涙脆さは父譲り

お疲れ会と称し、蘭達とポアロでお茶をしているとスカートのポケットに入れたままのスマートフォンが鈍い音を立てて振動し始めた。電話だ。
お店の隅の方に移動し、スマートフォンの画面を見ると服部平次と表示されている。珍しい、なんだろう。

「…もしもし?服部くんが電話かけてくるなんて珍し、」
「名前!お前の父ちゃんの名前って飾遼平で合ってるか!?」
「うん?合ってるけど…」

飾遼平(かざりりょうへい)。
仕事の都合で大阪にいる私のお父さん。大阪府警に勤めている。私の名字が違うのは、数年前に他界した母の名字を名乗っているから。
凄く焦った様子だけど、それがどうしたのだろうか。

「えぇか、落ち着いてよぉ聞いてくれ。名前の父ちゃん、腹部を撃たれて今京都市内の病院で手術中や。…名前には早う伝えなアカン思うて」

…撃たれたって、手術中って。
なんで、どういうこと。脳内で処理が追いついていかない。

「……なに、それ、悪い冗談はよしてよ…」
「俺がそないな冗談言うわけないやろ…!昨日からニュースになってたの見てないんか、京都の街中で立てこもり事件が発生したって」
「知ってるよ、そのニュース家で見てたもん゛……でも、……ぐずっ」
「!?ちょ、泣くな、きっと大したことないはずやって…!なにかわかったらまた連絡する!」

大したことないはず、そう信じたい気持ちとは裏腹に、最悪の事態ばかりが頭を過る。

こんな所で泣きたくないのに。もしものことがあったらどうしよう、不安でいっぱいになり自然と涙が溢れ視界がじわりと滲んでゆく。


「…名前さん?…っどうしたんですか!?」

スマートフォンを耳に当てがった状態で暫く立ち尽くしていたからだろう、異変に気付いた安室さんが血相を変えて駆け寄ってきた。
どこか痛いのかと聞いてくる安室さんに、俯いたまま無言で首を横に振る。ごめんなさい、痛いところはないんですが泣き顔を見られるのが恥ずかしいんです。
制服の袖で涙を拭っていると、擦ってはいけませんよ、とハンカチを渡された。

「すいません…ありがとう、ございます……」
「どういたしまして。とりあえず戻りましょう、お友達も心配してますよ」

ちらりと見やると、おろおろした様子でこちらを伺う蘭と園子の姿が目に入る。安室さんに付き添われて席に戻ると心配そうな目で見つめられた。

「どうしたの名前…大丈夫?」
「電話しに行ったきり戻ってこないし、泣いてるし……なにがあったのよ?」
「…大丈夫、心配かけてごめん…。さっきの電話、服部くんからだったんだけど、」
「服部ぃ!?」
「…ちょっと待ってください、その服部ってやつが名前さんを泣かせたんですか」

あくまでも口調は優しいままだが、その表情は眉を寄せ、少しばかり怒ったようなものである。
誤解だ。服部くんはなにもしてない。

「違うんです!服部くんは、その、父が撃たれて…病院に運ばれたって、連絡をくれたんです」
「「撃たれた…!?」」
「もしかして、ニュースでやってた京都の立てこもり事件の…たしか、突入した刑事が負傷したって言ってたような…」

まさか、飾さんが撃たれるなんて。小さく呟き、拳を強く握りしめた安室さんの表情は暗い。

「今、手術中みたいで。なにかわかり次第連絡するって言ってくれたんです。でも、心配だからこれから京都に行こうと思って」
「…なら、駅まで送ります。行くなら早い方がいいでしょう。梓さん、少しの間お店を頼みます」

呆気にとられた様子の梓さんにエプロンを預けた安室さんは、車を店の前にまわしてくると言い残し、小走りで店の裏口から出ていった。

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