▼ 似ているようで
あれから変わらぬ今まで通りを過ごしている、と言うのも銀さんのおかげで。
銀さんはそれこそ今まで通りにしてくれてる。
耳元でジャンプ買いに行く報告もして来ないし、触り方も今まで通り。
もしかして夢だった?って思うくらい。
「今日休みっつってたよな?」
「うん、休みだよ」
現在週3で甘味処でお仕事させて貰っている。万事屋の仕事もあるだろうし無理しなくて良いと言うおじさんのご厚意に甘えさせて貰った。だからお登勢さんの所にもバイトに行く余裕がある。
「ならちょっといいか?話あんだけど。」
「うん、なに?」
「俺さぁ、思ったんだけど、お前どこまで触っても平気なの?」
「……………………は?」
え? 言われた言葉を理解するのに結構な時間がかかった。
言っている意味は分からないけど、言った言葉の意味は理解できた。
「普通に触ってっけど、具体的に何処まで平気なの」
「どこまでとは……?もう充分過ぎるくらい触ってるよね?」
「充分ではねぇな。」
「充分ではない?」
「足りねぇ」
「足りねぇ……」
「大丈夫かお前」
「え、…いや、良く分からない。」
「もうちょい触って大丈夫なのかなって」
「何故?」
「触りてぇからに決まってんだろ。」
「え?なんで?何でそんなに触りたいの?」
「は?何でって、……お前さ、俺が普通にしてるからって忘れたわけじゃねぇよな?」
「なにが…………、あ、賭け、的な?終わって、は、…いないのか、現在進行形…?」
「はぁ? 何勝手に終わらせてんの?まだ始まってもいねぇのに完結させんなよ、お前何考えてんの?」
だって今まで通りだったから……もう飽きたかな……とか、思ったり。自意識過剰な夢かな、とか。
「や、ごめん、…今まで通りが心地好すぎて。」
「忘れてやがったのか。」
「忘れてはいないけど、ご、ごめんね、」
と言うことは、触りたいってそうゆう意味で?
え?私に触りたいの?ただ温もり求めてじゃなくて?
「銀さんは、私にそうゆう欲を求めているの?」
「まぁ」
「え!?」
「は?何で自分で聞いといて驚いてんの?」
「えっ、だって!意味分かって言ってる?私の言った意味分かってくれたの?」
「ガキじゃねぇんだから、分かってるに決まってんだろ。」
「え、えぇ? わ、私に? ……え?やっぱり待って良く分からない、本当に?そんな事ある?何で私に?おかしくない?」
「おかしくねぇよ、」
「…………ねぇ、勘違いって事はないの? 最近好い人居ないって言ってたじゃない?そんな時に私現れて、触ってる内に情湧いたとか。」
「それ本気で言ってんの?」
声のトーンが一気に下がった。はっとして顔をあげると真顔になった銀さんがこっちを見ている。
沖田くんの言ってた事を思い出した。きっとこの事だ。
テーブルを挟んで向こうのソファーに居る銀さんが静かに立ち上がる。
「っ!! ご、ごめん! ごめんねっ、わ、私にそんな事思うなんて、今まで考えた事も無かったし、銀さんなら好い人沢山寄って来そうなのにって、おも、思っちゃって、」
直ぐ側まで来た銀さんに必死で言葉を繋げた。だって、目が……。
「……俺そんな信用ねぇの?」
「え!? ……なにが……?」
「それ、俺の気持ち信じてねぇつー事だろ?」
「いや、そんな、疑ってる訳ではない。何で?と、本気に?がある……?」
「本当にって疑ってんだろ」
「…だって、……私だよ?」
「……ちょっと来い」
「え!?」
座っていた私の手首を掴み引っ張って寝室に連れて来られた。
手を離され昼間なのに布団を敷く銀さん。
何してるの?何で布団敷くの? 私が疑ったから?
