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▼ 特別感



腰の悪い爺さんの代わりに買い出しの依頼を終え、年寄りの長話は新八と神楽に任せて帰宅した。菓子を出されて神楽は喜んで残ったが俺はめんどくせェしな。


引き戸に触れるとすんなり開く玄関。また施錠し忘れたか、と思いつつ足を踏み入れると見慣れた靴が置いてある。


え?あいつ今日仕事だよな? 朝仕事行くっつって出掛けた筈だ、帰って来てんの?


何かあったのかと速足で居間に向かうと、それを見た瞬間固まって動けなくなった。



何だあれは。脚立に登って額縁を拭いている後ろ姿。それは良いんだ、そうじゃなくて、……ハッキリ言おう。モコモコ短パンの部屋着スタイルだ、しかも見たこと無いやつ。兎じゃねぇな、良く見りゃ猫かあれ。兎でさえ、あいつは滅多に処か最初と俺が言って着させた2回のみしか着てない。何で今着てる?着るなら寝る時に着ろよ。


ようやく俺の存在に気付いたのか後ろを振り向いたあいつは大袈裟に肩を揺らした。



「っ!び、っくりしたぁ。銀さん帰って来てたの? お帰り」

「たでーま。お前仕事終わったの?」

「そう、おじさん用事あるからって早く閉まったの。」

「ふーん。……猫耳の初めて見たわ」

「あ、…あー、これね、近藤さんがお仕事お疲れ様ってプレゼントしてくれたの。着てなかったから、誰も居ないし良いかなって思って、でもここの埃気になって今掃除してた。」



ゴリラが?何でこれチョイスした? でも良い仕事したわ。こればっかりは誉めてやる。


無遠慮に晒された脚。脚立に跨がってるせいで余計布が上がって際どい。


「……あんまり見ないで貰える?」


じっと舐め回すように見てたと思う。見せる為に着たワケじゃない事は分かってる、誰も居ないから着たっつってたしな。でもここ俺ん家だし、帰って来んだろそりゃァな。


目を細めてフードを被りまた掃除を再開し始めた。

俺の目線を視界に入れない為にフード被ったんだろ?けどな、逆効果だわ。


ゆっくり近くまで歩いて行くと額の裏から何か出てきたらしく手に取り眺めている
そう言えば写真入れてたんだっけ。
懐かしいな今度こいつの写真も撮っとくか、と呑気な事を考えながら手元が見える所まで近寄るとそこにあったのは思い出に浸るような綺麗なモンじゃ無かった。


「っ!? う、あぁぁぁぁ!! 違う違う!! これ違う!!」


そうだったァァァァ!!ここに入れて置いたんだった、借りたヤツ!ガキ共に見付かんねぇようにって隠したんだったァァァ!!!!

手元に広げられていた水着が満載の雑誌を引ったくるように奪い取り背中に隠すも冷や汗が止まらない。


ど、どどどどうしたら良いのこれ。この家の主は俺。しかもこんな所に隠すようにあったんだ、言い訳なんざ通用しねぇよな。

こいつは彼女でも何でもねぇけど、俺今落としてる最中だぞ、駄目だろこれ。存在忘れてたけど駄目だろ。


「そんなに慌てなくても良いのに。勝手に見ちゃってごめんね?」



俺の焦りとは裏腹に、こいつは全く気にしてないとでも言うようにまた掃除を再開し始めた。



っえ?何で?こんなモン出てきたら普通動揺しねぇ?
サイテー!とかねぇの?いや、言われたら俺立ち直れねぇかもしんないけど。にしても、何も思わねぇの?



…………俺が、他のヤツ見ても、何も感じねェってか。
確かにそんな関係じゃねぇけどよ。少しくれェ何か無ェのかよ。ここまで、何も思われてねぇとは流石に思わなかった。



「何も無ェの。これ見て、お前は少しも思わねェのかよ。」



自分でも理不尽な怒りだと思う。しかもそれをぶつけるなんざ、それこそ最低だ。でもよ、ここまで、一歩通行だと、



「いいの?」




………………は?


え?何が?何がいいの? 思ってもいない返しに一気に怒りが飛んだ。


「………いいのって、何が?」

「だから、嫉妬? 立場的にそんなのして良いのかなって。」

「っえ、するの?嫉妬したの?」

「まぁ、」

「え!? したの!?」


したの!?嫉妬したの!?

この媒体に嫉妬!!


「あっ、流石にその水着の方々にはしないけどね。」



…え?どうゆう事? したんじゃねぇの?


「してねぇの? 」

「しないねぇ。好みの写真とかは見たい物じゃないの? 目の保養だし。女だって、イケメンとか身体付き良い人好きでしょ。」

「え、嫉妬してくれたんじゃねぇの?」

「それにはしないよ。」



今の説明は男からしたら女神のようだと思う。許されるんだ、でも俺は許せねぇかも。こいつがもし、男の裸体載ってる雑誌見てたら破り捨てる。捨てようこれ。俺のじゃ無ぇけど存在忘れてたくらいだし。


……それにはしない。この雑誌にはしない? なら何にしたの? 何かにはしたって事だよな?



「……何にした、の?」

「んー、……ないしょ。」


ないしょ!?何でないしょ!? つか、ないしょって!!

悪戯っ子みたいな顔をして人差し指を唇の前に置き言った、ないしょ。

ないしょ!!

狡くね!? 良いの!?そんな気持ち弄ぶみたいな事して良いの!? いや、良いんだ!! 良いんだったァ!!そうだ、賭けしてんだ。しかも俺言ったわ、思わせ振りでも何でもして勝てば的な事言った記憶ある。マジか、良いんだ、これ良いんだ、え、……でも気になる。何かには嫉妬したんだよね? 何にしたの?



「ヒントォ、とかは、無しですか、ねぇ?」

「だーめ。」


ダメなの!?

懇願するように見れば、笑って軽く舌を出された。


いつから!こんなに!あざとい事するようになったのこの子は!!



持ってた雑誌を机に放り投げて、脚立に跨がったまま尚も掃除をしているこいつの腰に正面から腕を回して脚立から持ち上げるように浮かせた。



「わっ!! なに!? 」


脚立に跨がっていたせいで、すんなり脚が開き俺の身体を挟んで左右に下がるように軽く身体を反ってみぞおち辺りで抱き止めた。1度片腕に力を入れて抱き締めてから、もう片方の腕をお尻の下に持っていき、そこに座らせるようにすれば安定さが増して固定される。


子供を抱くような格好、でも俺が見上げないと顔は見えないし、脚が左右に開かれているから密着も大きい。


俺の両肩に手を付いて、顔1つ以上は高い位置から目を大きくして見下ろしてくる。高さが怖いのか肘を曲げて手を置いているから、見上げれば下を向いているこいつの顔と近くなり、サラサラの髪が甘い匂いをさせながら顔に触れる。



「…え、嘘、でしょ。何処から力出してるの? 今腕に乗せてる? 私片腕に乗ってるの?」

「おー、怖いか?」

「怖いとかそうゆう問題じゃ無いんだけど。何でこんな事が出来るの?サイボーグ? 」

「人間だっつの。お前抱き上げるぐれェ片手で余裕だわ」

「いやいや有り得ないよ、子供じゃないんだから。立派な体重あるよ、銀さんマッチョな訳でも無いのに何で? な、何で、ってか早く下ろして!? 腕折れるんじゃないの!?」

「折れねーって。」

「だっておかしい抱き上げ方だよ!? 私の全体重腕一本!? 折れる折れる! 早く下ろしてって!」


何で俺の腕の心配してんだこいつは。やっぱり照れとかねぇのな。
抱き上げたまま歩いてソファーの後ろに回り、背もたれに寄り掛かるようにすれば、脚が両方とも曲げられて俺を挟むように背もたれに膝が乗った。



