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▼ どいつもこいつも



「バイト行ってくるねー」

「おー、気ィ付けて行けよ」


そこまで距離も無しい送り迎えは要らないとハッキリ言われて、たまに散歩がてら迎えに行く程度にしてる。

新八曰く迎えに行き過ぎらしいが、それでもあいつは俺が店に顔を出しても迷惑そうにはしない。寧ろ笑顔向けてくる。


昨日はあれから仕事に行くあいつを送り出し夜は一緒に寝た。また?と言う文句はあったものの、大した抵抗もされない。良い傾向だと思う、触れても嫌がんねぇし。


ただ、ここで問題が生まれた。既にイエローカードくらいは触れてる。なのにあいつは宣言した通り落ちる気配がない。これどうやったら落ちんの? もうさ、結構距離近けぇけど。マジでドキドキしねぇの?いやしてねぇの知ってっけど、 時折密着して心音確認しても変化はない。なんで? そうゆう対象に見れねぇの? いやこれも違う。おそらく誰も対象に入ってない。まぁ気長にやってくつもりだけどよ。




「名前さん何処に行ったんでしょうね。」


ソファーに転がりながら午前中が過ぎて昼飯を食べ終わった頃に新八が疑問を口にした。


「何処って仕事だろうが。」

「え?でもバイトって言ってませんでした?」

「は?だから仕事だろ?」

「名前さん甘味処行くときは仕事って言って行くじゃないですか。下のスナック行く時はバイトだけど朝からは行かないですよね。何処にバイトしに行ったんだろう。」


……確かに。深く考えた事は無かったが言われてみればそうだ。甘味処に行く時はバイトとは言って行かない。正式に雇われているからか。

なら何処に行った?

俺に何も言わずに知らない所に行く事はない。つまり俺の知っている所。尚且つ、言わないで行ったっつー事は言いたくなかった?俺に言いたく無い場所、そして言わなくても行く場所。

心当たりは一つしか無ェ。


「出掛けてくるわ。」


新八にそう告げて家を出た。







「旦那じゃねぇですかィ」

着いたのはこの間まであいつが女中としてバイトをしてた所。

「よォ。あいつ居んだろ。」

「バレやした? でも思ったより遅かったですねィ。俺は止められると思ってたんですけど名前さん中々やりやすね。」


至って普通にいつもの時間に出掛けて行った。バイトと言う言葉を添えて。つまりあいつは騙したり嘘を付いて出掛けたワケじゃねぇ。
バイトと言う言葉に新八は甘味処ではないと気付いていたワケだしな、完全にしてやられた。別にあいつの行動を制限してぇわけでもねぇけど、これは明らかに俺に気付かれないように出掛けて、それにまんまとハマった自分が悔しいだけ。



「…また女中やらせてんの?」

「いーえ、書類整理してやす。今大きく2班に分かれて動いてるんでさァ。分かりやすく中と外でやってやすが人手不足で頼んだそうですぜ」

「は?お前が言ったんじゃねぇの?」

「頼みに行ったのは土方さんでさァ」



あー、はいはい、なるほどね。若干残った違和感はこれか。例え俺が渋りそうな場所でも言って来んじゃねぇかとも思ったんだよな。でもアイツからの依頼なら俺は行かせない可能性がある。いや寧ろ高い。



「あいつ何処に居んの」

「外に居やす。行きやすか? あんまオススメしねぇですけどね。」

「あ?なんで」

「俺ですら良い気しねぇんで。」

「どうゆう意味だそれ」

「まぁ、見た方が早いですかねィ。キレねぇで下させェよ」



は?え、なに。俺がキレる可能性があるやつなの?






案内されて着いたのは外の広場に簡易テーブルやテントを張った簡単な会場のような場所だった。

人が多く行き来する中、その中心にあるテーブルに名前は居た。


「何でアイツの隣に居んの」

「土方さんのサポートで来てやすからね。」


へぇ、そう。

大きくもないテーブルに2人並んで座っている所を見るだけで苛つく。

時折1枚の紙を見ながら話をしている所も腹が立つ。近けぇだろ、んな近付かなくても良くね?


入れ替わりに現れる野郎達にテーブルで書類の受け渡しをしているあいつを眺めて居ると、不意にとんでもないシーンが目に飛び込んだ。

アイツ今触ったよな? 名前がテーブルに向かって作業している途中、あのニコチン野郎は隣から顎を掴んで自分の持ってる紙に無理矢理顔を向かわせた。いや、何度か話し掛けてんのはこっから見ても分かったけどよ、あいつ真剣に作業してっから聞こえてないんだろ。

だとしても、おかしくね? もっと肩叩くとかあんだろ。何で顔触った? そしてあいつは何で平然と紙見てる?さっきも近けぇと思ったのに更に近けぇって。前髪同士触れてんぞ?普通人と並んでも前髪触れる程近付くか?

