長所と短所は紙一重

繁華街を抜け、線路と並行に伸びる苅田の畦道を走り続ける。列車はまだ見えない。
土方さん近藤さんの暗殺計画、私の捕獲計画を知った新八くんは困惑に充ちた表情で私に視線を向けた。

「焼肉で盛り上がっちゃいましたけど!なんで名前さんまで…」
「二人の暗殺計画を進める上で、副長補佐は邪魔になっちゃうのよ新八くん」
「邪魔って…こんなの、自ら捕まりに行くようなものじゃないですか!いいんですか土方さん…!このままじゃあなたの大切な人が…大切なものが…全部無くなっちゃうかもしれないんですよ!!」

いつもの土方さんだったら、真っ先に指揮を取り部下を動かしている。…いつもの土方さんだったら、きっと一人でも敵陣に乗り込んで近藤さんを奪還しようと動くはず。
でも。自分の守るべき存在が命の危機に晒されていようが彼の魂を食った妖刀にとっては関係の無い事。都合良く呪いが解けるなんて事がある訳ない…つまり自ら呪いに打ち勝つしか元に戻る方法はないのだが、当の本人はこの事態から顔を背け、僕は知らないとうわ言を繰り返す始末。
しっかりして下さい!と呼び掛ける新八くんの声が届いているのかすら分からない。

そんな状態の土方さんに代わり、無線を全車両から本部まで繋げた銀さんは、伊東派だかマヨネーズ派だかしらねーが全ての税金泥棒共に告ぐ。今すぐ持ち場を離れて近藤の乗った列車を追え!もたもたしてたらテメーらの大将首取られちゃうよ〜と、口調こそふざけてはいるがテキパキと指示を出し始めた。

「こいつは命令だ。背いたやつには士道不覚悟で切腹してもらいまーす」
«イタズラかァ!?テメェ誰だ!!»

あっこのドスの効いたチンピラみたいな声は原田さんだ。強面だから誤解されやすいけど、とっても優しい。原田さんと退くんと私で飲みに行った時なんて、酔い潰れた退くんを介抱し屯所までおぶって連れ帰る…って話が逸れた。
まあ、誰が聞いたってイタズラだと思いますよね。伊東さんの事を良く思っていないにしても、まさか近藤さんを暗殺しようとしているなんて思っていないだろうし、ましてや真選組の中でこんな口調で無線飛ばす人いないもの。

「てめっ誰に口きいてんだ。誰だと?真選組副長、土方十四郎だコノヤロー!!」

半ば怒鳴るようにして土方さんの名を名乗った銀さん。持っていた無線機を力任せにガチャンと叩き付け、深く息を吐く。

「銀さん…?」
「…腑抜けたツラは見飽きたぜ。丁度いい、真選組が消えるならテメーも一緒に消えればいい。名前ちゃん送り届けるついでに墓場まで送ってやらァ」

墓場、か。
あながち間違ってないかもしれない。近藤さんを討たれたら真選組の負け。あの列車が墓場に、今日が真選組最期の日となるか否か、自分達に懸かっているのだから。

その言葉に冗談じゃない!と反発する土方さんだったが、運転席から後部座席へ身を乗り出した銀さんに胸ぐらを掴まれ黙り込んだ。
行きたくないだろうし、何より怖いのだろう。パトカーに乗り込んだ時から私の隊服を握り締めたままだ。今の土方さんはただのヘタレオタク、死ぬかもしれない場所へ連れて行かれる恐怖は相当なものだろう……だけど、そろそろ元に戻ってもらわないと困る。
荒治療で行きますよと声を掛けると、目を見開いてサアと顔を青くした。

いつまで経ってもヘタレたままの土方さんに痺れを切らし、襟元を掴み上げる手により一層力を込めた銀さんのこめかみに青筋が浮かぶ。

「てめーが人にもの頼むタマか。てめーが真選組他人に押し付けてくたばるタマか。くたばるなら大事なもんの傍らで剣振り回してくたばりやがれ!!それが土方十四郎だろーが!!」

「………ってーな」
「!」

低い声で唸るように吐かれた言葉。
縋るように隊服を握っていた手はいつの間にか銀さんの手首をミシミシと握り締めており、俯いたまま睨み付ける目は鋭いものに変わっている。
瞳孔が開いてる…と言う事は…。

「痛ェって…言ってんだろーがァァァ!!」

異常に気付き目を見開いた銀さんは避ける間もなく顔面を鷲掴みにされ、勢いそのままに冷暖房のダイヤルやら無線機やらが設置された箇所へ思い切り叩き付けられた。衝撃で破片が飛び散り無線機は白煙を上げているが、パトカー自体がボロボロだし気にするだけ無駄か。

さて、後頭部を強かに打ち付けた銀さんも気になるがまずは土方さんだ。こちらに背を向けているから表情までは分からないけど、これは元に戻ったという事で良いのかな…!


