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「#幼馴染」のBL小説を読む
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▼ トラブルメーカー



身体痛い。

結局私の上に乗ったまま銀さんは寝てしまい、土方さんが頑張ってくれてたけど離れてくれずこのまま泊まらせて貰った。雑魚寝で。

銀さんの上から毛布をかけてくれたけど、畳の上で一晩は身体痛い。しかも銀さんまだ寝てるし。


昨日は具合悪そうだったから無理に起こすのもなって思ったけど、もう良いよね。

ぐっと力を入れて肩を押し足も使って銀さんを横に倒す。遠慮なく力を入れると案外あっさり倒れてくれた。でも起きない。


身体を起こして周りを見ると、近藤さんと他の隊員の人達も同じように転がっていた。


凄いなこれ。飲み散らかした後って感じだ。
取り敢えず片付けよう。




起こさないように出来るだけそっと片付けていたら、襖が開かれ土方さんが来た。


「あ、おはようございます土方さん。本当にすみません、私飲むだけ飲んで片付けもしないで結局寝ちゃって、」

「いや、お前のせいでは無いだろソイツが離れねぇから。つーか、お前どんな肝臓してんだ? 何で普通に動いて片付けてんの?」

「二日酔いとかですか? 私しないみたいなんですよね、有難い事に。」

「有難いとかそうゆう問題か? 浴びるように飲んでたろ、具合悪くねぇの?」

「全然ですね。でも沢山飲みました、人のお酒だと思って遠慮無く飲んじゃった、反省しております。」

「別に飲むのは良いが、マジかよ。意外過ぎるわ。」

「そうですかね、っと、よし。これ食堂に持って行っても良いですか?」

「あ?いや置いとけ、他の奴らにやらせる。」

「いえいえ、美味しいお酒ご馳走になったんですから片付けくらいさせて下さいよ。お味噌汁とか作っても良いですかね?」

「そりゃァ構わねぇが。あー、悪いな。何か要るもんあるか?顔洗うか?タオル持ってくるぞ。」

「でも私化粧してるから、軽く手直ししてきます。歯ブラシ、とかって余ってたりしますか?」

「あぁ、あるぞ。ついでにそれ持ってくか。」

「ありがとうございます、私も行きますね。」


瓶は量が多いから一回じゃ無理。お皿とコップを積んだお盆を土方さんが1つ持ってくれたから、私も残りを持って着いて行く。


貰った歯ブラシで歯磨きさせて貰い、急いで食器を洗ってお味噌汁を作り終えると沖田くんが台所が入ってきた。



「おはよう沖田くん。」

「おはようごせェやす。さっき土方さんに会いやして、泊まったんですねィ。」

「うん。銀さん起きなくって、私もそのまま寝ちゃったの。」

「……怒ってやせん?」

「え? あぁ、昨日の?怒ってないよ、おでこ大丈夫?」

「大丈夫でさァ。」


沖田くんはいつもより若干大人しい、昨日の気にしてくれてるんだ。そんなに悪いと思ってくれてるなら怒る必要なんてもう無い。それよりも、


「沖田くん真っ直ぐここ来たの? 髪の毛可愛い事になってるよ。」


いつも整ってるサラサラの髪が1ヵ所だけ枕に擦り付けたような跡になっている。


「部屋出て直ぐ聞きやしたから。」


そう言いながら右手で頭を触ってるけど、そっちじゃない。



「逆だよ、左の方。」

「ん、直して下せェ」


面倒になったのか自分で直すのを止めて頭を下げてきた。目の前に来た乱れた1ヵ所に指を差し込み撫でるように数回通すと綺麗に整う。


「凄い、手櫛で直った。」


サラッサラだ。いやサラサラなのは知ってた、でも寝癖も手櫛で整うって。どんなCM?羨ましい。しかも柔らかいんだよね、いつ触っても。銀さんもふわふわして触ってて気持ちいい、でも沖田くんもまた違った手触りでこれはこれで気持ちいい。

