虚言:中
テツヤくんは影が薄い。
そのせいか彼にはアヤカシが見えていても、アヤカシにはテツヤくんが見えないらしい。
先程言っていた "襲われないのはありがたいですけど" は、こういう意味だ。
お互い買い物を終えてスーパーを出た先で別れる。テツヤくんは左に、私は右に。
帰ったら四月一日くんのお手伝いをしなくては。昨日終わらなかった宝物庫の掃除が待っている。
買物袋がガサリと音を立てた。
「小指って、何をする指だと思う?」
「?」
いきなりなんだろうか。
買い物から帰って、宝物庫の整理をする私の後ろではたきで埃を落としていた四月一日くんが口を開いた。
四月一日くんが店に入ってしばらくしたくらいに、小指がうまく動かない女性が訪ねてきたそうだ。
彼女が店に来るのは2度目で、以前侑子さんに貰った症状を抑える指輪を嵌めていたようだが、小指だけでなく腕も上がらなくなってきたらしい。
そして、侑子さんの問いに答える度に黒いどろどろしたようなモノが女性の周りを覆うようにして増えていったとか。
「侑子さんが言ってたんだ、困った癖はないのかって。
早く気づかないと間に合わなくなる、って…」
小指はタイセツなモノなのに、とも言っていたらしい。
私も四月一日くんも小指をピコピコ動かして考えてみたが、よくわからなかった。