僕が僕であるために


2時17分、公務執行妨害で逮捕。
宣伝カーの中で揉めているようだ。会話はダダ漏れだし車体は左右にガッタンガッタン揺れ動いている。手錠をかけられ動きが制限されている事を感じさせない暴れっぷりだ。

「一日局長やることになったから協力してほしいってお通ちゃん個人に雇われたんです!」
「いい子だよありゃ、たった今日一日の為に自腹で俺達を雇ったんだから」
「その気持ちをお前らは踏みにじったアル!」

「お前らが踏みにじったの!!」

あれ?そう言えばお通ちゃんの姿が見えない。隣に立つ総悟くんもその事が気になっていたようで辺りを見渡し首を傾げている。
女の子が黙って居なくなる=ウンコ的なアレに決まってるだろうと言った近藤さんは新八くんの変なスイッチを押してしまったようで、お通ちゃんはオナラもウンコもしないしうずらみたいなカワイイ卵で出てくるんだ!!と噛み付かれていた。

お通ちゃん、本当にどこ行っちゃったんだろ。
土方さんに断りを入れ周辺を探してみたものの、真選組の隊服を着た彼女の姿は見付からない。
時刻は正午を過ぎ、大通りともあって人通りはどんどん増している。


「これは…見つけられる気がしない……」

「確かに。この往来が激しい中で捜し出すのは骨が折れるであろうな」
「…困りましたね、お目当てじゃない人を見つけ出してしまいました」

冷たいでござる、じゃない。
真選組がテロ用心を呼びかけている傍で何してるんですか万斉さん。…え?今日もオフですか、それはそれは。生憎私は仕事中です。人捜しの真っ最中でして。

「捜しているのは彼女であろう?彼処にいるでござるよ」

指差した方に目をやると、多くの人達がビルの前に集まっている。どうやらデジタルサイネージに映るニュース速報を見ているようだ。釣られるように画面に目をやると、立てこもり事件の人質に取られたお通ちゃんの姿があった。
いつの間に…!誠ちゃんじゃないが、まさにやっちゃったな〜、である。

「コレ結構まずいんじゃ…。一応聞きますが万斉さん達は関わって…って、居ない…!」

さっきまで真後ろに居たのに、いつの間にか雑踏の中に姿を消してしまっていた。
なぜ捜している人がお通ちゃんだと知っていたのか、他にも聞きたい事があったのに…、というか何しに来たんだあの人。



▲▼



お通ちゃんが捕えられている異菩寺前。
寺の敷地内には大勢のマスコミと野次馬達が集まっている。なんでも、人気アイドルであるお通ちゃんの誘拐と、最近頻繁に起こっていた婦女誘拐事件が同一犯によるものだと判明したのだ。メディアが注目しないわけが無い。
一連の事件は天狗党という攘夷浪士集団によるものであり、人質解放の条件は真選組に捕えられた攘夷浪士の解放と真選組の解散、要求が通らない場合は人質全員を殺害すると声明を上げており、打開策が出るまで時間稼ぎを行う事になった。

少しでも長く時間を稼ぐ為適当な理由を付けて筆談でのやり取りに変更し、天狗党の指示で土方さんが三回まわってワンと鳴いたり(無駄にかっこよく決めようとして逆に恥ずかしい事になった)、腹が減ったからカレーを作れと言われたり。
出来上がるまでの間にもロボットダンスをやれだのモノマネをやれだの言い始め、それが原因で土方さんと総悟くんは喧嘩を始めた。

「近藤さん、真選組の印象を良くするとか言ってましたけど、良くなるどころかどんどん悪化してますよ。…カレー美味しいですか、近藤さん」
「局長がカレーの国に逃げたァァァ!!」

現実逃避中なのか、虚ろな目で黙々とカレーを頬張る近藤さん。土方さんと総悟くんの喧嘩も終わりそうにない。
だめだ、上に立つ人間が揃いも揃ってこの状態では。縋るように見つめてくる隊士達の視線を背に感じながら、地面に投げ出されたホワイトボードとペンを拾い上げ、静かに掲げた。