目の前にある頭を良いことに、両手を差し込んで指に髪を絡ませるように撫でていると、頭を下げたまま沖田くんの手が上がり私の肘に触れた。


「あ、ごめんね、手触りで良くて夢中で触ってたって、うわぁ、あっ、ご、ごめんね?ご、ごごめ、」



上げられた顔は真っ赤だった。耳が赤いとか言うレベルじゃない、思わず謝っちゃうくらい顔が赤い。


「あわわわ、どうしよ、ご、ごめんね? お水飲む?」


無言で睨まれてるけどそんな顔赤いんじゃ全く効果ないよ沖田くん。


急いでお水を入れようとコップに手を伸ばしたら、その手首を捕まれてそのまま背中を台の上に押し付けられた。


「油断してただけでィ。」

「分かってる、分かってるよ。ごめんね、触りすぎたの分かってる。」

「触られるのが嫌っつってんじゃ無ェでさァ。もう大丈夫なんで、触って下せェ。」

「いやいや、おかしい。こんな状態で触るのおかしいよ、」


足は地面に着いているけど上半身反って台に押し付けられた状態で上から接近されてるんだよ、こんな状態で触るのおかしいでしょ。触らなくても顔に毛先垂れてるし、つまり近い。怒ってるよねこれ。照れ故の理不尽のやつ。触りすぎた私も悪いの分かるけど、


「取り敢えず落ち着こう。謝るし、ごめんね?だから起き上がって話そう。」

「触れっつってんでィ」



もうどんだけ怒ってるの、そんなに照れたの悔しいの?
確かに珍しい以前に初めてだよ、ここまで真っ赤で分かりやすく照れを見せてくれたの。


とにかく一度怒りを落ち着けて貰わねば。もう照れないってなれば落ち着くのかな、離された手で言われた通り頭に触れた。



「さっきみたいに触りなせェ」


軽く撫でるだけじゃ許されなかった。


……なんと言うか、可愛いと思ってしまう。いつも私の方が心配されたり面倒みられてる感じがあるけど、明らさまに真っ赤になって、それが悔しくてこうゆう事してくる所とか。
銀さんも照れると繋いでる手にわざと力入れて来たりする。あ、もしかしてドSならでは?



「んー、じゃあ触るよ?」


じっと私を至近距離で見つめてくる沖田くんの垂れてる髪を両手で掬うように、こめかみから指を差し込む。

これ、前に銀さんにやった事がある。触れって言われたから触ったら照れてた。後々に分かったけどその後のも照れてたらしい。


同じように髪を後ろに流すように持っていき、耳の裏に指を沿わせながら、もう片方でうなじをひと撫でして後頭部に上げる。


途中肩が跳ねて離れようとしてきたけど、後頭部にある手に力を入れて邪魔をした。


「……」

「触れって怒るから。そんな顔で睨まれたって怖くないよ。」

「……慣れてやすね。」

「銀さんにやった事あるの、だからわざとだよ。因みに銀さんは走って逃げた。」

「あっちのドSはもう手遅れでさァ。」

「ふふっ、でも触れって言ったの銀さっ、んん! っそれ、駄目だわ沖田くん。」



正面から肩に手を置いてきたと思ったら揉むよう指に力が入った。畳で横になってて身体痛かったから余計にだし、指の力加減が絶妙で絶対沖田くん肩揉み上手だ。


「結構凝ってやすね。雑魚寝は止めた方が良いですぜィ」

「うっ、ん、…沖田くんもう止め、っんん、やっ、まって、」

「名前さん声ヤベェ。」

「っ、…そこだめ、やめっ、」

「ココですかィ? 名前さん、ちゃんとイイ所は言ってくんねぇと、」

「うぁ!やめ、…っんぅ、」

「ふざっけんなァァァァァ!!!! このクソガキがァァァ!!」


怒鳴り声と共に扉が開かれ銀さんが怒り狂いながら台所に入ってきた。


「何もしてやせんよ」

「んな事ァ分かってるわ!!!! 声出させんな!!」

「口塞いでやれば良かったんで?」

「やめろ!!そうじゃねぇ!!!! それはそれでイイけどそうゆう事じゃねぇんだよ!!!! ほら見ろ!もうぐったりしてんじゃねぇか! なんて事してくれちゃってんの!? 」

