走り出したら止まれない

コナンくんが犯人の追跡を始め、バイクのナンバーを警察に知らせた頃には第一展望台も落ち着きを取り戻し、駆け付けた警察により現場検証、狙撃された男の検視が始まった。
その場に残っていた重要参考人でもある私達は警視庁へと移動。当時の状況を説明しその後合流したコナンくんと、別件で男性の身辺調査をしていた世良さん、さらにFBIの捜査官も加えての合同捜査会議(仮)となった。

コナンくんと世良さんは犯人のバイクを追跡していたから出席するのも妥当だ。蘭は元刑事である小五郎おじさんの娘、園子は事件現場となったベルツリータワーを作り上げた鈴木財閥の者、私はお父さんが警察官…。よく分からないけど、出席する条件を満たしていると判断されたって事なのかな。
不本意ながら今まで事件に関わりすぎて警視庁の人達に名前で呼ばれるまでになってしまったからなのか、FBIのジョディさんとキャメルさんと顔見知りな為、二人の上司であるジェイムズさんまで二つ返事で承諾してしまったからなのか。
はたまた、名前姉ちゃんは頭が良いし記憶力も優れてるから、きっと見落としがちな事に気付いてくれるはずだよ!と言う過大評価し過ぎなコナンくんの発言が効いたのか。あれよあれよと会議に出席する事になってしまったのだけど、誰一人として疑問に思う人はいなかったのかな…!?

ちなみに子供達は阿笠博士の家に、沖矢さんは午後から急な用事が入ってしまったようで捜査会議には出席しなかった。大学院生も大変だ。


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結局、警視庁を出たのは日が沈む少し前になってしまった。

「元シールズの狙撃兵か。またとんでもねーヤツが日本に現れたもんだな」
「よりによって日本で復讐を始めるなんてね。でも何で六年経った今、始めたんだろう。あのハンターって人…」

前を歩く小五郎おじさんと世良さんの会話に首を傾げる。
言われてみたら確かにそうだ。先程の会議で名前が浮上したティモシー・ハンターという、現段階で最も犯人に近い男。アメリカ海軍特殊部隊であるシールズ(United States Navy SEALs)に属し、シルバースターの称号を獲た輝かしい功績の持ち主だ。シルバースターとは敵対する武装勢力との交戦において、勇敢さを示した兵士に授与される名誉ある勲章の事だ。日本では銀星章と呼ばれている。
しかし受章した翌年、武器を持たない民間人を射殺したという訴えが浮上し剥奪される事となる。「戦場の英雄」から一変「疑惑の英雄」と後ろ指を指され、戦場復帰した時には冷静さも自分を慕う仲間も失い、孤立した末に敵の銃弾を頭に受け致命傷を負ってしまった。
奇跡的にも手術は成功したが、この出来事がきっかけで除隊。生まれ故郷へ帰郷し静かに暮らす事を選んだようだが、彼の悲劇はまだまだ終わらない。投資失敗による破産、婚約破棄による妹の自殺、薬物過剰摂取による妻の死…まるでフィクションのように連続的な不幸がハンターの身に降り掛かった。
たった一つの疑いによって彼の人生は修復不能なまでに壊されてしまった。地位、財産、家族…大事なものを奪い去った全ての元凶に対する復讐心は凄まじい物だろう。その気になればすぐにでも行動出来たはずなのに、何故こんなに時間を空けての復讐に至ったのか。

それにしても、目星を付けたハンターの事やマスコミにも知らせていないサイコロと空薬莢の事、これから狙われる恐れのある人物の情報とか。私ただの一般人で現場に居合わせただけなんだけど、教えてしまって良いものなのかな…しっかり聞いちゃったぞ。
「名前姉ちゃん?どうしたの?」
「ん〜?どうして今なんだろうって考えてただけだよ」

あとその他もろもろ…。

「やっぱり引っかかる?」
「ちょっとね。…それより、すぐ会議になっちゃったから聞けなかったんだけど大丈夫だった?怪我とかしてない?」

ちらっとしか見ていないけどコナンくんがいつも愛用しているスケボ、塗装が剥げていたりへこんでいたり、傷だらけだったような。

「よく見てるなあ、さすが名前。スケボはめちゃくちゃだけどコナンくんはこの通り無事だよ」
「うん、世良の姉ちゃんが助けてくれたから大丈夫だよ」
「今めちゃくちゃって言った?無事だったからよかったけど…」

口ではそう言ったものの、本当はこんな危険な事して欲しくないって言いたい。でも二人がいたから得られた情報もある訳で。
世良さんが助けに来てくれたから運良く無傷で済んだけど、スケボにあんな傷が付いてしまうような危ない場面でもし誰もいなかったら…。
そう思うとどうしても手放しで喜ぶことは出来ない。
もう少しで死ぬところだったんだぞ!探偵ごっこはこれで終わりにしろよ!と、キツく忠告する小五郎おじさんに同意の意味を込めて深く頷くと、二人揃って気まずそうに苦笑いしている。

「世良さん。怪我がなくて本当によかったけど…もう二度とコナンくんを危険な目に遭わせないでね…」
「大丈夫!コナンくんは僕が守るから。それに今んところコナンくんの心臓に弾は当たらないよ。もちろん、君の心臓にもね」
「え……」

浮かない顔の蘭に向かってウインクを飛ばした世良さんは、コナンくんに「またな」と言い残して去って行った。またなって事はそういう事なんですね。

「私の心臓に当たらないってどういう事だろう…」
「ああ、蘭なら空手で跳ね返すからじゃない?」
「なわけないでしょ!」

クスクスと笑う園子に暗い顔から一変して頬を膨らませる蘭。
脳裏に浮かぶのは空手の全国大会での戦いっぷりや、犯人相手に怯まず蹴りを入れる姿。可愛らしいその姿からは想像出来ないほどの実力者だから驚きだ。そりゃあもう、相手が気の毒になるくらいに。

「う〜ん、出来なくはなさそうだよね」
「名前まで真面目な顔で何言ってんのよ〜!」

跳ね返すなんてさすがに無理だって!
全力で否定する蘭の後ろ姿を半目のコナンくんが眺めていた。


▲▼


その日の夜。
捜査会議での内容を覚えている範囲でいいから教えて欲しいというLINEが沖矢さんから届いた。
元々出席しないか?と声を掛けられていたから教えても問題無い…と思いたい。

簡潔に分かりやすくを意識して箇条書きにしたはずが、それでもかなりの長文となってしまった。課題の合間にでも確認して下さいと付け加えて送信すると、お礼と共にゆるい絵柄のうさぎちゃんスタンプが返ってきた。可愛い。

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