「……なにその顔。」
「だって、……何してるの」
「証明してやろうと思って」
「証明?」
敷いた布団に胡座を掻いて座り片手を伸ばして呼ばれた。
何するの? まだ噛み痕残ってるんですけど、
「……噛むの?」
「噛まねーよ、早く来いって。あ、悪いけどスカート穿いてきて。」
「なんで?」
「いーから、早く。」
何がいいの?なんでスカート?疑問だらけで恐怖すらしてきた。
でも銀さんは譲る気はないみたいだから渋々スカートを穿きに行く。
「ん、じゃ―来て」
片手を伸ばす銀さんにゆっくり近付いて手に触れると、軽く握って後ろ向きで胡座の上に座らされた。
「何で足の上?下で良くない?」
「良くない、少し黙って」
後ろから左腕をお腹に回されて右手で頬を掴むように触れ横を向かされる。銀さんの顔が直ぐ近くに来てこめかみに唇が触れた。
「えっ、なに?」
「しー」
耳に直接声を入れるように口を近付けて言われた。 喋るなって?
その後も、耳の裏やら頬やら左の顔半分にゆっくり触れていく。
一体何がしたいんだ。だんだん恐怖は薄れもう疑問しか残らない。
顔半分に満足したのか頬から手が離され顔が解放されたので前を向くと、急にお腹に回っていた腕に力が入ってきつく抱き寄せられた。
そして今度はうなじに生暖かい感触。
「っ!? ちょっ、と!何してるの!?」
もう黙ってなんていられなかった。舐めてるよね、これ、うなじ舐められてる。
「ねぇ、ってば! 何しっ………………、」
待って待って、…何? ねぇ本当何してるの?
胡座の上に座らされている。下じゃなくて、足に乗っかってる。足って言うか……付け根? 足の付け根……?…だよね? これ、お尻に当たるのって、
「ぎ、銀、さんっ、何してるのっ、」
後ろを振り向くなんて出来なかった。だって、何して…、
「……っ、今、朝じゃねぇから。っ意味、…分かるか?」
熱い吐息が耳に触れる、聞こえた声にまで熱が篭っているように感じた。
発熱してるんじゃないかってくらい銀さんの身体は熱を持っているのが背中から伝わってくる。
「っ、も、分かったからっ、」
「本当に、?」
「ひぁ、っ、ぁ、ま、って待ってやめてよ何してるのっ、」
本当何してるのこの人!?何してるの!?
思いっきり腕で下腹部を押された。もう既に背中ぴったりくっ付いてるのに、更に引き寄せようとしてくる。
「ね、…お願い、もうやめっ、っん!? んん!」
待ってもうやだ、右手で口塞いできた。なんで?喋るなって? 私泣きそうなんだけど気付いてる?
「っは、…わり、ちょ−と付き合って、くんね?」
……え?なに? 何に?何に付き合うの?
いや分かる
何か、なんて経験無くたって多少は分かる。具体的には分かんないけど、だけど、明らかに……ね、嘘だよね、信じられない。何してるのこの人は。
荒い息遣いが後ろから聞こえてくる。
恥ずかしいやら居たたまれないやらでもう涙目だ。
「っ!?っんん!……っ、」
「だい、じょーぶ、…ぜってぇ、挿れたりしねぇ、…からっ、」
そうゆう問題じゃ、ないと思う。
だって、…ふと、太腿の間に、……っ、この人は、本当に、
「な、脚さ、…軽く、力っ、入れれる?」
しかも注文までしてくるし。
お腹はがっちり腕を回らせれて、口は手で塞がれて注文までしてくる。私経験ないの知ってるよね?キャパオーバーなんですけど。
直接触れてないのは分かる。でもそうゆう問題でもないよね、そして私は素足だよ? スカートなんだから。
脚って言われても……顔を下に向けようとしたら、口を覆ってる手に力が入って上を向かされた。
「下は、見んなっ、」
……頑張れ私。
・
・
どうしよう動かない。
腕の中に居るこいつは、もうピクリとも動かない。
気絶したりしてないよね?生きてる?ショック受けすぎて死んでない?
後悔はしてる。いや、つーか、何やってんの俺?ねぇ、何やってんの俺!? 何やっちゃってんの!?
とりあえず、グッタリ動かないこいつを抱き締めたままゆっくり前に倒す。丁度布団の上だから。
うつ伏せになるように寝かせてから身体を離すと、手が動いてシーツで顔を隠すような格好になった。
良かった生きてる。そして起きてる。
……これって、……強姦じゃないよね?
