制服は二割増し

鬼兵隊がすぐ間近に迫るこの状況で隊士達が行動を起こさないと言う事は協力状態にあると見て100%間違いない。
なんてこった、よりによって鬼兵隊と内通してたなんて。悲しいやらショックやらで複雑な心境だ。でも、落ち込むのは後回し。まずは状況を整理しなければならない。

ジャスタウェイが仕掛けられた車両より前に近藤さんと伊東さんが居るのはほぼ確実。加えて緊急時にいち早く対処する為、前後の車両に隊士をまとめて配置しているだろう。
まともに突破するのは容易ではないけれど、書置きを残した総悟くんの事だ。境目にジャスタウェイを仕掛け、後方に配置された隊士をまとめて吹き飛ばす算段だな、これ。
だとしたら攻め込むタイミングは爆破の後になる。

と、なると。今は合図を待つのみ。…待つのみなんだけど、バイクごと乗り込んできた万斉さんを放置する訳にもいかない。どういう訳か敵意も殺意も全く感じないのだ、逆に怖い。
相手の出方を見るしかないのか…いやでもそんな悠長な事をしている場合では…。
なんて、考えてる場合じゃない。聞いてしまえ。


「一つ、聞きますが。何しにここへ?…私が聞くのもなんですが足止めしに来たんじゃないんですか?どちらにせよ近藤さんの暗殺は何がなんでも阻止させてもらいますけど」
「構わぬ。手を組んだとはいえ、そこまで介入するつもりはないでござる」
「……ええと、なら何しに来たんですか…」

バイクから降りようともせず、頬杖を付きこちらを眺め続ける万斉さん。三味線に刀をしまい込んだままだし、何度も言うが一体何しに来たのか。
……もしかして世間話?そんな間柄でもないけれど、だとしたらせめて日を改めてほしい。


「忠告しに来たのだ。…列車が橋に差し掛かったら前方車両から出来るだけ距離を取れ」

「…?それって、」


どういう意味。
あとに続く言葉は凄まじい爆発音とそれに伴う激しい揺れによって遮られた。
よろけて一歩、通路側へ踏み出した拍子に万斉さんの脚にもつれ、あっと思った瞬間には抱きとめられていた。慌てて離ようとしたが、両手首を掴まれ逆に引き寄せられる。

な、なんでェェエ!!
ヘッドフォンから漏れる音楽がなんの曲か分かってしまう程の距離だ。う、うわ、状況説明したら近すぎて恥ずかしくなってきた……うう、どれもこれも万斉さんの脚が長いせいだ。

「〜〜〜っ何なんですかもう、離して下さい!さっきの忠告もどういう事ですか!」
「立場上詳しくは話せぬが、お主を殺す気も死なす気も無いとだけ言っておこう」
「な、んですかそれ…」

答えになってないし、殺す気が無いのは前にも聞いたけど死なす気もないって、敵対する相手に掛ける言葉じゃないと思うんですが…!

言うことだけ言って、それ以上は何も語らずじまいだ。
パッと手を離したかと思うと何事も無かったかのようにエンジンを蒸かし、困惑する私の手首に熱だけを残して再び外へと走り去って行った。勝手な人だ。

列車は緩いカーブに差し掛かる。
遥か前方で吹き上がる黒煙は、さながら戦開始の狼煙であった。


▲▼


「君はもっと賢い子だと…僕にとって良い理解者になってくれると思っていたのだが、残念だ」
「こうなる前だったら素直に喜べました」

車両の繋ぎ目を挟んで伊東さんと向かい合う。
彼の背後では爆発の衝撃で割れた窓から黒煙が絶えず漏れ出している。

「彼を護って何になる。副長としての威厳を失った土方君など、君にとって負担でしかないだろうに」
「負担だなんて、とんでもない。この程度で音を上げるぐらいならとっくに補佐官辞めてましたよ」

妖刀を手にした土方さんはそりゃあもう、局中法度を破り放題、仕事もまともに出来なくなった。なんなら働いたら負けだと思ってるからね。
それに伴い、補佐である私の仕事が増えたのも事実。私まで白い目で見られたり陰口を吐かれたりしていたのも事実。

だけど、そんな事どうでもいいのだ。妖刀に食われんと必死に戦っている土方さんを、銀さんの呼び掛けに僅かでも応えた土方さんを、補佐の私が信じなくてどうするの。
失った信用なら、どれだけ時間がかかろうが少しずつ取り戻していけばいい。
私はそれに、とことん付き合うつもりだ。

「面倒事には慣れっこです。それに、土方さんから副長補佐を解任すると言われない限り、私はあの人の部下ですから」
「本当に、君のような従順な子は僕の下に就くべきだったんだ。僕ならもっと、君の強みを生かせたというのに…!」

従順って、私はそんなにいい子じゃないですよ伊東さん。
時には反発するし総悟くんとえげつない悪戯をする事だって多い。従順なフリをして飼い主の手を噛む犬みたいなものだ。

どうして。何故。と呟く伊東さんの眉間には深い皺が寄せられている。表情こそ厳しいものだが、私を見る目は何処と無く憂いを帯びていて、それは仕事中や屯所に居る時、ふとした瞬間に見せていたものと同じものだと気付く。
伊東さん、今何を考えているの。

「近藤は僕の計画通り死ぬ…!土方君も直ぐに同じ所へ送ってやるさ…君達の真選組は、今日が最後だ」

フン、と鼻を鳴らし、連結部を跨いで私の真横を通り過ぎる。そのまま歩みを止めること無く後方車両へと向かって行った。
早く近藤さんと総悟くんの元に向かわなければと思う反面、先程見せられた伊東さんの目が、寂しさを感じさせる目が気になって仕方が無かった。

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