占イ:前


ひきこさんの件から数日後。

自室のベッドの上に寝転がった状態でファッション誌を読んでいるとコンコンと部屋のドアを叩く音がした。

「「名前入っていいー?」」
「いいって言う前に入ってるでしょー」

えへへと笑いながらこちらへ駆けてくるマルとモロは私が返事をする前に部屋に入ってくる。
毎回のことで慣れてしまったし、嫌でもないから怒りもしないけど。

「四月一日がおやつ作ってくれたよー!」
「早く来ないと主サマが食べちゃうってー!」

四月一日くんの作る料理はお世話抜きでとても美味しい。
美味しい料理に目がない侑子さんのことだ、すぐに行かないと本当に食べられてしまう。
マルとモロに手を引かれて侑子さんの部屋に入ると、洒落たテーブルの上に置かれたスイーツが目に入った。
コンポート…だろうか?

一足先に食べ始めていた侑子さんとモコナは幸せそうな顔をしている。

「いただきまーす」

侑子さんの向かい側に座り、フォークで一口大に切り分けて口に運ぶ。
うん、やっぱり美味しい。

梨じゃないな…林檎?なんの果物を使ったのかわからないけど、果物自体の触感と風味がちょうどいいシロップの甘さと合わさってすごく美味しい。添えられているクリームもふわふわで───

「名前、名前!戻ってきなさーい」
「──ぁう」

デコピンされた。
誰にって、目の前でにやにやしてる侑子さんしかいないでしょう。

「モコナもいくー!」
「だからなんでそうなるんですかー!」

後ろで四月一日くんが叫んでいるけど、コンポート美味しい!ってところからついさっきまでの記憶がないから全く話が読めない。
いつぞやのひまわりちゃんのように頭の上に?を浮かべていると、占いしに行くのよ、と教えてくれた。

「とりあえず、名前はそれ食べ終わってから来なさい。先に出てるから場所は後ほど伝えるわ」
「…はーい」

上機嫌な侑子さんとあまり乗り気ではなさそうな四月一日くん、そして彼の持っている鞄から顔を出しているモコナをマルとモロと一緒に玄関先まで見送った後、最初の一口しか手を付けていなかったコンポートを完食すべく、再びフォークを握り直した。

「ご馳走様でした」

食器を持って立ち上がり、台所の流しへと向かう。
洗剤を付けて他の食器も一緒に洗い、濯いで食器カゴに入れる。

部屋に戻ると一匹の白い蝶がテーブルの上で羽を休めていた。
そっと羽に触れると蝶は次第にその姿を変え、最終的に長方形の紙へと変化した。
これは侑子さんが離れた場所にいる相手に用件を伝えるための手段のひとつでもある。
紙にはハンカチを使いなさい、とだけ書かれていた。

「ハンカチ…というとアレか」

自室に行き、箪笥の引き出しの中から白いレースの付いたハンカチを取り出す。
手ぶらで行くのもどうかと思うので作り置きしておいたクッキーを袋に詰め、お財布と一緒に鞄に入れた。

マルとモロに留守番を頼み玄関の戸を開けると快晴とまではいかないものの、青空が広がっていた。なかなかいい天気だ。

さて、と。

手の上にハンカチを広げ半分に折る。さらに半分に折り、その上に手を翳した。

「探しもの 探しびと 探している場所、探すもの 探すひと 探すべき場所、導け 飛ぶものよ 彼の人の下へ」

侑子さん達は何処にいる?

ハンカチは蝶の姿になり、ゆっくりと手の上から浮き上がった。

「よかったー…蝶ならここから近い」

ハンカチは蝶の他にも姿を変えることがあり、探しものが遠いと鳥になったりする。

「では、行きますか」

ひらりひらりと飛んでいく蝶を見失わないように追いかけた。

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