急がば回れ


二曲目を再生し始めた時だった。
突如天井の一部に大きな穴が開き、今回の辻斬りの正体である岡田似蔵…紅桜に侵食され意識を乗っ取られている彼と、傷だらけで血まみれの銀さんが落ちてきた。

「銀さん!!」
「どうしてここに…!」

昨晩、辻斬り…もとい、岡田似蔵の手により大怪我を負っていたはず。昨日の今日で傷が癒えるはずも無い…。
そんな、満身創痍の状態で戦っていたというの…?
体は既に限界を超えているのだろう、新八くんが名前を呼んでも反応せずぐったりとしている。

似蔵はというと、紅桜の侵食により腕や肩を大量の配線ケーブルのようなモノに覆い尽くされていた。
紅桜に完全に意識を乗っ取られた体は、似蔵さん?と呼びかけた武市変平太と、止めようとした来島また子を容赦なく薙ぎ払う。敵も味方も今の彼には区別がつかない、いや、どうでもいいようだった。

「今の似蔵に近付くのは賢明にござらん」
「でしょうね。でも、このままじゃ銀さんが死んでしまう…!」

気絶したままの銀さんを持ち上げギチギチと締め上げる似蔵。早く引き離さないと銀さんが危ない。
私が斬り掛かるより早く、鮮やかな橙色の服を着た女の子がケーブルだらけの腕に刀を突き刺していた。

「鉄子ちゃん…!?」

どうしてあの子までこんな所に。


「死なせない!!コイツは死なせない!
これ以上その剣で人は死なせない!!」


必死に止める彼女に、邪魔だと言わんばかりに振り下ろされた紅桜。
彼女を守るべく刀を構えて受け止めるが思っていた以上の威力だ。鉄骨がぶつかる様な音と鈍い衝撃が腕に伝わる。

「っぐ…!!ひ弱な女の子に刀を向けるなんて…紳士的じゃないですよ…!」

先程船内で見た制作途中の紅桜はきちんと刀の形をしていたが、これは最早、刀というより鉄の塊だ。分厚いよ。厚さ何センチだよ。

「で〜か〜ぶ〜つ〜!!そのモジャモジャを!!」
「離せェェェ!!」

再度腕を振り上げた似蔵だったが、神楽ちゃんの強烈な蹴りによって倒れ、飛び乗った新八くんに刀を突き立てられた。

白濁した目を見開き獣のような唸り声を上げ、蠢く無数のケーブルが皮膚を突き破り生える姿は最早人間ではない別の何かに見える。
ケーブルはバチバチと火花を散らしていた。



▲▼



しがみつく私達を振り落とした似蔵は目の前に座り込む鉄子ちゃんに紅桜を振りかざす。
彼女が持っていた刀は似蔵に刺さったまま。丸腰状態の鉄子ちゃんの元に急いで駆け寄るが間に合わない…!

紅桜が床に食い込む勢いで叩きつけられた。


「あ、兄者ァァァ!!」

銀さんを守ろうと、扱い慣れない刀で似蔵に立ち向かった鉄子ちゃんを守ったのは、彼女の兄である鉄矢さんだった。紅桜が鉄子ちゃんの身を斬り裂く寸前、自らを顧みず身代わりとなったのだ。

「兄者ッ!!兄者しっかり!」

口から血を流し苦しげに表情を歪める姿に、鼻水が垂れるのも気にせず泣き叫ぶ鉄子ちゃん。出血が止まらない体を抱きしめる腕は小刻みに震えていた。


…良心や節度、様々なものを投げ打って己の全てを紅桜に捧げてきた。
私には剣しかない、剣以外要らないとさえ思っていた、剣以外の余計なものは全て捨ててきたつもりだった。
でも。

「最後の最後で、お前だけは………捨てられなんだか」

静かに語る鉄矢さんを抱きしめ涙ぐむ鉄子ちゃんの背後では、意識を取り戻した銀さんがふらつく足で立っていた。

「余計なモンなんかじゃねーよ。余計なモンなんかねーよ」
「銀さん…!そんな状態では…」

足元がおぼつかないそんな状態で、まだ戦うの。
大丈夫だから心配すんなって言うけど全然大丈夫じゃない。即入院レベルだよ、わかってるのか。
傷口が開いたのか白い着物は真っ赤に染まって濡れている。

「見とけ。てめーの言う余計なモンがどれだけの力を持ってるか。てめーの妹が魂こめて打ち込んだコイツの斬れ味、しかとその目ん玉に焼き付けな」

「無理だ!!正面からやり合って紅桜に…」

刀を構え、似蔵を見据えるその目は、普段から想像出来ない程鋭いものに変わる。
鋭い金属音が辺りに響き渡り、二人の姿が交差する。
真っ直ぐに振り下ろされた紅桜の刀身を折らんばかりに振るわれた刀は真っ二つに折れ宙を舞い、ザクりと床に突き刺さった。

無数のヒビが入った紅桜は粉々に砕け散り、まとわりつくように生えていた無数のケーブルも役目を終えたとばかりに崩れていく。
生身の人間に戻った似蔵はようやく動きを止めたのだった。

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