「もう本当下ろしてって、っ、え!待って待って、」


背中を支えていた腕を離して本格的に腕一本にすると肩に置いてある手に力が入った。


少しでも体重を支えようとしてるのかしっかりソファーに乗せている膝に空いた手を置くと、短いズボンのお陰ですんなり素肌の感触。


上から抗議してくる顔を見上げながら、膝を撫でゆっくりふくらはぎに手を這わせると流石に声に怒りが含まれた。


「銀さん!!」

両手で軽く髪の毛を握って止めさせようと抵抗してくる。


「いってぇだろー、握んな。」

「下ろして!」

「えー。」

「ひゃあ!? ちょっ、!」


わざと身体を後ろに反らせると焦ったように手が肩に戻り掴まってくる。


「危ないっ、て、ば! 何してるの!?」

「悪戯?」

「馬鹿じゃないの!?」



本気で焦った顔しながらもしっかり俺を掴んでくる手に口許緩ませながら見上げていると、空気の読めないチャイム音が聞こえてきた。




「あ、誰か来た! 良かった、私見てくる。」


誰だよこんな時に。

腕を腰に戻してソファーから離れ、玄関に向かって歩く。


「は?え?銀さん?」

「んー? なに。」

「いや何じゃなくて下ろしてよ、何処行くの?」

「人来たから玄関行きたいんだろ?」

「1人で行くから! 何でこのまま行くの!? 」

「この方が早いじゃん」

「意味が分からないから!っ、もう、」

「っおい!見えねぇだろ!」


肩に置いてた手を離して両手で目を塞いできやがった。

まぁ見えなくても玄関ぐれェ行けるけどな。


「っ! え!? 何で普通に進むの!?」

「自分家の玄関ぐれェ見えなくても行けるっての。」

「このまま出るつもりじゃないよね!? …………あ!! 」



何だ?焦った声から突然驚いたような声に変わったが、未だ目を覆われていて何も見えねぇ。




「どうした?」

「土方さん!」

「は!? 」


何で今アイツの名前出した?まさか客ってソイツじゃねぇだろうな?


ガラッと玄関の開く音が聞こえて、直ぐに聞きたくも無ェ声も聞こえてきた。


「は? お前ら何してんの?」

「下ろしてくれないんですよ! もう、何とかして下さいこの人!!」

「おいテメェそいつに助け求めんなよ!!つか手ェ離せ!!」

「なら下ろしてよ!!」

「絶対ェ下ろさねぇ。手ェ離せ。」

「絶っ対離さない!!」

「その服、近藤さんに貰ったヤツか?」

「あ!そ、うです。…けど、私、この服のままだった…! 銀さんのせい!」

「俺のせいにすんな。」

「すげェ服だな。お前そうゆうの好きなのか?」

「え!? あ、好き、ですけど、…そんな人に見られて平気って思う程、痛い思考では無いです、」

「何が? つーか、違和感無ェな。あんま見ねぇのに洋服、着慣れてるだけあんのな。」

「えっ、あれ、引かないんです?」

「何で?」

「わ、土方さん優しい!知ってたけど、ここまで優しいとは!っ、ぎゃぁ!? な、何!?銀さん何してんの!?」

「はぁ!? テメェ何してんだ!馬鹿か!?」



うるせぇな。見えない分、声に敏感になる。今、明さまに嬉しそうなトーンに変わったのが分かった。

腰に回してた手を裾から中に滑らせて背中を撫でれば焦った声と、呆れながらも責める声。

目に置いてあった手に一瞬力が入ったが直ぐにそれは消え、同時に今まで腕に収まってた重みまで消えた。


急な光に目を細くして前を見ると見たくも無ェ野郎は目の前に居たわけだが、その腕にはかつて俺の腕にあった温もりが抱きかかえられていた。
後ろからお腹に腕を回して片手で自分の腰に抱き寄せている



