マニアは3つ欲しい


先程から何度も着信があるが生憎出られる状況じゃない。と言うのも、伊東さんに付いた隊士の十数人が土方さんを暗殺すべく朝から街中を捜し回っており、私も同行しているのだ。
…理由は後程お話しよう。

彼が行きそうな定食屋や本屋等で聞き込みを行うも情報は得られず、マヨボロを取り扱っているコンビニにも寄ってみたが見ていないし、お宅の上司用にマヨボロ仕入れているんだから買いに来てくれないと在庫の関係上困るんだよね〜とネチネチ言われてしまった。
性格が変わって嗜好も変化したのかな、前々から思っていたけどマヨボロって一体どんな味なんだ…。

一緒に行動していた山田くんに一旦戻りましょうと言われ、少し離れた所に停めたパトカーまで歩いて向かっている時だった。
前方に停車した他の隊のパトカー。それを飛び越えて逃げる万事屋の三人+襟を掴まれ引っ張られて行く土方さん、それを追う隊士達…の姿を見た瞬間、脇目も振らず走り出していた。
え!ちょっと!と叫ぶ山田くんを放置し、路地裏へと入り四人が居るであろう通りへ走る。

ここで逃したら色々とまずい。と考えているのは向こうも同じだろう。
車一台がギリギリ通れる路地に入り、側面やサイドミラーを擦りながらも四人を追うパトカーは真正面から神楽ちゃんに止められ、その衝撃で車体は浮き上がり波打ったような歪みが生じた。乗っていた隊士は銀さんによって外に放り出され、気絶して倒れている。
壁に背を預けて座り込む土方さんと新八くんに近付くと、私に気付いた新八くんの顔がサッと青ざめた。
あっ誤解されてる。

「は、挟まれたァァァ!!何やってんですか土方さん!フィギュアの無事を確認するのは後でいいだろォォ!早く逃げて下さい!!」
「悪いがソイツを斬られる訳にはいかねーんだわ。止めさせてもらうぜ、兄ちゃん」

そう。今の私は一般的な隊服を着用し、インソールで身長を盛り、短髪のウイッグを被り黒縁の眼鏡をかけた男の姿をしている。
伊東派の隊士達に紛れ込み、彼等が暗殺を実行するより早く土方さんを見つけ、保護する必要があったのだ。
どうやら上手く男に化けられたようで、私だと気付いていない銀さん達から殺気を向けられている。
ただ一人、目を見開いて私を見る土方さんを除いては。

「…名前氏?この、白くて細い指…!白檀とシャンプーの香料が混ざった香りは名前氏でござるな!?ほおお!そしてこの格好!紛れも無い男装女子というやつでござるな!?これはかなりのクオリティだよ…!写真撮らせてもらっても…」
「よかねーよ!!少しは外聞を憚りやがれテメーはよォォ!!」

私の手をがっちり握り至近距離で深呼吸をしていた土方さんは銀さんによって引き剥がされていった。新八くんと神楽ちゃんは二人揃って目を真ん丸にしている。

「土方さんの言う通り、私だよ」
「え、ええぇ!?本当に名前さん!?なんで男の格好を…!」
「名前ちゃんめちゃんこかっこいいアル!私好みの優男ネ!」
「わ〜ありがとう神楽ちゃん。…ちょっと真選組でゴタゴタがあってね、私だとバレない格好をしていないと都合が悪くて」

きっと応援を呼んでいるはずだから、伊東派の隊士が来る前にこの場を離れたい旨を伝えると、それまで土方さんのお尻を叩いていた銀さんが戻って来た。
しゃあないなといった顔をして変形したパトカーの運転席へと乗り込み、親指で後部座席を指す。

「乗れよ、ここに居たって状況が変わるわけじゃねーだろ。とりあえずここから離れるぞ」
「あ、ありがとうございます…!ではこのまま通りを出て、線路に沿って走らせて下さい!」
「え?とりあえずって言ったんだけど目的地まで乗せて行く流れ?」

助手席に神楽ちゃん、後部座席に新八くん、私、土方さんの並びで乗り込む。ぶつぶつ呟きながら思い切りアクセルを踏み込んだ銀さんは、路地の入り口に停めてあったパトカーを車体ごと体当たりして跳ね飛ばし、急ハンドルを切って通りを爆走し始めた。
…土方さんが上げた女々しい悲鳴は聞かなかった事にしてあげよう。


▲▼


現状把握の為、三番隊と偽って無線を繋ぐ。
得られた情報は、土方さんと近藤さんの暗殺計画を遂行せよというもの。両者が消えれば真選組は伊東派に恭順するはずとも言っていた。
ここまでは私も知っている情報だが…新たに追加されたであろう、昨夜未明から行方を眩ませている名字を見つけ次第捕えろという命令には失笑してしまった。
見つけるも何も、先程まで一緒に行動してたじゃないか…男装した私と!まぁ、几帳面で用心深い伊東さんの事だ、不安要素は全て取り除いておきたいんだろうね。

「土方さんは皆さんの助けの甲斐あってなんとか保護出来ましたが、近藤さんが…」

伊東さんを信用しきっている近藤さんは隊士達に刀の切っ先を向けられ、故郷である武州行きの列車内で暗殺されるとは微塵も思っていないだろう。
真選組随一の剣の腕を持つ総悟くんが同行しているとはいえ、相手は真選組として刀を振るってきた隊士の集まりだ。加えてその数も多い。

「あのさぁ名前ちゃん。こんな事言いたくねーんだけど、お宅の副長さんに朝から振り回されてんのよ。刀の呪いだかなんだか知らねーが、ヘタレた自分の代わりに真選組を守ってくれって頼まれちまうし、これから囚われのゴリラ助けに行くんだろ?俺ら無関係だよね?…正直名前ちゃんの連絡先教えてもらうぐらいしないとやってられないんだよね」
「ただ単に名前さんの連絡先知りたいだけでしょ銀さん」
「そうですよね…さすがに巻き込んだらご迷惑ですよね。……手伝ってもらう代わりに私の連絡先+柔々苑の焼肉でも、と思っていたんですが…」
「よーし任せな!どこまででも連れてってやる」

一瞬の手のひら返し、焼肉の力って凄い。
ちゃんとした報酬は近藤さんか土方さんに掛け合ってもらおう。その為にも無事に助け出さなければならない。


※柔々苑…叙〇苑に匹敵する美味しさとお肉の柔らかさが売りのお高い焼肉店。

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