最近のは色々機能付きすぎ


「新しい刀、ですか」

近藤さんに呼ばれて向かった部屋にはたくさんの刀が風呂敷の上に並べられていた。長期間の出張を終え久しぶりに真選組へ戻って来る伊東さんが送ってきた品らしく、どれも巷で噂の最新モデルの刀ばかりだ。
近藤さんはコロコロ付きの虎鉄Z-U、総悟くんは音楽プレーヤーが搭載された菊一文字RX-7を選んだようで、早速使い心地を確かめている。RX-7…白いマツダ車が頭を過る。

とりあえず飾り気のない一番無難そうな刀を選んで腰に差し、屯所の入口で待つ土方さんの元へ向かう。
今日は刃こぼれしてしまった刀を直してもらう為、普段から真選組がお世話になっている鍛冶屋に土方さんと一緒に行く予定なのだ。

「お待たせしました、無難なの探してたら時間かかっちゃって。…あれ、土方さんは貰わなかったんですか?」
「妙な機能の付いた刀なんざ必要ねェ、刀は斬れればいいんだ。気になるモンも無かったしな」
「なんと言うか、土方さんらしい答えですね」

機能が付いた事で斬れ味だったり耐久面に影響が出たら元も子ないですもんねーと言いつつ、土方さんが気になる刀ってどんなモノだろうと考えてみたのだが。マヨネーズを模したデザイン、もしくは柄の部分がマヨカラーの刀か灰皿付きの刀しか浮かんでこなかった。



土方さんの刀を見た鍛冶師は眉間にシワを寄せ、相変わらず無茶な使い方をしておる、刀は鍛えりゃ使えるが人間はそうはいかんぞと苦言を吐いた。

「人間も折れなきゃまた叩き上げられるだろ」
「刀がこんな様になっちまう戦い方してたらそのうちお前さんもポッキリ折れると言っておる。嬢ちゃんもだぞ、どうやったらこんなに刃こぼれするんだ…岩でも斬ったんか」
「えへ、ちょっと分厚い鉄の板みたいなモノを…」

お気づきの通り、刀身がボロボロになった原因は似蔵に寄生した紅桜と刀を交えたからである。刃は欠けてしまったけれど、紅桜をまともに受け止めても折れずに耐えてくれただけ立派だと褒めてあげたい。
おじちゃんに綺麗に直してもらってね…それまでの間は伊東さんから頂いた刀を使わせてもらおう。

代わりの刀と言えば、土方さんはどうするんだろう。鍛冶屋に足を踏み入れてからある刀を食い入るように見つめている。やがて刀を手に取り眺め、いい刀だなと呟いた。それを借りるつもりなのだろうか。
直るまでの間貸してくれと言ったが、曰く付きの刀だから駄目だと即答され不機嫌そうに眉を寄せた。なんでも呪われているらしく、並の使い手では持ち主の魂が食われてしまい、到底扱える代物では無いのだとか。

「まずいですよ妖刀ってヤツですよ。土方さんおばけの類い苦手じゃないですか。別のにしましょう」
「なッ…なに言ってやがる!別にビビってませんけど!?」
「しっかり怖がってるじゃないですか。またマヨネーズ王国の入口が〜って壺の中に顔突っ込まれても反応に困っちゃうんですけど」

覚えてますからね。ベルトコンベヤーに挟まれて亡くなった霊…じゃなかった、蚊の天人が出た時のビビり様を。まさか副長命令で厠まで着いて来てこいと言われるとは思っていなかった。

土方さんも、刀が呪われているという点がどうも気になっているようだが、手は刀を握ったまま全く離そうとしない。そんなに気に入ってしまったのか…或いは気に入られてしまったのか。
そんな様子の土方さんに深いため息を吐いたおじちゃんは厳しい顔付きで話し始めた。

「…少し、昔話に付き合ってくれるか。その妖刀にまつわる悲しき輪廻の物語を」


▲▼


結局聞かなかった。
じーさんの話は長いからという理由で、ろくに話も聞かずに刀を持ったまま鍛冶屋から出てきてしまった。
人の話は最後まで聞きなさいって注意したが、お昼に行こうとしていた洋食店のランチタイムに間に合わなくなるぞ。と言う一言には勝てなかった。限定十食のとろとろ卵のオムライス美味しかったです。