「は、ぁ、銀さん、」

「っ、止めろ!! そんな声出すな!顔もやめろ!!」

「そんな制限させたら可哀想じゃ無いですかィ。」

「っんん!やっ、」

「止めろってェェェェェェェ!!!! 触んな!お前もう触んな!!!! おい目ェ覚ませ!!」

「いっ、たいよ、銀さん、もっと優しくして」

「ばっ!! お前バカなの!? 喋んな!!お前はもう喋んな!!!!」

「んんっ!ん!」

「や、めろォォォ!!!!喋ろうとすんなって!大人しくしとけ!? な!? 」

「うるっせぇよ、廊下まで怒鳴り声響いてんぞ静かにしろ、あぁ?何やってんだテメェ。」

「今てめぇに構ってる暇ねぇんだよ!!!! 」

「んっ!んんっん!!」

「しー!!静かにしろって、」

「強姦未遂で逮捕する」

「はァァ!? 誰が!! 」

「自分の格好見てみろよ」



私はとっくに落ち着いてる。なのに銀さんはさっきからずっと叫んでて、起き上がった私を再度台に押し付けて口まで塞がれてる。退かそうとした手も掴まれて片手で両手を頭上に固定された状態で。


土方さんの一言で、ふと銀さんの表情が固まった。近かった顔がゆっくり離れ、私と言うか私の格好?を見て更に叫んだ。


「ギャァァァァ!?!? な!?なっ、ちちち違うよ!? 違うから!!俺何もしてない!」


「名前さん服捲れてやす。」


凄い勢いで離れて行った銀さんと入れ替わって沖田くんが傍に来て、いつの間にか捲れた服を直し起こしてくれた。


銀さんに目を向けると怯えた顔してこっちを見ている。


「大丈夫だよ銀さん落ち着いて。二日酔いは大丈夫なの?お味噌汁作ったけど飲む?」

「の、む。」

「沖田くんと土方さんはどうしますか?一応朝食に出せるかな、と思って多めに作ったんですけど朝御飯に飲みます?」

「今飲みまさァ」

「俺も今飲む」

「じゃ、まだ温かいんで入れますねー。」




暫くして出勤してきた女中さんにお味噌汁を託し、皆に挨拶を済ませて私と銀さんは帰宅した。









「私少し出掛けて来るね。」

「おー、何処行くの?」

「おじさんの所。今電話で配達手伝って欲しいって、急に注文来たみたいで私行って来る。」

「乗せてこうか?」

「大丈夫ー、と言うか銀さん二日酔いだよね。朝から騒いで疲れてるし休んでて。」

「朝のはお前のせいだろ。」

「人のせいにしないでよ、私なにもしてない。」



午後になっても銀さんは体調が悪そう。二日酔いって大変なんだな。




配達先はそこまで遠くでも無くて歩いて行ける距離だった。初めて通る道だったけど地図を書いてくれていて迷わず辿り着いたし、終わったらそのまま帰ってくれて良いと言われているから後は帰るだけ。


誰も歩いてないけど凄く心地好い所だな。
川が流れてて風も気持ちいい、元の世界では散歩がてら宛もなくぶらぶらする事もあったけど、こっちに来てからはしてない。と言ってもいつの間にか知らない所に来てる時はあって、銀さんが探しに来てくれたり沖田くんに会ったりする。


今日のご飯は何作ろうかな、と川を見ながら考えたら背筋にゾクリと悪寒が走った。

反射的に後ろを振り返ると少し離れた所に人が立っていた。


誰。いつから居たの。気配は無かったし足音も聞こえなかった。その人は口許に笑みを浮かべながらじっとこちらを見ている。


「お姉さん地球人?」

「っえ、そう、ですけど。」

「ふーん」


どうゆう意味だろう。私地球人に見えないの?もしくはこの人が地球人じゃないの?

一目見た瞬間、神楽ちゃんを連想させるくらい似ていると思った。髪の色、チャイナ服、傘、もしかして同じ夜兎族とか?

変わらず笑みを浮かべたまま見ていたと思ったら、その人は前に一歩踏み出した瞬間消えた。

……違う。消えたんじゃない。


「っ……!」

「へぇ、避けれるんだ。面白いね。」



何なのこの人。消えた訳じゃない、視界に入らないくらい上に高く飛んで私の立っていた所に降りてきた。それも勢い良く傘を下ろしながら。
寸での所で避けれたけど、ギリギリ。本当にギリギリで交わしただけ。どくんどくんと心臓の動きが速い。地面に手を付いたまま直ぐ近くに刺さっている傘を見ると場所はさっきまで私が立っていた所そのもの。交わせなかったら多分死んでいた。


顔を上げれば表情は変わらず笑ったまま傘を抜いた彼に、慌てて立ち上がり距離を取る。


「こんな所で何してるの?」


どうゆう意味?…………まさか立ち入り禁止なの、ここ。だから誰も居ないの?また?