▲▼


あんなに遠かった列車との距離もパトカーを飛ばしたおかげでぐんぐん縮まり、後方車両と並走するまでとなった。出来るだけ車を近付けてもらい車両最後尾の僅かなスペースへ飛び移る。

名前さん!と呼ばれ振り返ると、全開にした後部座席の窓から新八くんと土方さんが並んで顔を出していた。…それは狭くない?
無事に帰ってきて下さいね!と叫ぶ新八くんとは対照的に、何か言いたそうに口を開けたり閉じたりしている土方さん。
あの後すぐにヘタレオタクに戻ってしまい、正気を取り戻したと期待しただけにちょっと残念ではあったが…大丈夫、まだ可能性がある。

「先に行って待ってます。土方さんが来てくれるの、信じて待っていますから…!」
「名前氏…信じてるだなんて、そ、そんな事言われたら拙者、照れるでござる…!」
「照れるような事言ってませんけど?」

うん、一切言ってない。
何ならキャラ被ってるんですよ土方さん。一人称が拙者で語尾にござるを付ける人は一人で十分だよ!
頬を赤らめてもじもじし出す土方さんとか、この場に総悟くんが居たら完全にネタにされてた。

そんな事を考えていると今度は運転席側の窓が開き、銀さんとハンドルの間に無理やり体を捩じ込ませた神楽ちゃんが窓から身を乗り出してきた。

「任せろアル!すぐに瞳孔開いたニコチンヤローに戻してやるネ!銀ちゃんが!」
「オイィ!また後頭部ぶつけろってのか冗談じゃねーぞ!つーか全然前見えないんですけどォォ!!」

運転席でジタバタ暴れる神楽ちゃんと押さえようとする銀さん。レディの体に触るなんてセクハラヨ!と訴える神楽ちゃんに蹴られ、その拍子に思い切りアクセルを踏んだのか、鈍い発進音と土埃を連れて走り去って行った。

「…頭ぶつける云々の前に事故らないように祈ってますね」


さてと。近藤さん奪還と行きますか。
恐らく中央部、もしくは前方に集まって乗るだろうからこんな後ろの車両にはいないと思うけど…見張りが居るかもしれない。ドア窓からそっと中を覗くが…無人だった。

中に入り様子を見ていると座席にぽつんと置かれた二つ折りの紙を見つけた。
…なんだこれ。
何なに?ここから三つ目の車両にジャスタウェイを仕掛けたので気を付けてくだせェBy沖田…。ジャスタウェイって気の抜けた顔の付いた小型爆弾じゃなかったっけ……ん?列車爆破するの?

どのタイミングで爆破されるのかも気になるがそれよりも。先程まで無かった外の騒がしさが気になり目を向けると、鬼と書かれた旗を掲げた無数の車が列車の横を走っていた。

「なんで鬼兵隊が…」

内輪の揉め事を聞き付け好機とばかりに追ってきた…?いや、情報が漏れたにしても、暗殺計画を隊士が知らないのに鬼兵隊が知っているのはおかしい。
…と言う事は、内通者がいる?

考えを巡らせていたがすぐ近くで唸るバイク音に思考を邪魔される。先程開けたドアに目をやると開け放したドアの外、線路内を走る一台の黒い大型バイク。乗っているのは、万斉さんだ。
バイク特有の走行音を立てて一気に加速しこちらに向かってくる。
待って、もしかしなくても乗り上げるつもり!?
飛び上がったバイクに慌てて通路から座席側に身を引くと、さっきまで私が立っていた場所にダン!と音を立てて着地した。轢くつもりか。

「後方の見張り役はお主か」
「…えぇ、そうですが何か?」
「いや、てっきり打ち合わせの時に連れていた隊士を見張りに充てるのだと思っていたのでな。見ない顔だから気になっただけでござる。…ところでそれはイメチェンでござるか名前殿」
「分かっているなら初めから言ってくださいよ…!」

似合ってるとか言うんじゃない…!調子が狂う!

今日の男装、普段から顔を合わせている隊士達にもバレなかったのに。声色も変えて結構自信があっただけに悔しい。
変装を見破った万斉さんはハンドルに頬杖を付き緩く口角を上げ一言、魂のリズムでござると呟いた。なんだそりゃ、魂のリズムとは一体…。

「名前殿がどんなに姿を変えたとしても、魂のリズムが、歌が聞こえる拙者には通用しないでござるよ」
「難しい話は分かりませんけど、つまり話す前から私だって分かってたんですね…」

ちょっとずるい。

「そうむくれるな、変装自体は完璧だった。相手が悪かっただけでござる」

内心凹んだ心情もリズムとやらで伝わってしまったのか慰められてしまった。若干気が楽になったのも事実だが、相手が相手なだけに複雑な気持ちである。

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