているけど口を開けば泣いてしまいそうで開けない。

『私より月子とやらが好きならその月子と付き合えば?』

数分前の自分の言葉に自己嫌悪。錫也がデートの途中に幼馴染みの月子さんからの電話を取ったことに対して吐いてしまった言葉だ。錫也にとって月子さんは大事な人であることを知ってるのに、錫也があたしを愛してくれてるのを知ってるのに酷いことを言ってしまった。幼稚な嫉妬だ。


「ごめんな。」

俯いているとふわりと錫也に抱き締められた。

「すず…」

「でも俺は今怒ってます。」

錫也は抱き締める腕に力を加える。

「ごめ、ん…月子さんは錫也の大事な人なのに…」

悪くない錫也に謝らせてしまったことに焦り口を開くとやはり涙が溢れ出した。私が泣いちゃだめなのに。

「大丈夫。さっきの言葉名前の本心じゃないこと分かってる。」

泣き続けるあたしの頭を撫でながら錫也は続ける。

「でも、俺は名前がいなきゃ生きていけないの知ってるくせに俺から離れるような言葉を言ったことに怒ってる。」

「あ、あたしだって錫也無しじゃ生きてけないよ。」

泣きながら錫也の胸に頭を押し付けたら頭の上で錫也がくすりと笑う。

「駄目だな、俺。」

錫也が私の頬を両手で挟み視線が合うように顔を上げさせられてしまう。泣いて顔ぐちゃぐちゃなのに…

「俺、今名前が月子に嫉妬して嬉しいって思った。」

いつもの優しい笑顔で錫也が涙を拭ってくれる。

「名前だけを愛してるよ。」

そしてその言葉と一緒に優しいキスが降ってきた。









ちょっと大人な君のキス


20110406

ありがちだがこんな感じにベタ甘な錫也が好きだから書きたかっただけです(笑)

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