「ふざけんな返せ。」

「テメーがふざけた事してるからだ。」

「触ってんじゃねぇよ、」

「えっ、待って何で普通に会話してるの? おかしくない?何で当たり前みたいに土方さん片手で持上げたままなの?」

「置いたらまた捕まんだろ」

「いやそうじゃなくって何で片手? こんな高い位置なのに片手? どんな腕してるの?二人とも実はマッチョなの?」

「はぁ?オメェくらい余裕だわ。」

「いや私軽くないのに? 」

「つーか、いつまで触ってんの? いい加減にしてくんねぇかな。」

「こんな状況で言い争うのは止めよ!? せめて私を下ろしてからにして! っ、……へ?」

「いい加減にしなせェ。いい大人がいつまでもぎゃーぎゃーと。」

「え?待って待って、嘘でしょ。何で?そんな事ある? どうやってるのこれ?」

「このまま持って帰った方が早いですかねィ。」

「ざけんな離せ。」

「総悟、お前は仕事してろっつったろ。」

「土方さん1人じゃ拗れるだけでさァ」

「待ってってぇ!! 普通に会話しないで!? おかしいでしょ!?見て! 沖田くん片手!!おかしい!!沖田くん片手!?」

「落ち着きなせェ、どうしたんで?」

「どうしたんで!? どうもこうも片手!!皆片手!!!! 」

「落ち着けよ。」

「片手なのに!?」



こっちが冷静になるくらいこいつはおかしくなってる。
片手なんざ余裕だろ。

本日3人目の男に抱き上げられているこいつは、自分で言うように片手で、腕に座らせるようにして抱えられている。俺の時とは違うのは脚が閉じてるっつー所。やや正面から横にずれ、それこそ子供を片手で抱き上げるような抱え方。今、肩に手を置いて上から抗議している。



「アンタ1人くらい余裕でさァ。」

「腕折れるって! 早く下ろしてよ!」

「下ろしてやっても良いですが、今夜屯所来てくれやす?」

「は!?」

「飲みやしょうって前言ったじゃねぇですかィ。明日仕事休みって言ってやしたでしょ? 」

「あ、お酒、え、…でも、」

顔が俺に向いた。
一応その辺は俺に気を遣ってくれるらしい。



「旦那連れて来ても良いですぜ。俺はこのまま連れて行っても良いですけどねィ。」


そう言って俺の方を見たアイツは確信犯だ、人質とでも言うように。だからずっと抱えたまま下ろさない。


「…………わーったよ。神楽は新八ん所泊まらせる。」

「じゃあ夜、山崎に迎え来させやすんで。」



やっと下ろされて、あいつは多少ふらつきながら腕を支えられて立っている。


「大丈夫ですかィ?」

「何で私がふらふらなの。皆の身体どうなってるの? 」

「アンタ程ヤワじゃねぇんで。にしてもすげェ手触り。」


言いながら腰から背中を撫でるように抱き付きやがったアイツは、一瞬俺を見て口端を吊り上げながら首筋に顔を埋めてる。
殺意しか沸かない。でも触る宣言はされてる、それを踏まえた上でとかも言われてる。俺これ耐えなきゃなんねぇの?つかいつまで触ってんの?マジふざけんなよクソガキが。



「おい総悟いい加減離れろよ、もう戻んぞ。」

「土方さんもさっき触ってたじゃねぇですかィ。」

「別に触ってたワケじゃねぇよ」

「ふーん。なら触らせて貰いやす?」

「はぁ?」

「触ります? 良いですよー、モコモコスベスベで手触り抜群ですよ。」



今度は自分から野郎に近付き片腕を伸ばして触らせる気を満々だ。そしてやっぱり触んだな。腕を撫でるように触らせてるのを黙って見てると暫くしてようやく奴らは去っていた。



「そろそろ神楽ちゃん達帰ってくるかな?もう着替えよ」


俺の横を通りすぎて寝室に向かおうとするこいつの腕を掴み引き止める。


「え?なに?」

「抱き付かせて」

「もう十分抱き付いたじゃん。」

「お前は抱き付いて来て無ぇじゃん」

「私別に抱き付かなくて良いんだけど。」


腕を掴みながら寝室に入り、腰を抱き寄せながら足を引っ掛ければ簡単にバランスを崩して膝が曲がる。


正座を崩したように座り込んだ正面から、足の間に身体を収めるようにして抱き締める。
脇の下から手を入れて腕を回せば素直に首に両腕を回してきた。


さっきやられてたみたいに首筋に顔を埋めて息を吸えば、脳がやられそうになる程の甘い香り。




「俺ってアイツらと同列なの。」



酷くダセェ事を言っているのは分かってる。こんなのガキの駄々と一緒だし、アイツらを大切に思ってる事も知っている。


何も言わないこいつにバツの悪さを感じながらゆっくり顔を離すと、途中頬同士が触れた。俺が触れさせたワケでは無いし偶然でもない、故意的に触れた、と言うか擦り付けられた。

驚きながら顔を見れば、至って通常通りの表情で言ってきた。



「特別感出してみた」


「……もう1回やって」




こいつは色んな意味で俺のスイッチを押すのが上手いと思う。

さっきのモヤモヤは一瞬で吹き飛んだ。

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