掟は破るためにこそある


鍛冶屋で曰く付きの刀を入手した日から土方さんの様子が目に見えておかしくなった。

浪士達に土下座と命乞いをしただけで止まるはずもなく、朝の会議で携帯を鳴らし電話に出たり、情報を聞き出す為に拷問していた浪士と仲良く恋バナを始め、最終的に逃がしてしまったり。マガジン以外の漫画を局内で読む事を禁じているはずが、ジャンプの回し読みをしていた隊士達に混ざりToLOVEるって面白いよね〜と言ってみたり。

なんだかんだで、局中法度を十は破ってしまっている。自室に至っては、ほんの数日の間に美少女アニメのDVDやフィギュアで埋め尽くされてしまっていた。

当の本人からこの現状を聞かされた総悟くんは、自分達が喫茶店にいる事を忘れているかのような盛大な笑い声を上げた。

「…だから言うのヤだったんだよ。信じてねーだろお前ら、信じるわけねーだろお前ら」
「局中法度破りまくりはまずいですね…あっでも、ジャンプ派になるのはいい事だと思いますよ!ToLOVEる私も好きですし」
「ジャンプに浮気するつもりはねェよ…つーかフォローするとこ違くない?」

妖刀により自分の意思とは関係なく人が誰しも持っているヘタレた部分が目覚め、表に顔を出し始めた結果がこれだと。
紫煙を吐き、真面目な顔で話す土方さんだったが「刀のせいにしちゃいけねーや、元々ヘタレでしょ」と言われ、反論する事もなく背中を丸めてしゅんとしてしまった。あ、ヘタレた部分が出たな。
隣で紅茶を飲みながら様子を見ていると、一度灰皿に置いた煙草を咥え直し、奇行の原因である妖刀でコーヒーに入れたミルクを混ぜ始めた。
…ふむ、それがスプーンに見えるのか。

「思いっきり使用用途間違ってますけど、視覚にも影響が出てるんですか?」
「言うな名前…もう手から離れねェんだよ」

無意識のうちに厠や風呂場にまで持ち込んでしまっているようで、どんなに離そうとしてもてんで駄目らしい。刀を所持していた鍛冶屋のおじちゃんも数日前から店を空けており対処方法が分からない。やっぱり話を聞くべきだったんだよ。

「土方さん。こんな時にウカウカしてたら伊東さんに副長の座奪われますぜ。あの人、隊内でアンタの悪評ふれ回ってますよ」
「悪い噂ほど広まるのは早いですからね。これ以上はまずいです」

近藤さんの説得で切腹は免れているが、それも時間の問題だ。
土方さんを慕っていた隊士達の中にも冷たい目を向ける者が出て来た以上、今後の問題行動は避けなければならない。副長補佐としてサポートできることはしなければ。

そう、思っていたのに。


その日の夕方。
重役会議に遅刻するという失態を犯した土方さんは、議題に挙げられた最近の問題行動に対する処罰として無期限の謹慎処分を言い渡された。
局中法度を作り上げた土方さんだからこそ、真選組の象徴である彼だからこそ、厳しい処罰が必要だと。そう主張する伊東さんが許さない限り、簡単には戻ってこれないだろう。
事実上の更迭を意味する処罰に、頭を抱えてしまった。

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