「俺と一緒に来る?」

「っ、は? なに、言って、」

「お姉さん面白そうだし、俺と契約するなら連れてってあげるよ。」


そう言って一瞬で目の前に来たこの人は私の左手首を掴んだ。


「いっ!! 」


痛いとか言うレベルじゃないくらい痛い。骨がミシミシ言ってるのが分かる。そんなに力を入れてるようには見えないのに、……逃げないと、この人駄目だ、普通の人間じゃない。私なんて一瞬で殺せそう。逃げれる気がしない。でも、逃げないと。家で銀さんが待ってるんだ、絶対帰らないと。


多分チャンスは一度きり、失敗したら終わる。


「ねぇ、聞いてるの?」


更に握ってる手に力が込められる。
下を向いたままふらつくと覗き込むように顔が下がってきたのが分かった。


顔を上げ右手で叩こうとすれば、直ぐに手首を掴まれて止められた。でもそんな事は分かってる。掴まれる寸前に右足を勢い良く上げれば顔が反れてそれも交わされた、だけど手加減なしで全力でやったお陰か頬にかすって線が出来た。さっきまでの笑顔が消え、目が薄く開き口許だけ吊り上げて笑ってる。
上げた足で再び蹴ろうとすると掴んでる手を片方離し防ごうとしてきた所で蹴る場所を掴まれたままの手に即座に変え落とす。当たりはしなかったけど、これで両手とも離れた。これでいい。直ぐさま後ろの川に飛び込んだ。








泳げるだけ泳いで川から顔を出すと普通に人が歩いているのが見えた。


少し人目の付かない所に移動して川から出る、


「ゲホッ、はぁ、はぁ、」


良かった、追い掛けては来てないみたい。
背中から攻撃されても多少なら死なないだろうと思ったけどそれも無かった。

何とか逃げ切れた、そう思った時、真後ろで草の踏む音が聞こえた。

追って来たの?

振り向き様に勢いを付けて足を上げれば、そこに居たのは想像していた人では無く、勢いの失った足が簡単に掴まれた。



「っごめ、」

「お前、どうした。今川から出てきたよな。 」



掴まれた足がゆっくり地面に下ろされる。
何で、何で銀さんがここに居るの?


「なん、で、」

「……全然帰って来ねぇから、探しに来た。」



探しに、……具合悪くて家に居た筈なのに。何処に配達に行くかなんて言ってない、ここに出るなんて私でも分からなかった。


着物を脱ぎ私にかけてくれた銀さんは、少し屈みながら長い着物を私の腰の位置で折ってくれている。


目の前に下げられた銀さんの頭。死んだかもって思った。でも絶対帰る、銀さんに会う為に。そう強く思った。ゆっくり目の前の頭を手で挟む。銀さんだ。温もりが分かる、私死んでない、ちゃんと会えた。


挟んでた頭が動いて少し低い位置から見上げられて目が合った。



「っ、…ごめ、濡れちゃっ、」


最後にぐっと腰で結んだ後、そのまま膝の裏と背中に手を回され身体が宙に浮いた。


「えっ、…い、いいよ、私、」

「いいから、首にでも腕回してろ。」



こんなずぶ濡れで抱き着いたら銀さんが濡れてしまう。だけどこの温もりに我慢していた涙が溢れて言われた通り首に腕を回して抱きついた。

ぴったりくっ付くくらい力一杯抱きついたら銀さんも抱き上げた手に力を入れてくれた。








抱き上げたまま浴槽にお湯を溜め、風呂場から出る。そのまま床に座り膝の上に乗せた。



配達行くだけの割には時間がかかり過ぎてるし、まさか迷子じゃねェだろうなと探しに出れば、丁度川から人が上がってくる所が目に入った。着物じゃないから直ぐに名前だと分かり、走って向かえば蹴りが飛んで来るも俺だと認識したのか直ぐに速度は弱まった。振り向き様に蹴り飛ばすなんてよっぽどだ。明らかにさっきまで誰かと対峙していた証拠。


切羽詰まった顔で俺を見たまま動かないこいつに着物を着せれば、震える手が力無く頭に触れた。見上げれば今にも泣き出しそうな顔。


何があったんだ。前に襲われそうになった時とは違う気がする。それにさっき見た手首の痕。普通の力じゃ、あそこまでならない。しっかり首に回されたこの腕を引き剥がす事なんて出来ない、とにかく冷えた身体に熱を与えるように抱き締めた。