あ、やっと距離の異常さに気付いたのか名前がアイツの方を向いた。……って、はぁ? え?待って触った?自分から野郎の前髪触ったな? そしてその手を今度は自分に向けて見た後に野郎に見せた。何がしたいの? っ、あぁ!? 待て待て待てホント何してんの!?
手の平を向けられたあの野郎、事もあろうにその指先を握った。擦り付けるようにして。


「ススでも付いてやしたかね。さっきバズーカ撃ったんで。」



あぁ、……そう。それに気付いた名前が前髪に触れて確認し野郎に見せたって?で、野郎がそれを拭ったと。

それ必要ある? そんなやり取り必要ある?



ようやくこの地獄映像から終わりを迎えるのか野郎が立ち上がって隊士と話始めた。そのまま消えろ、と願って居ると。野郎が話始めて少ししてから名前は目の前の書類から幾つか寄せ集め手渡す、そして野郎も受け取る。一見普通のやり取りだが、問題はお互い全く相手を見ないないで終始行われたと言うこと。

意思疎通か?全く目を向けず野郎が手を出した瞬間に差し出した。しかもその書類お前が選んだよな?指示はされていない筈。そして終わらないこの地獄映像。今野郎の携帯が鳴ったらしい。話ながら携帯を見て、自分は目の前の隊士と話したままそれを名前に渡した。何だと疑問に思うだろ?俺は思った。でも名前は当然のようにその電話に出た。紙に何かをメモしながら電話を続け、やっと話終わった野郎にメモと繋がってるだろう電話を渡し、そして素早く新たな書類を寄せ集め渡す。最後に野郎が名前の頭に手を置いて立ち去る。これが俺の見た一連の流れ。


「イラつきやすでしょう? 一人になった時を見計らってバズーカ撃ってはいやすが、中々離れねぇもんで。」

「……」

「朝からずっとですぜ? あれ見た他の隊員が彼女じゃねぇかって噂まで立て始めてるんでさァ。」

「……」

「生きてやす?」



ギリギリな。あそこまで仲が良いとは思わなかった。あいつはホントに気を許すと壁が無いし懐きも良い。だとしても、あの野郎も随分気を許してないか?副長だぞ?


「一般人に堂々と携帯渡して良いのかよ」

「あー、それは俺もやりやすね、名前さん限定で。まぁ土方さんもでしょうけど。」



おまえもかよ。何なのコイツら、どんだけあの子気に入ってるの。



「あ、電話。」

「あいつ携帯持ってんの?」

「今だけ土方さんに持たされてやした。」



どんだけだよ。







電話をかけて2コールで繋がった。


「あ、沖田くん?お疲れ様ー 」

『名前さんも。』

「うん、ありがとう。土方さん他の所行ったよ」

『なら今から行きまさァ』

「分かったー、気を付けてね」

『あぁ、待ってろ』



時間にして1分も無い通話時間。土方さんが居なくなったら電話して、と言う言葉を残して見廻りに言ったん沖田くん。これから来るらしいけど、……今、最後の沖田くんじゃないよね? 良く聞き慣れた声。通話の切れた携帯をじっと見つめていると前から人が近付いてきて顔を上げる。


「よォ。バイトお疲れ」


あちゃーバレた。嘘付いてまで隠したかった訳じゃないから、気付かれる可能性は残してきた。

でもこれ、沖田くんと一緒に来たって事は土方さんに依頼されたの聞いた? やましい事なんて何も無いけど、名前出しただけで機嫌悪くなるから良いかなって言わないで来たけど、機嫌悪いな。


「銀さんだー、朝ぶりだね。沖田くん見廻りお疲れ様−!」

「疲れやした。」

そう言って土方さんの座っていた椅子に腰掛け座ったまま近い距離に寄ってきた。


何処から持ってきたのか椅子を引きずって反対側に座った銀さんをチラ見するとじっとこっちを見られてた。


「……やっぱ怒る?」

「……仲良いんだな。」

「え? そうかな? 」

「触られてたじゃん」

「触られてた? いつ?」

「旦那ァ、嫉妬すんのは勝手ですけど、乱暴しねぇで下さェよ。精々痕残すとかにして下せェ」

「待って、それも嫌だよ。」

「乱暴な事されるよりはマシかと思いやして」

「どっちも嫌。別にやましい事してないもん。言わなかったのは名前出しただけで怒るから。」

「やましい事無いっつー割には自分からも触ってたよな。」

「前髪?スス付いてたの。バズーカ撃たれたんだって。」

反対に居る沖田くんを見ると、首をこてんと横に倒した。いつもながら、あざとい。


「スス付いてるだけで触んだ。」

「えぇ−、そんな怒んないでよ。銀さんの前髪も触る−?」

「……うん」


素直に頷かれたので前髪を撫でておいた



「沖田くん見廻り異常無しだった?」

「テロリスト逃がしやした。」

「え!? テロリスト居たの!? 大丈夫だった!? 怪我は!?」

「大丈夫でさァ。」

「なら、良かった。テロリストこんな日中に彷徨いてたの?」

「団子食ってやした。」

「え!? テロリストが!?」


日中に堂々とお団子食べるの!?


「名前さんも気を付けて下せェよ。職場に来るかもしれねぇんで、特に指名手配犯は見掛けたら直ぐ通報しなせェ」

「分かった。指名手配されてる人も居るんだね。」

「手配書見たこと無ェんですかィ?」

「無いよ?」

「真選組に貼ってありやしたけど」

「あら、見てないねぇ。」

「……後で持って来させやす。」


そう言いながら呆れたため息を吐いた沖田くん



その後も土方さんが戻ってきて銀さんと口論になったり、バズーカ撃たれたりしながら帰り時間を迎えた。



「山崎が手配書持って来るんで少し待ってて下せェ」

「はーい」


結局最後まで銀さん居座ってたな。


「銀さんも手配書知ってるの?」

「たりめーだろ。俺はお前が知らなかった事に驚いたわ。街にもあったろ。」

「あら。」

「呑気なヤツだな」


だってそんなの何処にあったの?



「お待たせ−、これが手配書だよ。」

「ありがとうございます、山崎さん!」

「取り敢えず2枚ね、持って帰って良いから。」

「はいっ」


手元に2枚の手配書。

「高杉?」

「そっちはその辺には居ねぇでさァ。基本宇宙に居るんで。」

「宇宙に居るの!? 」

「もう1枚が割とヒョイヒョイその辺に居るんで気を付けて下せェよ。」

「うん、分かった。ありがとうね!」

「んじゃ、気を付けて帰って下せェ」

「うん!ありがとう、またね!」


「今日歩いて来たんだわ。わりーけど歩くぞ」

「悪いわけ無いじゃん。お散歩だね。」


銀さんと並んで歩きながらさっき貰った手配書を眺める。



「高杉晋助って人、基本宇宙に居るんだってね。凄いね。」

「……あぁ、そうだな。」


もう1枚がヒョイヒョイ居るんだっけ。まだ見ていなかった2枚目を上に重ねて顔を確認する



「…………」

「どうした?」

「……この手配書って2枚ともテロリストだっけ?」

「あぁ」

「テロリストって何するの?」

「あー、ざっくり言うと幕府滅ぼそうとしてんな。」

「そうなんだ。」


そう、なんだ……。

テロリスト、指名手配、聞いたことが無いわけじゃない。私の世界にもあった。でも今まで身近には居なかったし、関わった事も無かった。







手配書を見たまま無言になった。歩いてはいるが表情は暗い。

こいつの居た所はここに比べてかなり平和だと聞いてる。

犯罪はあっただろうが、人が簡単に殺されたりはしないだろう。


俺が人を殺めた事がある事は伝えてる。でも実際テロリストやら指名手配やら聞かされたらそりゃ怖いよな。

極力関わらせたくない。だけどこの世界に居る以上全く関わらないのは無理だ。



「奇遇だな、銀時ではないか。」


横目でこいつを見ながら歩いていると前方から声が聞こえた、今一番会いたくないやつだ。

マジかよ、俺こいつに言ってねぇし今は不味い。

抱えて走ろうとした瞬間、こいつは顔を上げて目の前のロン毛を見た。


あー、タイミングわりーな。せめて関わりがある事を先に言っておくべきだった。後から説明したんじゃ言い訳になる。


「……桂さん。何が、世界平和ですか。思いっきり指名手配になってますけど。」

「名前殿? 何で名前殿が銀時と?」



………………は?



「え、なに。お前ら知り合いなの?」

「おじさんの所の常連さんなの。テロリストなのは今知った。」

「うむ。まさか銀時の連れだったとは。ならば噛み付いてくるけど心配症な男とは銀時の事か?」

「そうですー。お二人もお知り合いだったんですね?」



ちょっと、待て。割と仲良くねぇか、こいつら。


目の前で起きている事に着いて行けてない。

知り合いの可能性は全く想定していなかった。
つーか勘弁しろよ。知らねぇ所でどいつもこいつもも仲良くなりすぎじゃねぇか?


頭が痛くなってきた。



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