▼ 世間は狭い
「もー本当にびっくりしましたよー。」
「まさか本当に気付いていないとはな。もう少し周囲に警戒した方が良い」
「いや、あんな堂々とお団子食べれる人がテロリストなんて思わないですもん。それよりどうしよう、私知らなかったし、」
「真選組か?」
「そうです、見掛けたら直ぐに通報しろって、私頷いちゃいましたよ。先に知ってたら誤魔化したのに、頷いちゃったら言わないと嘘になる。」
「言ったら良いのではないか?」
「えぇ? 捕まっちゃいますよ?」
「甘く見るな。そう簡単には捕まらん。」
「えー、でもきっとウチの店張り込まれたりしますもん。来れなくなっちゃいますよ?」
「俺を誰だと思っている。何度も潜入調査しているんだ、問題ない。」
「本当かなぁ。でも嘘付きたくないんで私本当に言いますからね?次から気を付けて下さいよ、庇いきれるか分からないですから。」
「うむ。そうしよう。」
「銀さんずっと黙ってるね?大丈夫?」
「……仲良すぎねぇ?」
え、会ってからそこまで日にち立ってないけどな。
でも休憩中とか一緒にお話しながらお団子食べたりしてた。
「銀時、あまりおなごの肌を噛むのは頂けないぞ。」
「うっせェよ。つーか何でそんな話してるワケ?」
「どっからその話題になったんでしたっけ?」
「昔の話をした辺りかもしれんな。」
「あぁ、ふわ夜叉だ」
「誰がだァァァァ!!!!」
「うわっ!びっくりしたぁ、急に大声出さないでよ。どうしたの銀さん。」
「てんめェ!!どうゆう説明してんだよ!!」
「白夜叉と言って怖がらせても可哀想ではないか。」
「だからって何だよ、ふわ夜叉って!! 簡単に吹き飛ばされそうじゃねぇか!!!!」
「そんな事はない、しっかり説明はしている。」
「あぁ!? お前、余計な事言ってねぇだろうな!?」
「大丈夫だ、ちゃんと説明はした。そうだろ名前殿。」
「え?ふわ夜叉の? 聞きましたけど、何で銀さん怒ってるの?」
「ここにいる坂田銀時がそのふわ夜叉だ。」
「え?……え!? 銀さんがふわ夜叉なの!? 」
「ふわふわふわふわ止めろよ!! 悪口か!?」
えぇ?ふわ夜叉なの?銀さんが? そんな事ってあるんだ…。世間は本当に狭いな。
「場所を変えよう、ここだと目立ってしまう」
「あっ、そうですね、テロリストだった。」
・
・
「はー、びっくり。まさか銀さんだったとは。」
「世間は狭いと聞くがその通りだな。」
「本当ですねぇ。じゃあ銀さんも総督さんの知り合いってこと?」
「何でアイツは普通の呼び名なんだよ。」
「分かりやすく伝えたつもりだ。」
「総督さんは破壊活動してるんだっけ?もしかしてテロリスト?」
「オメーの持ってる手配書だよ。」
「え!?この人が総督さん!? お坊っちゃま要素ない!」
「……どんな説明してんだよ」
「時には面白おかしく説明しないと飽きてしまうだろう?」
「じゃあこの人と銀さんは好みの人似てるんだね。」
「マジでどんな説明してんだよ!!!! 余計な事吹き込んでんじゃねぇぞテメェ!!!!」
「何を怒っているのだ、事実ではないか。」
マジでふざけんな!!!!
「そっか、でも良かった。元気だね。」
「は?」
「名前殿はふわ夜叉が元気に過ごして欲しいと言っていたからな。」
「元気でした。」
何だよ、それ。 何の話したんだ。
「では、俺はこれで失礼する。」
「あ、はい。次から来る時は警戒しまくって来て下さいよ。」
「承知した。」
ヅラが居なくなった事で名前と2人だけになった。
間を置かず「帰ろう。」と俺に何を聞くこともせず帰宅を催促してくる。
何を聞いたんだ。
おそらくざっくりと説明されただけだと思う。
俺はこいつに何も話してない、聞かれたことも1度もないし自分からも人を殺めてる事実しか言ってない。
「銀さん?」
石段に座ったまま立ち上がらない俺の前に立ち心配そうに声を掛けてくる
「……ごめんね、銀さんだって気付かなくて。でも、私大丈夫だから、知らないフリとか出来るよ」
んな聞きたくねぇ事聞かされたのか?
