ひきこさん:中


他愛のない話をしながら住宅街を歩く。
次のT字路を左に曲がってちょっと歩いた所に侑子さんの店がある。
あと少し、と思った矢先に、T字路に備え付けられているカーブミラーに写ったモノを見て思わず息を呑んだ。

ボロボロの白い着物を着た女だ。
目はつり上がり、口は耳辺りまで裂けている。
手には既に肉の塊と化した、元は人間だったであろうモノを引きずっている。
ひきこさん、だ。


「……っ真太郎、戻ろう」
「何故なのだよ……って、顔色が悪いぞ。どうした」
「いいから!早く戻ろう…!」

とりあえずこの場を離れなければ…!
顔色を心配する真太郎の制服の裾を引っ張ると、渋々ながら動いてくれた。

歩いてきた道を小走りで引き返す。
後方で微かにモノを引きずる音が聞こえて、より一層恐怖感が増した。
曲がり角を曲がった時、何かを引きずる音と妙な気配を感じた真太郎は見てしまった。

「…っなんだ…アレは!」

真太郎に顔を見られたひきこさんはそれまで引きずっていたモノを投げ捨て、凄まじい速さで追いかけてきた。

「ひきこさんだよ…!」
「ひきこさんって…都市伝説じゃなかったのか!?」

ひきこさんに捕まったら足を掴まれてコンクリートだろうが階段だろうが所構わず引きずられる。
先程見た肉の塊のように、原形を留めていない状態になっても次の獲物が現れるまで延々と引きずられるそうだ。

「っ真太郎こっち!」

目の前の十字路を真っ直ぐ行こうとしていた真太郎の手を掴んで右に曲がる。
すぐ後ろに迫っていたひきこさんは急に曲がった私達の動きについて来れなかったらしく、そのまま真っ直ぐ行ってしまった。

予想通り。
かなりの速さで追いかけているひきこさんは急な方向転換には弱いようだ。

「…っ…撒いたのか?」
「はぁ…捕まえるまで…追いかけてくるから…このまま逃げるよ」

呼吸が苦しいのを我慢して路地を走り抜け、侑子さんの店までの道を全速力で走る。
店まであと少し、というところで足音が1つ多いことに気付いたが後ろを見る余裕はない。
ペタペタと素足で走っているような足音からしてひきこさんに間違いないだろう…髪を振り乱して、異常な足の速さで追いかけて来ている様子が頭に浮かんだ。

だが店は目と鼻の先だ。
真太郎に引っ張られるようにして店の敷地内に逃げ込む。
後を追うようにして突っ込んできたひきこさんは敷地内をぐるりと囲うようにして張られている結界に弾かれて姿を消した。

私も真太郎も疲労と逃げ切った安堵感からか、濡れるのも構わずその場に座り込んでしまった。
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