虚言:後


朝起きてテレビをつけると、昨夜、近所の大通りで若い女性がトラックに撥ねられて亡くなったという痛ましいニュースが流れていた。

学校に行くと四月一日くんが駆け寄ってきて、亡くなったのは昨日話していた女性だということがわかった。
昨日、バイトが終わって家に帰る途中にその女性を見かけたらしい。
進行方向が同じということもあってか、しばらく様子を見ていたようだが、店で見たように黒いどろどろしたモノが彼女が誰かと話す度に次第に増えていき、顔もほとんど見えなくなってしまったようだ。

「あの人が嘘をつく度に黒いどろどろが増えていたんだ」

横断歩道を歩きながら指輪の汚れを拭こうと指輪を外した瞬間、それまで抑えられていたモノが一気に膨れ上がり彼女の体にのしかかった。
突如体が動かなくなり目を見開いた彼女の前で無情にも信号は赤に変わり、なすすべもなく突っ込んできたトラックに轢かれてしまった。
現場にはひまわりちゃんも居合わせていたようだ。

「そう…車に」

煙管を片手にハンカチの上に置かれた血の着いた指輪を一瞥した侑子さんは最後まで気づかなかったのね、と呟いた。

「なんで、あの人に言わなかったんですか。嘘つくのやめろって」
「癖っていうのはね、他人のために治すものじゃないの。自分のために治すものなのよ」

納得いかない、とでも言いたげな顔をした四月一日くんに侑子さんは言葉を続けた。

「彼女は嘘をつくことでいろんなものを失ったり逆に背負い込んだりしていた。
けれど気づかなかった。何故か分かる?」
「…分かりません」
「失ったものも背負ったものも、彼女にとってはどうでもいいモノだったからよ。
その人にとってどうでもいいモノを、必要だからこうしなさいとか、良くないからああしなさいとか、言ってもしょうがないでしょう」

侑子さんに摘まれた赤黒く汚れ、ヒビの入った指輪は役目を終えたかのようにボロボロと崩れ落ちた。

「何が良くて何が悪いかなんて、人それぞれなんだから」




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