そしてその帰り道。攘夷浪士達に遭遇し、刀の斬れ味を確かめようと柄に手を掛けた瞬間「すいまっせーん!!」と叫びながら綺麗な土下座を決めたのだ。
…誰がって、土方さんが。

「命だけは勘弁して下さいィィ!!草履の裏でも何でも舐めますんでェェ!!」
「えっ、え、土方さん…?」

何事?攘夷浪士相手に命乞いだなんてありえませんよ土方さん!むしろ命乞いされる側でしょ土方さん!Suicaは勘弁して下さいとか言ってる場合じゃない。

まさかの行動に呆気にとられた攘夷浪士達だったが、あの土方十四郎が命乞いをするとはなんてザマだ!ブハハと言う下品な笑い声を上げ、土下座をしたままの頭を踏み付けた。
副長を、土方さんを足蹴にされてじっとしている程、私は大人しい補佐官ではない。便乗して蹴ろうとしていた男の腹部を一突きし、未だに頭を踏み続ける失礼極まりない男の足に短刀を深々と突き刺した。

「…失礼、手が滑っちゃいましたね」
「柄まで刺しやがって何言ってやがるこのアマァ!!」
「すいまっせーん!!」
「土方さん、ややこしくなるのでお口チャックでお願いします」

一斉に刀を振り上げて来た攘夷浪士達から土方さんを庇う様に立ち刀を振るう。すぐに片がつき、力無く地に転がった浪士達の中に立ち、すっかり血に濡れた刀身に小さくため息を吐いた。
屯所に戻ったら巻藁でも使って試し斬りをしようと思ってたのに…まぁ、土方さんに怪我は無かったし無事だったからいいか。…別の意味で無事じゃないけど。

地面に手を着いたまま呆然とした表情の土方さんの前にしゃがみ込み、踏まれて汚れてしまった髪や隊服の土埃を払う。背後に見知った気配と砂利を踏む足音が聞こえ振り返ると、よくやったという言葉と共に頭に大きな手が乗せられた。

「真選組隊士が襲われていると思い駆け付けてみたら、こんな所で何をやっている。土方君」

私達と同じ隊服、蜂蜜色の髪とスクエア眼鏡。
土方さんにとってこんな場面を一番見られたくなかった人であろう、伊東さんがそこにいた。


▲▼


「伊東鴨太郎君の帰陣を祝して!かんぱーい!」

近藤さんの挨拶で始まった伊東さんの帰陣祝い。
上座には近藤さんを挟んで伊東さんと土方さんが座り、酒を飲みながらなにやら難しい話をしている。

丁度良い感じに酒が入った伊東さんは立ち上がり、昏迷するこの国を救う為さらに上を目指して邁進せねばならない!と、声を大にして諭している。近藤さんも満更ではない様子だ。
隣で酒を飲み刺身を頬張る退くんは、またやってるよご高説…と半開きの目で眺めている。

「ウチに入って一年余りの新参者なのに”参謀”」なんてポスト貰っちゃってさぁ…」
「真選組って武闘派の集まりですからね。政治方面が出来る人は伊東さんしかいませんし頼りにされてるんですよ、きっと」

インテリな見た目通り頭はキレるし仕事は出来るしさらには北斗一刀流免許皆伝という、まさに文武両道そのもの。
真選組の頭脳と称される土方さんも感が鋭く勿論頭もキレるが、それはあくまでも戦術家としてだ。政治面に強い伊東さんは重宝されているのだろう。

「いいよなァ…俺なんて真選組結成時から居るのに、未だにいてもいなくても変わんないような地味な奴呼ばわりだよ」
「何言ってんですか。確かに地味ですけど、退くんは優秀な諜報員です。お通ちゃんを助け出した時なんてかっこよかったですよ!地味さが強味ってなかなか無いんですから自信持って下さい」
「名前ちゃ〜ん…褒めてるのか貶してるのか分からないよ…」

完全に出来上がっているのか、お猪口片手に寄りかかる退くんの目はとろんとしている。
わ〜飲み過ぎだ。今にも落としそうなお猪口を預かり背中をとんとんしてやるとすぐに寝息を立て始め、傍で飲んでいた原田さんによって床に寝かされた。…寝ちゃった。

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