なんだ、戦争行ったとか聞いたのかな。
こんな他人から伝わるくらいなら自分から大まかにでも言うべきだったか。
「怖かったか?」
「え?何が?」
「聞いたんだろ、俺の事」
「……うん、ざっとだとは思うけど。勝手に聞かれたく無かったんでしょ?ごめんね、聞いたりしないからそんな顔しないでよ。知らないフリ出来るから、」
「……は、いや、……何でお前泣きそうな顔してんの?つか、なに、聞きたく無ェんじゃなくて?」
「え?だって銀さん私に知られたくなかったんでしょ? 叫んでたし、」
「それはアイツが馬鹿だから。」
「桂さん?でも桂さん面白いよね、お話上手だし。」
……そうか?
つーか、何だこいつ。俺の話聞きたく無ェんじゃなくて、 俺が知られるの嫌だと思ってんの?
「……なぁ、どこまで聞いたの。つか何聞いたの」
「…3人が幼馴染で寺子屋で育ったって事と、そこにお師匠さんが居て皆好きだった。天人が地球に来て戦争があった。その戦争に参加した。戦争は天人が勝って、3人は別々の道に進んだ。私が歴史疎いって言ったから説明も兼ねてしてくれたの。」
意外と知られてんな。アイツ結構喋ってんじゃん。珍しいな。
「俺が元気かって話は」
「…お師匠さんを慕ってたって、でもお師匠さん戦争で……。助ける為に先陣切って刀を振るって、諦めたりしない人だったんだって。聞いてると……今、元気で居ると良いなって思った。出来れば温かい環境に居てくれればいいなって。ごめんね、ただのエゴだよね」
「いや、」
戦争で亡くなったって聞いてんだろうな。
「…ねぇ銀さん。私、本当知らないフリ出来るから、だから、」
「なに、俺が離れて行くとでも思ってんの?」
「っえ、…」
「バカかお前は。行くわきゃねぇだろ」
「……でも、私に聞かれたくない事だったんでしょ?」
「あー、そうじゃねぇよ別に。まぁ、楽しい話では無ェし、敢えて言ってなかっただけで。」
「……本当に?」
「本当だって。何かある?俺に聞きてェ事とか」
「……銀さん、たまに怪我して帰ってくるのは攘夷の何かをしているの?」
「いやちげぇ。俺はアイツらがしてるような事はしてねぇから。一般人。俺が刀持ってたのは昔の話。今は、面倒事に巻き込まれた時とか、そんくらい」
「そっか。今元気?」
「は?元気だろ」
「うん、元気だね。良かった、ありがとう、聞きたい事終わり。」
「終わり? もう無ぇの?」
「ないよ」
「……なら俺の聞いて欲しい事言って良い?」
「うん、どうぞ。」
「俺は、」
言って良いかと聞いたくせに、何も言わず自分の足に置いている手を馬鹿みたいに見つめた。
俺の過去なんざ知らなくて良いと思ってた。楽しい話でもねェし、怖がらせてぇワケでもねェし。でも既にそこまで知ったのなら知って欲しいとも思った。平和な世界で育ったこいつが俺の過去を知った上でも変わらず傍に居てくれんのか、それとも流石に怯えんか。
だけど、いざ自分の事を話すとなると口から言葉は何も出てこない。どのくらい時間が立ったのかも分からないくらい、頭ん中に記憶が鮮明に映し出され沈んでいくような感覚にさえなってくる。
視線の先にある自分の手をただ映像として眺めていると、その視界の中に自分じゃない手が入り込んできて脳内の映像が途切れた。
その直後聞こえてくる声にどんどん沈んでいた心が引っ張り上げられていく。
「神楽ちゃんは、銀さんが立ち上がる時とかすれ違う時に何気なく頭に手を置くと、口ではオッサン臭いとか触んじゃねぇよって言ってるけど実は照れたように嬉しそうな顔してるの。新八くんはもっと分かりやすいね、掃除終わった後とか銀さんがお疲れって頭に手を置く時嬉しそうな顔してる。2人だけじゃないよ、下のスナックの皆もそう。私と一緒に店を出るとき、タマさんが挨拶をすると銀さんは後ろ向いたまま手振るでしょ? その後タマさんはいつも笑うの。お登勢さんも作業をしててもその時だけは手を止めて一瞬銀さんの方を見る。キャサリンさんも見てるよ。知ってた?皆、銀さんの手好きなんだよ。銀さんがそんな思い詰めた顔をしながら見てるこの手を、皆大好きなの。」
「…………おまえは?」
「 忘れちゃったの? 私、銀さんの手大好きだって言ったじゃない。この手に何度も何度も助けて貰った、優しくしてくれた。不安な時も、寂しい時も弱ってたり落ちこんだ時も、全部だよ。銀さんはいつも手を引いて歩いてくれる、だから私は迷わないで進めるの。私にとって大事な手。例え銀さんがどう思おうと私達にとっては大切な手。今目の前にある、私に向けてくれたこの手が私にとっての大事な手なの。無理して何かを言おうとしてくれなくて良いよ、何聞いたって変わらないんだから。嫌いになる事は絶対に無いもの。」
「…そうかよ。」
目の前にある身体を抱き寄せて丁度顔の位置にあるみぞおち辺りに額を付けると緩く頭を抱き込まれた。
こいつは温かい。取り巻く空気すら温かい。だからどいつもこいつも近付いてくんじゃねぇかとも思う。特に戦いを知る者にとっては、この温かさは貴重だ。受け入れて癒してくれる。
けど俺はそれだけじゃない。求めて欲しい、俺を。俺と同じように。
「帰るか。」
「うん。」
腕は回したまま身体を離し見上げると目が合う。ふんわり笑って両手で頬を撫でられた。こいつからこんな風に触ってくんの珍しいな、……つーかそんな触り方されるとヤバい。今は特に感情に流されそうになる。
「困ったような顔になってきた」
「うん、手が出そう」
「手が出る? 」
「ちゅーしたくなる」
「えっ何で突然?」
「お前が触るから」
「そっか、ごめんね、もう触らないね」
「いや触って」
「どっち。も−、離れて、帰るよ」
「腕離れないんだけど。」
「は?何を言ってるの、帰ってご飯作るんだから離れて。」
「いやマジマジ。」
「えー、じゃあ動くセリフ言ってあげようか?」
「うん」
何か甘いセリフでも言ってくれんのかと期待した。でもこの状況でそれは逆効果だと言うことは考えれば直ぐに分かる事だったワケで。期待した自分を殴りたくなる。
真っ直ぐ俺を見て言ったセリフは甘さなんか微塵も存在せず
「高杉さんイケメンだった」
寧ろさっきまで俺の中にあった温かい感情は一気に消し飛んだ。
「あぁ!? お前今なんつった? ふざけんなよテメェ何て言いやがった?」
「わ−思った以上に効果抜群。さ、腕も離れたし帰ろうか。」
腕は確かに離れた。代わりに立ち上がり、顎を掴んで顔を固定している。なのにこいつはそれを物ともせずに帰宅を促してくる。
「おっまえ、マジでふざけんなよ。」
「そんなに仲いいの?」
「はァァ!? 良いわけねぇだろ!! 誰があんな中二病野郎と!!!!」
「中二病?高杉さん中二病なの?」
「見りゃァ分かんだろ!!」
「え?包帯? 普通に怪我してるんじゃないの?」
「んなもんとっくに治ってんだよ!!」
「…もしかして目が見えない……のかな?」
「おい待て待て何で悲しそうな顔すんの? それアイツ思ってしてんの? やめろよマジで、俺キレそうなんだけど」
「それは困る。帰りましょ−」
「なぁ、お前さっきのセリフマジなワケ?」
「大丈夫だって、イケメン第一位は沖田くんだから。」
「何が大丈夫!? 全然大丈夫じゃねぇよ!! そこは俺じゃねぇのかよ!」
「銀さんも格好いいって思ってるよ」
「っ、……」
「静かになったね」
「…適当に言ったのかよ」
「こんな事適当に言うわけ無いじゃん。」
「マジか」
「マジよ」
……くっそ。こんな事で、こんな一言で喜んじまう。ガキじゃあるめぇし、でもよ、歩き出したこいつは着いて来ない俺に振り向いて笑顔で手を差し出して来てんだぞ。
掴む以外無いだろ
照れ隠しで握る力を強めても、こいつは楽しそうに笑うだけだった。
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