備えあれば憂いなし


「おーう邪魔だ邪魔だァァ!!」
「万事屋銀ちゃんがお通りでェェェ!!」

行方不明だった桂さんを見つけ出し、量産していた紅桜と似蔵の持っていた(と言うより寄生していた)紅桜も破壊した。もうやる事は無いはず。

脱出する為に船内から出ると、鬼兵隊と攘夷浪士の争いに混ざる天人の姿があった。
すぐ近くには宇宙海賊春雨の船が停留している。なるほど、高杉は春雨と手を結んでいたってことね。
それにしても天人の数、多すぎないか。前方からはもちろん、後ろからも群がって来る。まるで甘い物に集まる蟻のようだ。
ああもう埒が明かない。

「邪魔だって言ってるでしょうが!半分死にかかってる重傷患者がいるんだよ!!」
「おーい名前ちゃん?銀さんまだ生きてるから勝手に死なすなー」

さっさと地上に帰らせて!
少々声を荒げつつも手を休めること無く刀を振るう。先程対峙した河上万斉と岡田似蔵に比べたら大分可愛いものだが、正直キリがない。
生暖かい返り血を浴び思わず顔を顰めるその間にも、敵は次から次へと向かってくる。

「──どけ。俺は今虫の居所が悪いんだ」
「!ナイスタイミングです、桂さん」

前方に立ち塞がっていた奴らは駆け付けてきた桂さんに呆気なく倒された。グッと親指を立てて見せるとぎょっとした顔をし、あたふたしながら早歩きでこちらに向かって来た。
どうやら顔から胸元に浴びた返り血を見て私が怪我をしていると思ったようだ。血を拭おうと首に巻かれたスカーフを手に取るが、それも赤く汚れてしまっている。
袖で拭おうとしたら、やんわりと制止した桂さんにハンカチで拭かれた。
いや…女である私より、遥かに女子力が高いですね?髪だってサラサラでツヤツヤだ。さっきより短くなってるけど。


「…よォヅラ。どーしたその頭、失恋でもしたか?」
「だまれイメチェンだ。貴様こそどうしたそのナリは、爆撃でもされたか?」
「だまっとけやイメチェンだ」
「どんなイメチェンだ」

イメチェンだとしたら随分と斬新だこと。
背中合わせの状態で周りを取り囲む鬼兵隊と天人に刀を構える。

「桂さん!ご指示を!!」
「退くぞ。紅桜は殲滅した、もうこの船に用はない。…後ろに船が来ている。急げ」

指示を仰いだ攘夷浪士は「えっ!!」と言う素っ頓狂な声を上げたが、桂さんの指示に従いすぐさま浪士を連れて後退を始めた。

「退路は俺達が守る」
「行け。…名前、アイツらを頼むぞ」
「了解です、先に下で待ってます」

神楽ちゃんと新八くんを両脇に抱えて走るエリザベスを守るように、後ろに控える船に向かって走る。
天人が発した首を取れ!!という言葉に振り返るが、近付く者を片っ端から叩き斬る二人を見る限り大丈夫だろう。
攘夷浪士の乗る船に移り様子を伺うと、鬼兵隊の船から飛び降りて、エリザベスの顔面が描かれたパラシュートでゆらゆらと降りていく桂さんと、その足にしがみつく銀さんの姿が確認出来た。

「…相変わらず用意周到なことで。あんな可愛いパラシュートを忍ばせていたなんて」

さすが、真選組の追跡を躱してきただけある。


地上が近づいてから気付いたが、ヘッドフォンを返すの忘れてた。



▲▼



銀さんに肩を貸し、神楽ちゃんと新八くんを万事屋まで送り届けた後屯所に戻ると、バズーカを構えた総悟くんが仁王立ちして待っていたのですが。どゆこと?

「ただいま戻りました…え〜っと、随分と過激なお出迎えだね総悟くん?」
「おかえりなさいやせ姉御。朝っぱらからどこに行ってたんです?返答次第ではコイツが火を吹きますぜ」
「この距離でバズーカは遠慮したいな」

土方さんと総悟くんに話すとあの事件の事があるから、単独行動なんて絶対に首を縦に振らないだろうし、余計な心配を掛けたくなかったから近藤さんから話してもらおうとお願いしていたんだけど。やっぱり心配かけちゃったな。

「近藤さんから聞いたでさァ、チャイナとメガネを助けに行ったって。姉御の事だから俺達に心配掛けたくなくて伏せていたって事も分かってまさァ、でも。あの時の事、無意識に思い出しちまって、」

自分の知らない所でまたあんな目に遭ってしまったら、そんな事を考えているだけで血の気が引いちまう。あの頃に比べたら姉御はうんと強くなったのに、自分達がこんなんじゃ駄目だって事も分かってるのに。
俯いて話す総悟くんの手は小刻みに震えている。
相当なトラウマを植え付けてしまっていたらしい。

「…心配かけてごめんね。総悟くん、私ちゃんと無事に帰ってきたよ」

ほら見て!無傷だよ!
その場で腕を広げて見せると、持っていたバズーカを投げ捨て勢いよく抱き着いてきた。
昔は受け止められなくてよく尻もちを着いたものだ。

「うわ!何なに、どうしたの」
「…怪我して帰ってきたら、おかえり言うより先にバズーカお見舞いしてやろうと考えてたんでィ」
「総悟くん。それは一般的にとどめを刺すと言うんだよ」

背中をぽんぽん叩いてやると、ムスッとした顔で「…ちょっとぐらい意識してくれたっていいじゃないですかィ」と、不満そうに言われた。

「…それはとどめを刺されることに対して?」
「はぁ〜、姉御の馬鹿。ほんと馬鹿。聞かなかった事にしてくだせェ」
「エェェなにそれ」

聞かなかった事に、だなんて。逆に気になっちゃうじゃんか。
体を離し私の腕を掴んだ総悟くんは、先程投げ捨てたバズーカをもう片方の手で拾い上げて歩き始めた。


余談ですが、山崎くんには怪我の有無を確認され、後程バドミントンをやろうとお誘いを受けた。
土方さんからは怒らねェから直接話してから行けとデコピンを喰らい、近藤さんには心配したんだから〜!!と泣かれた。結局泣かれた。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -