百物語:中-弐


「……そこはね、ホテルになる前は個人のお屋敷だったらしいの。古い洋館みたいな感じで、レトロっぽい雰囲気が人気だったそうなんだけど。
でもね、何度数えても三階の部屋数がひとつ足りないの。二階のお部屋と造りも殆ど変わらなくてね、二階は六部屋なのに三階は五部屋しかない。

で、一緒に泊まってたみんなで色々話したそうなんだけど、自分達が泊まっている部屋の隣にもうひとつ部屋があったんじゃないかってことになって。
そしたらその日の夜にね。泊まってる部屋の壁…もう一部屋あるんじゃないかって言ってたところの壁からね、音が聞こえるんだって。

かりかり……なにかを引っ掻くような音がずっと聞こえるの。

泊まってる間、夜はずっとその調子でね。さすがに我慢し切れなくなってホテルの人に文句言いに行ったらね、フロントの人真っ青になって「やっぱり」って。
その人達が泊まった部屋で寝ると夜、必ず聞こえるんだって、かりかりって音」
「や、やっぱりそういう展開だよね」

怪談だもんねと四月一日くんは笑ってるけど、少し冷や汗をかいてる。

「泊まってた部屋の向こうにはもう一部屋あったみたいなんだって。でも前の持ち主から買い取った時にはもう廊下は一部屋分埋められてて。
あんまり宿泊する人のクレームが多いから、ホテルの人が廊下の壁を壊してもう一部屋分に何があるか確かめることになって。で、早速業者を呼ぶことになって、その人達も壊したら何が出てくるのか見たいからもう一泊して」
「…帰れよ、そういう時は」
「それじゃ怪談になんねぇだろ」

ぶちぶちとつっこんだ四月一日くんがすかさず百目鬼くんにつっこまれている様子を見て今吉さんと桜井くんがクスクス笑っている。

「次の日、工事の人が来て廊下の壁を壊したんだけど、やっぱり廊下があるの。で、その人達が泊まってた隣に同じ造りの部屋がもう一部屋あったんだって。
でもね、その部屋ドアノブがないの。目張りっていうの?隙間が全部ふさいであってね、どうやっても開かないようになってたんだって。

中を確かめようってなってドアをこわしたらね、部屋中に真っ赤な字で

お父さんここから出してお父さんここから出してお父さんここから出してお父さんここから出してお父さんここから出してお父さんここから出してお父さんここから出してお父さんここから出してお父さんここから出してお父さんここから出してお父さんここから出してお父さんここから出して

って書かれてたんだって」

おしまいです、にこっと笑って締め括ったひまわりちゃんは線香を一本手に取り背後に立てた蝋燭で火を点け、中央に置いてある線香立てに刺した。

「…ひまわりちゃん話上手だね」

見て、四月一日くん真っ青だよ。
百目鬼くんに指摘されてビビってねぇ!と否定してはいるけど、アヤカシが見えて尚且つ好かれやすい、しかも祓うことができない四月一日くんにとっては単なるオハナシでは済まないだろう。

「さ、次に行きましょ」
「俺だったな。
祖父さんに聞いた話だけど檀家回りの帰り、踏切んとこに立ってたら女と居合わせたんだと。
その女ってのが、影が薄そうで覇気がなくてちょっと気味が悪い感じで、祖父さんが横目で見ながら「なんか幽霊みたいな女だなぁ」って考えてたら女がこっち向いて
「 どうして分かったの? 」

百目鬼くんの御祖父さんは生前このお寺の住職で幽霊やアヤカシをよく見ていたらしく、こういう類の話もよく聞かされていたとのことだ。

「じゃあ、百目鬼君のも血ね」

どこか納得した侑子さんの言葉に反応するかのように、四月一日君の後ろの襖ががたがたと音を立てた。

「なんだ?こっちの部屋誰かいるのか?」
「いるっちゃ、いるな。檀家の人だ、遺体だけどな」

向こうの部屋に人はいない。
あるのは葬式前に預かっているご遺体だけ。窓もない。

「だから言ったでしょ?役者が揃ったって」
「役者って死体もコミコミだったんすかー!?」

こんなとこで怪談なんてそれこそ冗談じゃない!出よう!と騒ぐ四月一日くんだったが、百物語中は結界から出てはだめだと侑子さんに止められてしまった。

「四本の蝋燭で創った結界、今この部屋はその力で守られている。でも外のことは保証出来ないわ」

つまり…百物語が終了するまでココから出られないってことだ。まだ一巡もしていない。
ただ、今回は略式だからそれぞれ四巡するだけ話せば大丈夫だそうだ。ちなみに本式の場合は怖い話を百個話さなければならない。

「四っていう数字は冥府に通じる数とされているのよ」
「病院で四のつく病室がなかったりするやろ?」
「昔は四つ辻が交わる場所から四界、つまり死界に行けるとも考えられてたみたいだしな」
「詳しいなぁ百目鬼くん」
「祖父さんの受け売りですけどね」

ケラケラ笑う侑子さんを中心に盛り上がるが、その内容は百物語らしい恐怖心を煽るものだった。

冥府やら死界に反応しているのか、相変わらず襖はがたがたするし風もないのに蝋燭の火はゆらりと揺れ動いているのだ。
結界で守られているとは言え、安心はできない。

「死体と一緒に怪談なんて俺ヤバイっすよ!苗字さんも!」
「あら、でもまだ視えてないでしょ?アヤカシ」
「確かに…」

普段からよく見るアヤカシがお寺に着いてから一度も見ていない。四月一日くんもそういえば…と隣で首を傾げている。

「とりあえず、再開しましょう百物語」
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