▲▼



時間稼ぎも限界が来たようだ。
局長を斬れと指示を出した天狗党のリーダーらしき男は、要求を飲めないなら代わりににこの女が死ぬだけと言い、両手を縛られたお通ちゃんを手摺に押し付けてこちらの出方を伺っている。

「調子に乗りやがって、局長を…」
「痔なんですかって聞いたのがまずかったのかな」
「もうちょっとオブラートに包むべきでしたぜ姉御。せめてお尻の穴が痛いの?とか」
「詳しく説明してどうするのよ総悟くん。オブラートどこ行ったの」
「いや、カンケーねーから!!痔でもないからァァ!!」

相当な地獄耳なのか痔というワードに敏感なのか。恐らく後者だろう、話が聞こえていたらしく痔じゃないから!違うから!!と猛否定している。
そんなに否定してると逆に怪しいよオジサン。本当はドーナツクッション使ってるんでしょ、痔にはボラギ〇ールだよ。
生暖かい目で見上げると、目頭を押さえて後ろを向いてしまった。

一方、両手にカレー皿を乗せた誠ちゃんは異菩寺の入口に立つ見張り番の顔面に熱々のそれを叩き付けていた。倒れた見張り番を跨いで内部へと入って行く。
それを見届けた近藤さんは黙って前へ出て、私達の方を向き隊服の上着を脱ぎ捨てた。冗談は止めてください!と、止める隊士達を手で制し、覚悟を決めた表情で大きく息を吸い込んだ。

「お通ちゃん、すまなんだ!色々手伝ってもらってなんだが結局俺達はこーいう連中です!もがいてみたが、なんにも変われなんだ!」

お通ちゃんに一日局長として真選組のイメージアップに務めてもらったけれど、結局バカで粗野で嫌われ者のムサイ連中である事に変わりない。一朝一夕で改善出来るものでは無いのだと。
それでも、お通ちゃんの言う通りもがき、改めて自分達を見つめ直して気付いた事があると。

「どれだけ人に嫌われようが、どんだけ人に笑われようがかまやしない!ただ、護るべきものも護れん不甲斐ない男にだけは、絶対になりたくないんだとね!」

剣を抜け!!と叫んだ近藤さんを取り囲むように立ち、刀の柄に手を掛ける。

「護らなきゃならねーモンがお前達にはあるはずだ!…さあ、かかって来やがれ!」

左右に立つ土方さんと総悟くんが小さく頷く。タイミングを合わせ、目の前でどっしり構える近藤さんの体めがけて走り、一斉に刀を突き刺す……フリをした。
四方八方から刺されて苦しげに顔を歪める迫真の演技に見事騙されてくれた天狗党。一緒に一部始終を見ていたお通ちゃんは目を見開き悲痛な叫び声を上げた。
…ごめんね、もう少しだけ騙されててね。

その隙をつき、異菩寺に侵入していた誠ちゃんは誘拐された婦女を逃がし、女性に扮して誘拐事件の潜入捜査を行っていた退くんは、お通ちゃんを抱きかかえ躊躇せずに飛び降りた。
地上までかなりの高さがあったが綺麗に着地し、怪我もない様子。地味だのなんだの言われている退くんだけど、仕事はしっかりこなせる出来た子なのだ。女装姿も久々に見たけどなかなか可愛いじゃないの。

人質を奪われた事で一気に不利な状況へと追い込まれた天狗党に、最後の仕上げをしてあげないとね。
隊員全員でバズーカを構え、異菩寺の最上部へ狙いを定める。無数の砲口を向けられ狼狽える彼等に、ニタリと笑った近藤さんは口を開いた。

「さよ〜なラーメン替え玉」

さよならの言葉と共に放たれたバズーカは見事命中し、衝撃で気絶した天狗党は全員逮捕。
寺院は半壊したが誘拐事件で捕えられていた何人もの婦女を解放し、お通ちゃんも無事に助け出すことに成功した真選組は、またやった!との見出し付きで翌日の新聞の一面を飾ったのであった。

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