占イ:中


住宅街をしばらく歩くと先程まで飛んでいた蝶がとある家の塀にとまり、ただのハンカチに戻っていった。

「…ここ?」

看板もないし、見た感じ普通の家だけど…。本当にここで合ってるのかな。
呼び鈴を鳴らすと中からパタパタという足音が聞こえてきてカラリと玄関の戸が開いた。

「苗字さん!無事に来れたんだね!」
「待ってたぞー!」

中から出てきたのは泡立て機とボウルを持った四月一日くんと、その肩に乗っているモコナだった。
よかった、間違ってなかった。

1人と1匹に案内されるようにして居間に行くと、侑子さんとしばらく会っていなかった占い師のおばあちゃんが座っていた。

「いらっしゃい名前ちゃん。大きくなったわねぇ」
「おじゃましてます。お久しぶりです、おばあちゃん」

にっこり笑いながら座布団を持ってきたおばあちゃんに御礼を言い、侑子さんの隣に腰を降ろした。

「侑子ちゃんとは上手くやってるかい?」
「はい。良くしてもらってます。あ、でもお酒の飲み過ぎは気になりますけどね」

酒豪ということもあり、侑子さんの飲みっぷりははんぱない。次の日はしっかり二日酔いに悩まされてるけど。

私の言葉に侑子ちゃんは相変わらずやねぇ、と笑ったおばあちゃんは名前ちゃんも占いしよか、と言って横からなにやらひらべったい大きなお皿のような物を取り出した。中には砂のような物が敷き詰められている。

「……これってなんですか?」
「砂盤よ」
「私の占い道具なんよ」

ゴト、と重みのある音を立ててちゃぶ台に置かれた占いの道具は上部が変わった形をしている。
おばあちゃんは上に付いている天秤のような物の片方に私の手を置くと、もう片方に自身の手を置き目を閉じた。

「……あの、聞きたいこととかは…」
「もう分かっているのよ」

ここに名前が来たのも、また必然。
本当に視て欲しいコトがあるってこと。
だから名前が一番聞きたいことは何か、もう分かっているのよ。

占って欲しいことを正確に読みとり、その占いの結果だけを与える。
過不足なく 必要なものを必要なだけ。

「簡単なようでいて本当に難しいことなのよ」

視えていると、どうしても相手に伝えたくなる。
「アナタはこうなります」とか、「先はこうなんですよ」とか。でもね、駄目なのよ。

「占いは「契約」だから」

侑子さんが言うには、占いとは占う者と占われる者との間で行われる「やりとり」のことだそうだ。
やりとりするものはお金だったり物品だったり、運だったり。
場合によっては魂だったりと色々あるらしい。
ただ、占われる者から魂をもらうには同じように占い師も己の占い結果に魂を賭けなければならないそうだ。

「……なんだか侑子さんの店のシステムに似てますね」
「でしょう?」

侑子さんが願いを叶える時には相手から対等に過不足なく対価を受け取っている。

「でも雑誌とかに載ってる占いとかでそこまで求めるのは…」
「勿論、占いも様々」

例えば、今、名前が言った雑誌の占い。ほとんどの人が遊びで読んでるでしょう?
もし本気で見てる人がいたとしても、それは1対1で交わされるものではない、1対多数、だから占い結果への責任も分散される。

でも1対1の場合は視られる側がもし真剣に占い結果を求めてるのなら応えなければ。
己の出来る限りで、己のすべての力で。
どの職業でもそれは同じでしょう。働きに見合った対価が支払われる。対価に見合った働きをする。それがプロよ。
占いは他人の行き筋に関わることなの。

「だからこそホンモノの占い師は、占いに自分の生き筋を賭ける」
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