試験勉強は喫茶ポアロで

よく晴れた昼下がり。
私は幼なじみの蘭と友人の園子の三人でポアロに集まっていた。テーブルの上にはノートと問題集。向かいの席で唸る園子。そう、学生にとって憂鬱なテスト週間である。
苦手科目から目をそらしたいけど、一夜漬けで暗記できるような頭を持っているわけでもないので、一週間程前からこうして三人で勉強会をしているのだ。
しかし、お昼ご飯を食べたあとで、しかも日当たりのいい窓際の席で文字の羅列を見ていると眠くなってしまうのも当然で。

「ちょっと名前?起きてる?」
「おきて…る……」

正直言うとちょっとだけ寝てた。苦手科目を前にするとどうも眠くなってしまうのは私だけじゃないはず。許して。

「ほら!起きて!私だって頑張って起きてるのに!」

そう言う園子も眠そうだ。
ノートにはシャーペンで引かれたであろう、ミミズが這ったような無数の線が。

「も〜〜、二人共あと一科目復習したら終わるんだから…」
「その一科目がねぇ」
「大変なんだもん」
「仕方ないなぁ、じゃあちょっとだけ休憩ね」

ねーっと口を合わせる私達に困ったように蘭が笑った。やったね園子。


「ところで蘭、あいつまだ帰ってこないの?」
「なぁに園子、またその話し?」

休憩するやいなや、話題になるのは恋バナ…というか幼なじみの話しだ。

「だって気になるじゃない!電話だけでずっと姿見せてないみたいだし。
どこで何やってるんだかねーあんたの旦那は!」
「一発殴ってやればいいよ」
「だっ旦那じゃないし…!まぁ、殴ってやりたい気はするけどね」

するんかい。
それにしても本当、自分の彼女ほうって置いてなにしてるんだか。新一のことだからなにか訳があるんだろう。蘭は平気だって言うけど、時折寂しそうな顔をしているのを知る私達からすれば納得いかないし、同時に心配でもあるわけで。
新一、帰ってきたら覚悟しなさいよ。

「で、名前は?なにか浮ついた話はないわけ?」
「え?」
「あ、私知ってるよ!この間隣のクラスの霜田くんに告白されたんだよね、名前」
「ええーっ!!頭が良くて優しくて図書室の王子様とか言われてるあの霜田くん!?聞いてないわよ!?」
「でもフッちゃったんだって」
「え〜もったいない、お似合いなのに…」

ちょ…っと待って、どうして蘭が知ってるの!
た、確かに、今どきベタな屋上で告白されたけど、ってこれはどうでもいいか。うーん、あの場には私と霜田くん以外に誰もいなかったはずなんだけどな。と言うか、霜田くん図書室の王子様って言われてるんだ。

「これで名前にフられた男が五人…罪なオンナね〜」
「年上が好みって前に言ってたし仕方ないよ、ね?」
「う……私の話はもういいでしょ…」

自分の恋愛話しだなんて、照れくさくなって思わずテーブルに突っ伏す。少しの間そうしているとコトリ、という軽い音とコーヒーのいい香り…もぞりと顔を上げると、優しく髪を撫でられた。
人懐こそうな笑みを浮かべたウエイター…安室さんが立っていた。

「年上が好みなら、僕なんてどうですか?」
「へ……って、からかわないで下さいよ安室さん…」
「からかうだなんてそんな。あぁでも、名前さんは彼女というより目の離せない妹って感じですね」

安室透さん。ポアロでアルバイトをしている男性で、他の人より少し地黒の肌にクリーム色の髪、瞳の色はブルーという、絵に描いたような完璧な見た目はもちろん、性格も良いのだから。女性客からの人気は凄まじいものである。

「安室さん、このコーヒーは…」
「試験勉強を頑張る皆さんへの差し入れ、とでも思ってください。眠気も多少はマシになるはずですよ」

他のお客さん達には秘密です、と付け加えて厨房へ戻って行った。
コーヒーを頂いたからには試験勉強を頑張らないと。相変わらずイケメンねぇ〜と呟く園子に頷きつつ、ノートの上に転がしたシャーペンを握り直した。


▲▼


安室さんのコーヒーのおかげで眠気も吹き飛び、気づけば夕方六時を過ぎていた。後片付けをしてポアロを出ると日は傾き、空には夕焼けが広がっている。

「じゃあね!気をつけて帰りなさいよ」
「またあとでね〜」

あんた一番家遠いんだから!寄り道しないで帰りなよ〜!と呼びかける二人にわかってるって意味を込めて手を振る。蘭も園子も心配症だわぁ。
思えば、もう一人の幼なじみも私に対して心配症だった…どこに行くにも何をするにも大丈夫か?付いていこうか?と付いて回られた事を思い出す。懐かしい。
ふふ、と笑みを浮かべて歩きなれた大通りを歩いて行くと、前方からコナンくんが歩いてくるのが見えた。
お家に帰る途中だろうか、私に気づいたのかパタパタと駆け寄ってきた。

「あれえ?名前姉ちゃんだ」
「あれえ?コナンくんだ」

真似しないでよ〜と笑うコナンくんの頭をなでると、ちょっぴり恥ずかしそうな顔で目を逸らされてしまった。残念!

「お家帰る途中?」
「うん!名前姉ちゃんもでしょ?さっき蘭姉ちゃんからメールがきたんだ。もしかしたら帰ってる途中でばったり会うかもしれないねって」
「そうだったんだ、ほんとに会っちゃったね」
「ねー!」

えへへと笑うコナンくんはかわいい。たまに大人っぽい話し方をするけれど、どっちが素なんだろう。
もう少しお話ししたかったけど、いつの間にか辺りは暗く、街灯のぼんやりとした灯りが道路を照らしている。
もう暗いから送ろうかと言うと、これがあるから大丈夫!と、脇に抱えてたスケートボードに飛び乗った。

「本当に大丈夫?」
「大丈夫!名前姉ちゃんこそ気をつけて帰ってね!」
「わかってるよ、ありがと」

バイバーイ!と手を振るコナンくんを見送り自宅へと足を進める。
今日の夕飯はなににしようかな、買っておいたレタスがあるからサラダうどんにしようかな。夕飯の献立を考えるのに気を取られ、物陰からこちらを見つめる怪しい人影には気づきもしなかった。

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