「お湯、溜まった。風呂入れるか?」

「……うん」



返事はあるものの一向に離れないし力も弱まらない。

早く手当てした方が良いし、何があったのかも聞きたい、こんな濡れたままじゃ風邪引くかもしんねぇし。



「……名前。」

「もう、ちょっと。」




再び抱き上げて立ち上がる。後ろの風呂場の戸を開け抱えたまま浴槽に入った。



「っ、」

「いつまでも濡れたままじゃ風邪引くだろ。」

「あ、ごめん。……ちゃんと入る。」

「いいよ、これで。」


少し離れた身体から着物だけ脱がせて浴槽から出す。
首に回ってた手は下ろされ、でも大人しく身体を預けて鎖骨辺りに頭が置かれてる。

腰を支えたまま下げられた手首を掬うようにお湯から出すと、思った以上に赤くくっきりと手の痕が残ってる。左手に関しては少し腫れてすらいるし。


俺が見つめる左手首を自分の右手で撫でた後、頭を寄せたままゆっくり顔が上がった。


……どうゆう顔だこれは。泣いてんのかと思った。いや、実際さっき泣いてたし。何があったのか聞き出したい気持ちを押させて、こいつを落ち着かせる事だけ考えた。なのに今上げられたその顔は、



「やっぱり同じだと思う。」


普段と同じ顔だった。



「……なにが。」

「神楽ちゃんと。夜兎族って皆チャイナ服なの?後、髪色と傘。」

「……は? 何の話だ?」

「さっき会ったの。神楽ちゃんに似た男の子。かなり攻撃的だったけど。」


は? ……いや待て待て、神楽に似た男って、


「……お前、その手の痣ソイツにやられたのか?」

「うん。死んだと思った。」


死んだと思った?



「どうやって、逃げて、怪我は、っ、怪我ねェの!? 」

「無いよ、手首掴まれただけ。」



っ…、焦った。あんなのに攻撃一回でも受けたら重症なんてレベルじゃねぇぞ。


「つーか、何があった? 何で配達行ってそんな目にあってんの?」

「分からない。突然後ろに現れて、傘振り下ろされた。間一髪で避けたら手首掴まれて、でも何とか頑張って逃げてきた。」

「避けたのか?」

「ギリギリね、本当にギリギリ。あれ避けれてなかったら私は今ここにいない位のヤバさだったよ。」


だろうな。平然と言ってるけど、さっきの表情からして、相当怖かっただろう、


「どうやって逃げてきた?」

「蹴ったの。交わされるのは分かってたけど、全力でやれば隙くらい作れるかと思って。やっぱり顔に線入ったくらいで交わされたけど、何とか手は離させる事出来たから川飛び込んで逃げてきたの。」



……線、入った? おそらくあっちも油断はしてただろうが、顔に線? アイツに?


「テロリスト、では無い気がする。でもかなり危ない人な感じ。通り魔? 」

「いや、海賊。」

「海賊!?」

「あぁ、お前の予想あってるよ。ソイツは夜兎族。因みに神楽の兄貴。」

「……お、兄さん、なの?」

「そう。お前本当に良く逃げて来れたな。アイツは俺でもキツイぞ。」

「……私、神楽ちゃんのお兄さんに蹴り入れたの?顔に、……。」

「何でんな事気にしてんの?お前殺されかけたんだぞ。」

「いや、だって。」

「だってもくそもねぇよ。お前暫く外出さねぇからな。」

「え!? なんで!?」

「お前のトラブルメーカー具合ナメめてたわ。」

「私のせい!? 違うよ!多分立ち入り禁止では無かったと思うし!」

「多分とか言っちゃう辺り怪しいな。取り敢えず仕事はしゃーねぇから送り迎え付きで許可する。それ以外禁止な、買い物も新八に行かせる。」

「そんな……大丈夫だって、」

「お前の意見なんざ聞いてねぇから。それとも仕事にも行かせねぇで監禁してやろうか?」


引きつった顔されたが知ったこっちゃねぇ。

今生きてここに居ることが奇跡に近い。たまたますれ違った訳でもなく完全に対峙してんだ、手首に痣までつけて。

どうやったらそんな事になるんだよ。多少の場慣れに助かったけど、こいつ、ホントに、心臓に悪すぎる。俺が安心するまで絶対ェ出さねぇ。



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