え?……え!? いや、違う違うしてないしてない落ち着け、……未遂? いや未遂までもしてねぇ……?でも、犯罪にはなるな。それは確かだ。
グッタリうつ伏せに倒れたまま動かなくなったこいつの太腿………そっと毛布をかけた。
「た、タオル、持ってくる、から、な?」
とにかくダッシュで温めたタオルを持って来た。
トイレには寄ったけど。
「脚、拭くから、少し触んぞ。」
毛布を捲って出来るだけ見ないようにして拭いた。
いや何も付いてねぇよ? そうじゃなくて、感覚残ってたら嫌だろうと思って。
捲れ上がったスカートが更にやっちまった感溢れてて素早く毛布をかける。
流石に怒るな。人の脚使って何やってんのって感じだろマジで。しかもこんな無理矢理、…俺最低じゃね?勿論犯そうとしたワケじゃねぇし、そんなつもり微塵もねぇけど。だからと言ってこいつ経験ねぇの知ってんのに。
「……ごめんな」
謝って済む事じゃねぇけど、でもまだ謝って無かった事を思い出した。
っ、…え?頷いた?今頷いた? 微かに頭動いて頷いた感じがした。都合の良い見間違いか?
「……飯、今日俺作るから。グラタン、食う?」
グラタンが回復呪文か何かのように思えた。
今、確かに頷いた。今度はしっかり見てたから分かった。頷いた。
「出来たら呼ぶから寝てろ、」
そっと頭に手を置いてみたけど拒絶されなかった。そして3回目の頷き。
デザートも作ろう。シフォンケーキ食いたいっつってたから作ろうと決意し台所へ向かう。
・
・
・
神楽が寝静まった後、寝室に入るとまだ横になって寝ていた。
夕食前に1度起こしには来た。でも寝息聞こえてぐっすり寝てるしでそのままにしたけど、もう10時だぞ? どんだけ寝るの?そんなに疲れた? いや疲れるか、精神的に……。
暗くなる前に豆電球はつけておいたから顔は見えやすい。
顔にかかった髪を避けるとさっきと変わらない寝顔。
「っ…っ!?!?」
「、ふふっ」
びっくりし過ぎて心臓止まりかけた。
寝てると思ってた目が突然開いた。ゆっくりじゃない、突然ぱっちりとな。元々デカイ目が突然開いたら怖ぇだろ。
「……起きてたんだ」
「うん、」
俺の声にゆっくり起き上がり座ってこっちを向いた。
「……っ、悪い」
「んーん、シャワー入ってくるね、」
そう言って俺の元から去って行く後ろ姿を見送った。
んーんって何? 俺許されたの?
・
・
時間は遅いが食うと言うこいつにグラタンを焼いて出した。
「美味しそう、頂きま―す。」
「お―」
「っん、美味し!」
「どーも。」
マジで怒ってねぇのか?
テーブル越しに観察してるが至って普通の態度にこっちが動揺するわ。
「……なぁ、怒ってねぇの? 流石に今回はやり過ぎだろ。」
「……まぁ、…………楽しかった?」
「い、やぁ、……ご、めんな……?」
「……銀さん的に楽しめたの?」
「……楽しめた、つーか、…楽しませて貰った…と、言うか……ごめんな、」
「そう、なんだ。……怒ってないから、もう謝らなくていいよ。」
「…っえ!? いや流石に怒れよ」
何で怒んねぇ?
時折美味しいと言いながら笑うもののよくよく観察すれば、やっぱり何処か顔はかたい。
「美味しかった!ご馳走様でした。 私洗ってから寝るね」
そう言って器を掴んだ手を上から押さえるようにして止めた
「頼むから、泣くなら俺の前で泣けよ。」
立ち上がる寸前目に涙が溜まったのが見えた。
怒ってるんじゃない。傷付けたのか。
「本当にごめんな、謝るから、だから1人で泣こうとするなよ。文句言って良いし」
それでも首を振って否定する。その拍子に頬を伝って涙が零れ落ちた。声も出さずただ下を向いて。
これは、もしかして修正出来ないのでは、とさえ思った。
それくらいの事をした自覚はある。捕まるレベルだろ。
「っ、私っ、…銀さんの、傍に居たい、」
…………それはどうゆう意味だ。傍に居たいけど、もう無理って事? 流石にもう無理って意味なの?
文句言って良いとは言ったけど離れる宣言はやっぱり止めて欲しい。マジで?マジで無理?
