百物語:中-壱


翌日、お寺を借りてもいいかを聞くために四月一日くんが嫌々ながら百目鬼くんを廊下に呼び出した。
お昼休みということもあって生徒で賑わう廊下は些か煩い。
私はというと、前みたいに先生が止めに入る程の大喧嘩が起こると困るので万が一のために教室から様子を見ている。

「あぁ?今日うちの寺で百物語?なんでんな遊びにうち貸さなきゃならねぇんだよ」

意味わからねぇ、とでも言いたげに壁に寄り掛かり腕を組んだ百目鬼くんの前で、四月一日くんが拳を握り締め引き攣った顔をした。
昨日今吉さんが帰った後に言っていた、会った時から腹立ってしょうがない!と唸る四月一日くんを思い出す。
頑張れ四月一日くん、これも何かの縁だと思って…。

「……いいぜ」
「あ!?」
「ただし」

夜。
百目鬼くんの実家であるお寺の境内に集まることになったので、侑子さんと四月一日くんと共に歩いて向かう。
ちなみにモコナは侑子さんの籠バックに入っている。(集合場所に着いてからはぬいぐるみのふりをすると言っていた)
早めに店を出てきたから一番乗りじゃないですかねーと呟く四月一日くんだったけど既に先客がいたようだ。

「こんばんは」
「こんばんは、早いわねぇ今吉くん」

片手を挙げて軽く手を振る今吉さんは紺色の浴衣に身を包み、実に涼しげだ。青混じりのグレーの角帯も似合っている。

「そちらの彼は?」
「あぁ、ワシの後輩の……」
「桜井良です…っあの、僕なんかが参加してもよかったんでしょうか…」

今吉さんの斜め後ろで不安そうに尋ねるちょっと気の弱そうな男の子。
今吉さんから後輩を1人連れて行くと、事前に連絡が来ていたことは侑子さんに伝えてあるから大丈夫だと思うけど。侑子さんもニコニコしてる。

「むしろ大歓迎よ」

それから間もなくしてひまわりちゃんが草履をカラコロと鳴らしながら歩いて来た。
黄色地に薄ピンクの花が散りばめられた浴衣が可愛らしい。髪を縛るリボンも黄色だ。

侑子さんと今吉さん、桜井くんに軽く挨拶をした後、にこにこしながらこちらに駆け寄ってきたひまわりちゃんに四月一日くんの頬がぼっと赤く染まった。



「ああ、今にも降り出しそうな空、生ぬるい風…絶好の百物語シチュエーションね」

ぱたん、と障子を閉めた侑子さんを中心に百物語の準備に取り掛かる。

「言われてたモノは揃えといた」
「ありがとう。じゃ、これを…ソコに置いて水盆のかわりにしましょ」

鬼門はこっちだからと反対側を指差す侑子さんに従い水の入った器…水盆を部屋の隅に置く。
この位置はちょうど裏鬼門に当たる。
それから四本の蝋燭を、部屋の中心に点した蝋燭から火をうつして四隅の燭台に立てた。
中央には線香と、それを立てるための線香立てを置く。侑子さんが好きそうな蝶の形をしている。

「これで準備はお仕舞い」

本当はもっと色々あるのよ〜と話す侑子さんによると、剃刀等の刃物も必要になってくるようだ。

「でも今日は略式でいいでしょ、役者が揃ってるし……ね、今吉くん」
「…せやな」

侑子さんと今吉さんの会話に?という表情をする私達を余所に、中央に置いてある初めに点してあった蝋燭の火が吹き消された。

「じゃ、百物語を始めましょう」
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