占イ:後
侑子さんの言葉に合わせるようにおばあちゃんはゆっくりと目を開いた。
「安心しぃ、ご両親はちゃんと成仏しとるよ」
大変な事故で亡くなったんやねぇ。名前ちゃんを守るために。けど今は何処も痛うないて、2人共穏やかや。
でも、すぐ側で名前ちゃんの成長してく姿を見れないことが残念やて。
だけどなにより、
「名前ちゃんがこんなええ子に育ってくれて、とても嬉しいって」
「…、そう…ですか……」
……よかった。
ちゃんと成仏できたこと、心配してくれてること、側にはいないけど両親からの愛情を感じることが出来て、おばあちゃんが話を終える頃には堪えていた涙が次から次へと溢れてきた。
「あとな、変なもんぎょうさん視たり襲われたりするのはちょっと心配してはるな」
そっちはもうそろそろ出逢いがあるはずや。
「…ああ、なるほど、これに連れられてうちまで来たんやねぇ」
納得するように軽く頷くおばあちゃんにつられるように砂盤を見ると、中に入れられた砂に蝶の絵が描かれていた。
細部まで細かに描かれている。
蝶々は旅立ちの印でもあり変わる前兆でもあるらしい。
ちなみにそっちも変化するとのことだ。
「変化のきっかけは…もうあったね」
「?」
おばあちゃんの言う "変化のきっかけ" とはなんだろうか。自分で気付いてないだけでなにか大きなきっかけがあったのか…気付かないほどに些細なきっかけだったのか…。
…侑子さん…だったりして。
「……あ、そういえば対価…」
「名前ちゃん料理上手なんやから…そうやなぁ」
料理は君尋くんが作ってくれてるしなぁ…と悩むおばあちゃんの隣で、侑子さんが私の鞄に目を向けた。
「名前が持ってきた焼き菓子がちょうどいいんじゃないかしら」
「そらええな」
どうして焼き菓子持って来たこと知ってるんですか…!口に出しそうになりつつ、鞄から焼き菓子を取り出しておばあちゃんに手渡すとおいしそうやねぇと言ってくれた。
「そういえば、今夜の天気はどうでしょう?」
朝見た天気予報ではこのまま晴れると言っていたけど。
侑子さんに倣って空を見ると、家を出た頃に比べたら若干曇ってはいるものの晴れてる方だ。
「雨やねぇ」
どっこいしょ、とちゃぶ台から砂盤を下ろしたおばあの言葉を待っていたかのようにぽつりぽつりと雨が降り出した。
「あ、雨だ。さっきまで晴れてたのに」
料理を運んできた四月一日くんの呟きに侑子さんとおばあちゃんが静かに笑みを浮かべた。