「この、まま、何も変わらなければ良いのにって、思ってる。ずっと、いつまでも。そんな事有り得ないのは分かってる。歳取るし、神楽ちゃんと新八くんだって将来あるし。でも、思ってるの。 ……銀さんの、気持ちを疑った訳じゃない。けど、銀さんならもっと素敵な人が居ると思う、もっと銀さんを幸せにしてくれる人。…………ごめんね、なのに、私は、は、離れて欲しくない。いつか、消えるくせに、ずっと一緒に居れたらって思う……っ、銀さんが思ってくれてるの嬉しい、嬉しいけど、私は今まで通りが良い。これ以上は要らない。求めてる物が違う、けど、離れて、っ、行かないで欲しい……っ」
こいつの中で、一体何が起きたんだろう
俺が離れていく要素あったか?
想像していた事と全く違う考えがこいつの中で溢れているらしい。
大事だと、特別だと言ってくれていた。そこまでの感情を抱いた事が無いから気持ちを持て余してるのか? 自分の感情についていけないくらい思ってくれてるのだろうか。俺をっつーか、この世界を。でもいつか消える、その事がこいつにとって全ての前提になる。
立ち上がり近付こうとすれば、全力で拒絶してくる。泣き顔見せないようにか、下を向いたまま腕で目元を隠している。
「っ、ごめん、何かさっきぐるぐる考えすぎて情緒不安定になってた。お皿洗ったら寝るから、今近付かないで、今だけは触らないで。」
逃げるように立ち上がろうとするこいつの前に立ち塞がれば、顔を背けてまた座り込む。
今は無理矢理は気が引ける、人一人分開けて胡座を掻いて目の前に座った
スイッチ押すのは俺なんだっけ。こいつはきっかけがあれば切り替えが早い。そのスイッチを押すのは俺。なら、押してやるよ
「あのさぁ」
「待って、待って何も言わないで。お願い、忘れて。情緒不安定になってただけなの。明日からまた普通にするから、」
「お前は一体何に怯えてんの。目の前に居んじゃん俺。」
「……うん、でも、その内居なくなる。面倒になるもん」
「なんねーつったろ」
「銀さんと、求めてるもの違うから。こんな一方的な甘えた生活は続かないよ」
「あくまで落ちる気はねぇと。」
「うん、」
「落ちねぇけど、俺にずっと傍に居て欲しいって? 同じ感情持たねぇけど離れて行くなって?」
「……」
「それは俺にとって好都合でしかねぇけどな。」
「っえ?」
「だってそうだろ。賭けの猶予が長引くだけだ。」
「……何言ってるの。そうやっていつも優しい事を言う。優しい人ってその内疲れて行くんだよ」
「お前が勝手にそう思ってるだけだろ。俺は優しくなんざねぇ。」
「優しいもん」
「どーもな。ならその優しい俺を信じろよ。お前がグダグダ考える性分なのとっくに知ってんだよ、今更こんな事で面倒なんざ思わねぇし、離れる気もねぇよ。そもそも離れて行こうとしてんのはお前だろ?俺は帰さねぇつったよなァ。それでも信じらんねぇってんなら、そうだな、……同じ墓にでも入るか」
「墓?」
「そう、墓。お前落ちねぇらしいし?俺一生独り身貫き通さなきゃなんねぇじゃん? 」
「なんで、お墓に入る頃には私もう消えていないよ。」
「分かんねぇだろ―、グダグダ考えてる間にバァさんになってっかもな。」
「独り身じゃないかもしれないじゃん」
「は? お前俺に傍に居ろっつっといて自分は他の奴ん所行く気かよ」
「いや、そうじゃなくて、」
「なら良いじゃん。独り身同士、同じ墓。」
ゆっくり顔を上げた目には涙は無かった。けど頬から顎にかけての水気はまだ残ったままだ。
「…………入り、たい。お墓。」
「ん、じゃ予約って事で。」
困ったように眉を下げながらほんの少し口角が上がった。
「なァ、もう触って良い?」
「へ?」
「さっき触んなっつったじゃん。もう良い?」
「え、あぁ、うん……?」
微妙な返事ではあったけど、手を伸ばして濡れている頬を拭った。
「あ、ごめん濡れてる? いいよ、自分でやるから」
「触りてぇだけだって。」
そう言うと大人しくなる。目線を宙に飛ばしているこいつの後頭部に手を回して引けば目線を俺に向けながらあっさり倒れてくる身体を抱き止める。
馬鹿な奴だと思う。これでもう逃げれねぇぞこいつ。
似てるようで異なる感情。俺のとは違う。それでも傍に居てくれんなら、まぁゆっくりやってやるよ。
出来るだけな。
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