英数字は僅かに右上がり

「お礼がしたい?」

大型スーパーの調味料売り場で本だし片手にきょとんとした顔で呟いたのは安室さん。
夕飯の買い出しの為、学校帰りにスーパーに寄ったら偶然にもばったり会い、立ち話に発展した感じだ。

お礼されるような事しましたっけ?首を傾げて考えるような仕草をする彼に、先日駅まで送ってくれましたよね?と言うと、当たり前のことをしたまでですよ〜と笑顔で返された。

「でも…安室さんお仕事中だったのに、中断させてしまいましたし」
「考えすぎですよ名前さん。そんな事気にしないで下さい。こういう時は甘えちゃっていいんですから」
「そ、そうですか…?」

その気持ちだけで十分ありがたいです。って、そんなこと言われたらこれ以上は言えない…。あまり強く言うのも強要しているみたいになっちゃうし、それは避けたい。
…うん、今回はお言葉に甘えさせてもらおう。

「ところで名前さん。飾さん…お父様の様子はどうでした?」
「安室さんの言った通りでした。京都府警の刑事さんにキャンキャン吠えるくらいには元気でした…」

本当に、撃たれたとは思えないくらいにぴんぴんしていた。なんならずっと病室に居るのが退屈過ぎると言い、点滴スタンドを押して院内を歩いて回る程。(綾小路さんに見付かって連れ戻された)

「飾さん、細身の割には意外と頑丈ですからね。でも、大した事無くてよかった」
「ご心配おかけしました…!近いうちに休暇を取って、安室さんお手製のハムサンド食べに行くって言ってました」
「それはそれは。張り切って作らないとですね」

子供味覚な父はサンドイッチでさえ好き嫌いがある。生の玉ねぎは辛いからイヤだとか、辛子の入ったマヨネーズが苦手とか。あと、ポテトサラダはパンに挟むものじゃない!と言って分解して食べたり…なかなか好みにうるさかったりする。
そんな父が安室さんの作るハムサンドには何一つ文句を言わず、幸せそうな顔で平らげてしまうのだ。父曰く具材とソース、それらを挟むパンのバランスが絶妙なんだとか。
ハムサンドの話をしていたら食べたくなってきた…。ごく普通のハムサンドになるけど、明日の朝ごはんに作ろうかな。

「…ああそうだ!さっきの話ですが。気持ちだけでありがたいって言った後でなんですけど、よかったら新メニューの考案に付き合ってもらえませんか?」
「新メニュー、ですか?」
「最近女性のお客さんが増えて来たので客層を意識したメニュー提案が出来たらと思っていたんです。常連客の名前さんの意見を参考にしたくて…どうですか?」
「そうなんですね…!是非お手伝いさせて下さい」

もちろん喜んで!二つ返事で引き受けた私に満足気に頷いた安室さんは、床に置いていた買い物かごの中から手帳を取り出した。ボールペンで何やら書き出しているけど、なんだろう。メニュー考案をする日時でも書き出している?
切れ端ですいませんと言って手渡された紙には英数字の羅列…これって。

「まだ教えてませんでしたよね?僕の連絡先、登録しといて下さい」
「え、」

他の人に聞かれても教えちゃダメですよ?悪戯っぽい笑みを浮かべた安室さん。
!?!?安室さんの連絡先を頂いてしまった…!?
メモ用紙を持ったまま固まる私の頭をひとなでし、僕はまだ買う物があるのでここで失礼します。気を付けて帰って下さいね!と言い残し、買い物かごを手に去って行った。

…とんでもないモノを手に入れてしまった。
ポアロに通う女性客が喉から手が出る程欲しがっているであろう安室さんの個人情報、登録次第きちんとシュレッダーして処分します。

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