飛び入り参加の試作会

皆様は覚えているだろうか、約一ヶ月程前にお腹を撃たれて病院に担ぎ込まれた私のお父さん、飾遼平を。その後順調に回復し明日から仕事復帰だというのに、来ちゃった!と、にこにこ顔で私の住むマンションまでやって来た。
来ちゃった、じゃないぞ…。
今日はポアロの新メニュー考案日だけど、せっかく来てくれたのに放置する訳にもいかず…土下座スタンプと一緒に安室さんにLINEを送ると、意見は多い方がいいからよかったら二人で来てくれ。簡単に言うとこんな感じの返事が返ってきた。

そんな訳で新メニュー考案メンバーは安室さん、梓さん、私、飛び入り参加のお父さんとなる。ちなみに店長さんは用事があるから不参加との事。


「…………と言う事で、ランチメニューの第一候補はこちらのオムライスなんですが、ソースが決まらなくて。三種類まで絞ってみたので食べ比べてみてください」
「えっと、右からデミグラスソース、トマトサワークリーム、トマトケチャップです!」

ソースの紹介をする梓さんから小皿を受け取り、順に食べては率直な感想を述べていく。この中からメニュー入りを選ばなければならないのだけど、困った事に三種とも美味しすぎる。
隣で黙々と食べ比べては唸るお父さんも同じ心境だろう、ましてや…子供舌。カレーやナポリタン、オムライスなんて特に大好物だ。多分、いや絶対選べない。

「安室…お前天才だな。選べないから全部メニュー化しよう」
「却下です」

やっぱり選べなかった…!

「いくら飾さんでも全部はダメですよ」
「本当に全部美味しいです!でも、一つに絞らなきゃなんですよね…」
「ふふ、ありがとうございます名前さん。時間はまだあるのでゆっくり決めてくださいね」

ちょっと照れくさそうに笑い、お茶入れてきますね!と言ってカウンターへと戻って行く安室さん。何故かお父さんも着いてった。

「名前ちゃん、どうかな?決まった?」
「大変です梓さん、難しすぎます…何回食べても全部美味しすぎて。強いて言うならサワークリームですかね、珍しいからお客さんも食い付いてくれるんじゃないかな」

コクのあるデミグラスも王道のケチャップ(しかもデル〇ンテ)も捨て難いが、この二つは近隣の洋食店やカフェでも提供されている。いわゆる、スタンダードなソース。
対してトマトサワークリームのかかったオムライスは今まで食べた事がなかった。食わず嫌いでは無く、そもそもメニューに無かったからで…。
なるほど〜とメモ用紙にペンを走らせる梓さんの背後からお父さんが顔を覗かせた。

「邪道まではないが一般的ではないな。相当なこだわりがあるヤツは食わないかもしれないが、逆に言えば珍しさから食いに来るヤツもいるだろうな、俺みたいに」
「な、なるほど!」
「あとはアレだ、だんだんさっぱりした味付けの方が好きになってきたっつーか…」
「さすがの飾さんも見た目は青年ですが、中身はしっかり中年男性って事ですね!安心しました」

安室さんが放った中年男性と言う言葉がざくりと突き刺さった、ように見えた。童顔なのを気にしてはいるが中年呼ばわりされるのもそれはそれで気になるようだ。
いくつになっても難しいお年頃だね!

「そう言うお前もそのベビーフェイスで30は詐欺だろ…」
「あなたには敵いませんし、僕はまだ29です!」

どっちがじゃなくて、二人とも実年齢と見た目が釣り合ってないのだ。

黙って見守る私の隣では梓さんが、あんな安室さん初めて見た…!と、あわあわしている。
言われてみれば、安室さんはいつも物腰柔らかで纏っている空気も優しくて。そんな彼がお互い本気で無いとはいえ張り合う姿はレアなのだろう…一応言っておくが険悪なムードは全く無く、むしろ仲良さげな雰囲気だ。
さっきも仲良さそうにカウンターで話していたし、冗談を言い合ったり気兼ね無く何でも話せる仲なのかも?
だけど、そもそもどこで知り合ったんだろう。安室さんがポアロで働き始める前には、父は大阪に異動していたはず。それ以前からの付き合いとなると……?あ、私立探偵だから事件繋がりで警察と関わる機会があったとか!
聞いたらすぐに答えが出るであろう、そんな事を考えている間にも張り合いに似た何かは無くなっていた。


「さあ次はデザートですよ。これもしっかり食べて下さい、後で感想聞かせてもらいますから!」

アイスティーと一緒に配られたのはオレンジをふんだんに使ったフルーツタルト。濃いオレンジ色の表面はゼリーで薄くコーティングしてあり、光が反射してきらきら輝いている。
食べてしまうのが勿体なく感じる程の綺麗さと言えば伝わるだろうか、葛藤しつつフォークを入れる、と。

「わ、チョコ…!」

カスタードやクリームチーズだと思っていたらまさかのチョコ!さっぱり甘酸っぱいオレンジとほろ苦い濃厚なチョコレートクリームがこんなに合うなんて。
見た目はもちろん味も申し分無しなこのタルト、梓さんが提案し作り上げたと聞いて納得してしまった。だって、女の子が好きそうなタルトだもの。ちなみに今の時期はオレンジだけど、秋になったら林檎、冬は苺など、季節によってフルーツが変わるんだとか。

原料仕入れの関係上、と言うお店側の都合だと言ってたけどいろんなタルトを食べれるなんて、客側からすればむしろ魅力的なのでは…などと考える私であった。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -