▼ 延長戦
腕の中で目覚める朝。悶々と考えながら疲れて眠ってしまったらしい。
起きるにはまだ早いから再び考える、昨日から何度頭を巡ったか分からない言葉、今まで通りを。今日からまた今まで通りに過ごす。けど今まで通りって何だろう。私今までどうしてたっけ? 避ける前の話だよね? 結構ぐるぐる考えてたから最近の会話も良く覚えてない。昨日は頑張ったけど、頑張らなくても出来たのが今まで通り。
いざやろうとすると分からないよ。
出そうになるため息をぐっと堪えて上を見ると、銀さんと目が合った。
心底びっくりした。起きてたの?いつから起きてたの?ずっと見てたの?
「はよ。」
「お、はよ−」
まだ今まで通り思い出し中なんだけど。取り敢えず腕の中から出たい。起きていい? 早く離れたい、起きていい?
「俺の気持ち知ってよ、ドキドキした?」
「へぁっ? 」
「何だそれ。」
いやだって、まだ今まで通りが定まってない。
「どうなの。散々悩んだんだろどうせ。アイツにも相談して俺をけしかけたんだろ?」
「っ、…ご、ごめんね、」
「いや、いいよ。……怖かったろ? 流石にアレは興奮する余裕ねぇわ。」
そんなのされても困る
「今の心境的にどうなの。昨日は、あぁ言ったけど、ここ最近俺結構分かりやすかったし。しかもキレるしよ。俺に気ィ使ってとかじゃなくて、お前自身俺から離れてぇとか、あんの?」
「……わ、たしは、可能なら、…ここに、居たい。」
「それは俺の傍に?触れられても構わねぇって意味で?」
「最近は、どうしていいか分からなくて、嫌だと思った訳じゃない。でも明らかにおかしいから、」
「まぁ、だろうな。」
「……わざと?」
「ん−、少しな。押さえらんねぇなって思って。悪ィな」
「あ、いや、……ねぇ私、どうしたら良いの。ってこれ銀さんに聞く事じゃ無かった、ごめん。」
「いいっつの。困んの分かっててやったんだよ。知らねぇ所で悩まれるよりいい。あ−、話戻るけど、今現在、嫌じゃねェって事で良いのか?」
「……うん、」
「で?」
「え?」
「なに悩んでんの? 言えよ、何グダグダ考えてんの」
「グダグダって……。……今まで通りって何だろうって。」
「自分の好きに動いて良いって事。嫌なら嫌がればいいし、嫌じゃないなら嫌がらない。そこに俺への気遣いとかは要らねぇから。」
「銀さんは私を気遣ってくれるのに、何で私は気遣わないの。私も気遣いたい」
「お前が今まで通り過ごすことが俺への気遣いになる」
「っ、おかしいでしょう!? 何で!? どんだけ甘いの!!」
何だこれ!? おかしいよ!何も解決にならない。
駄目だ。銀さんと話してても私の都合の良い方に持って行こうとする。
「なんで? 今まで通りに生活すんの難しいんだろ?俺がベタベタ触って、それ受け入れたら思わせ振りじゃないかって俺に気ィ使うんだろ? それを踏まえた上で今まで通りに過ごせっつってんの。難しかろうが辛かろうが今まで通りに過ごせ。それが俺への気遣いだ。」
……何それ。酷い事を言っているようで、結局は私に都合良くない? まぁ、確かに難しいかもしれないけど、……本当に本気で気にしなくて良いのなら、私普通に過ごせるよ?だって、ここに居たいの本当だもん。……いいの?本当に?
「……途中で面倒になって離れて行くの、嫌なんだけど。」
「なんねーよ。言ったろ?嫌いになることなんざねェって。」
「……だってさぁ、」
「つーか、結局はアレだな。やっぱり俺の事そうゆう風に見てねぇのな?」
「えぇ?それは、……正直分かんない。もう面倒くさいから言うけど、自分自身分かんないんだよね。でも落ちたくないって思ってる。でも落ちるって何?今どうなの?そんなフワフワした答えじゃ分かんないよ。」
「面倒くさいって言いやがったな。まぁ良いけど。分かんねェって事は落ちてねェんだろ。」
「え? なんで?」
「分かんねェってんなら、その程度の気持ちなんだよ。」
「……」
「やめてくんない?そんな顔すんの。その程度っつったから? 俺ほどじゃねぇよって意味」
「……特別には、思ってる。」
「わーってるよ。とにかく、俺は落としにかかるから、お前は普通にしてろ。」
「私落ちたくないから、銀さんの事そうゆう風に考えないよ。」
「え?何でいきなり突き放すの?離れたくないとか言ってたの何処行ったの? 」
「ドキドキはしないけど、したいとも特に思わないし。だけど銀さんの言う今まで通りは私にとって幸せの絶頂なの。だからそれ以上求めてない。」
「あ−、うん。嬉しいけどよ、泣きそうだわ。」
「ねぇ、今まで通り出来そうな気がしてきた。 これ凄く今まで通りじゃない?いけそう。ね、いいの?これが今まで通りだよ? 」
「……お前ホント切り替え早いのな。切っ掛けあれば一瞬かよ。スイッチ何処についてんの?」
「さぁ?でもそのスイッチ押すのはいつも銀さんだよ。押すも押さないも銀さん次第。」
「うわ、狡い事言いやがる。ん−、よし、頑張るわ。この方がやり易いっちゃやり易いしな。これでいいよ。」
「そう。ならこれで。あ、私沖田くんに触るのも触られるのも抵抗しないし止める事も無いからね、その辺踏まえた上でお願いね。土方さんにも疲れてそうなら肩揉みするし。いちいち銀さんに言わないよ、じゃ、起きるね。」
「は!? いや待て待て待て、待って? そんな触る?そんな触らせる必要ある? 」
「一昨日みたいに怒らないでね。こわいから。」
「いや、うん。ごめんな? じゃなくて、え?触んの?そこも今まで通り?」
「今まで通り。たとえ言われてなくてもそこは譲れないけどね。」
「お前アイツに甘いよな。マジでデキてんじゃねェだろうな。」
「だったらこんなに悩んでないよ。」
「…ふーん。……おはようのちゅーでもしとく?」
「するわけないじゃん。馬鹿じゃないの?」
呆れながら言ったのに笑ってる銀さんに私も笑ってしまう。
本当にこれで良いのか分からない。こんな甘えた状況普通許されないよ。
でも銀さんが良いと言うのなら、…今はそれに甘えよう。
「……おはようのハグでもしとく?」
「えっ、何、デレ期? そんなオプションくれんの?」
襖に手をかけて開ける前に振り返って言ってみた。
別にデレでも何でもない。最近沢山考えて疲れただけ、明からさまに不自然にならないようにとか、今まで私も無遠慮に近付いてたかな、とか。本当に色々考えた。
「ん、」
起き上がり布団の上で胡座を掻いて両手を広げる銀さん。
少し勢いをつけて首に抱き付いた。
「うっ、お、なんだ? どうした? 」
離れなきゃって思った。でも離れなくて良くなった。いつかは来る、分かってる。それが延びただけ。このままでなんていられない。私は別に感情なんか要らないし、このままで充分幸せ。出来ればこのまま何も変わらなければ良いとさえ思う。だってこわいから。無くなるのがこわいから。
背中と後頭部に回される手。その温もりに幸福を感じる。……なんか足まで付いてきたけど、それは要らなかった。
「もう良いや、ありがとう。」
「えっ、デレ期終わり? 早っ。次はいつ来んの?」
「さぁ?」
「先は長そうだな。」
「この日々が続くなら私は大歓迎だよ。」
「笑顔で言うなよ−、複雑。」
「ご飯作って来る。後で沖田くんにも会いに行かないと。」
「報告しに?」
「そう、相談に乗って貰ったし。」
「ふーん。俺も行こうかな」
「え?一緒に行くの?」
「ダメ?」
「駄目じゃないけど。」
なんで?
・
・
・
結局着いてくる。
「神楽ちゃんと新八くん笑顔で送り出してくれたね」
「アイツら気付いてたからな。俺らが微妙な空気なの。」
「ありゃ、でもあれが普通の人の距離感では。と思わない事もない。」
「ハグ要らねぇの?」
「……ハグ……たまに要る。」
「……うん、毎日じゃねぇのかよと嘆くべきか、デレに喜ぶべきか。」
「それは銀さん次第」
「やめて。」
話ながら公園に着くと沖田くんが、…もう居る。
「沖田くん、サボりなの?それとも私を待っててくれたの?」
「両方。」
両方……
「2人で来たって事は丸く収まったみたいで。」
「うん、ありがとうね沖田くん。私の話ずっと聞いてくれて。」
「頼れつったでしょう?良いんでさァ。いつでも来なせェ。」
腕を広げる沖田くんに私も広げて近付いた。
直ぐに回される手。
「何これ。俺なに見せられてんの?」
「熱い抱擁。」
「見りゃァ分かるわ。」
「俺から引き離そうとしても無駄ですぜィ。」
「だろうな。見事に調教されちゃって。」
「されたのは俺や旦那の方かも知れねェですぜ。」
「……かもなァ。」
「それどうゆう意味?」
「アンタに調教された哀れなドS2人って意味でさァ。」
「やめてよ人聞きの悪い事言うの。 私が何かしたって言うなら2人が私を甘やかすからでしょ。」
「良いんじゃねぇの?そのままドロドロに甘やかされて離れられなくなりゃ良い。」
「安心して下せェ。最後までちゃんと面倒見やすんで。」
何この2人。時々打ち合わせしたかのようなやり取りをし出す。
「土方さんにもお礼とお知らせ行かないと。」
「あァ?何でアイツん所も行くワケ?」
「名前出しただけで機嫌悪くなる。」
「おい、お前ら何やってんだ。総悟サボってねェで仕事しろ。」
「はァァァ!? 何でこのタイミングで現れんの?ストーカー?ストーカーですかぁ? 」
「は?いきなり意味分かんねェいちゃもん付けてくんじゃねェよ。」
「土方さん丁度良かったです。この間はすみません、お時間取らせちゃって、頬大丈夫です?」
「あ? あぁ、別に何ともねェよ。」
「ハァァァァァ? 何照れちゃってんの?俺だってされた事あるからね、テメェだけだと思うなよ。」
「オメェ何なんだよさっきからうるせェな!!!! 」
「頬っぺちゅーされたぐれェで調子乗ってんじゃねぇつってんだよ。」
「乗ってねェわ!!!! そもそもテメェらに巻き込まれただけだろ!!」
「本当ですよね。ごめんなさい、頬まで貸してくれたのに。」
「いや、言いっつってんだろ」
「土方さんキメェ。いちいち照れねぇで貰えやす?」
「照れてねェっての!!!!」
「そういや俺、名前さんにちゅーされた事ありやしたっけ?」
「え? ありそうだけど、どうだったかな?」
「して下せェ。」
「うん。」
「うんンンンン!? 何で二つ返事!? 俺ん時渋ったよね!? なのに何でコイツにはあっさり了承すんの!?」
「えー?……なんでだろう。」
「残念ですねェ旦那。」
「テメェわざとだろ。さっきからベタベタしやがって、わざと見せ付けて来てんだろ。」
「だってこの人全然嫌がんねぇから。」
「オィィィィ!! 何してんの!? 何で普通にでこちゅーすんの!? 何でお前もされるがまま!?」
「何でだろ。」
「何この子!? やっぱ調教されてんの!?」
「俺も言われるがまま働いてるんでお互い様でさァ。」
「両思い!?!? 両思いなの!? ねぇラブラブなの!?」
「うるっせェェェェェェ!! いい加減にしろよ!! 総悟もう帰んぞ。」
「何でィ。」
「私ももう帰るし、沖田くんも仕事行ってらっしゃい」
「へいへい。んじゃ行ってらっしゃいのちゅーして下せェ。」
「ふざっけんな!!!!」
「だからウルセェ!!」
公園でこんなに騒いで通報されるんじゃ無いだろうか。
副長と隊長居るから大丈夫かな?
「マジでしやがった。何なのお前。」
「朝言ったじゃん。私沖田くんに触るし触られても抵抗しないって。」
「調教されやがって。尻軽かよ。」
「…へぇ。土方さんもどうですか、行ってらっしゃいのちゅー。」
言いながら土方さんの腕を引くと、咥えてた煙草を指で挟み、その手でぐいっと頭を横に倒されこめかみに唇が触れた。
「ギィャァァァァァ!?!? 何すんだテメェェェェェ!!!!」
「ちょっと銀さん叫び過ぎ。ホラーじゃないんだから。」
「何でそんな落ち着いてんのォォォォ!?!?」
「ちゃんと拭きなせェ。」
「俺はバイ菌か?」
「ったりめぇだろうがァァァァァ!!!! マジふざけんなァァァ!!!! 」
そんな叫ばなくても。びっくりはしたけどね。土方さんがそんな事するなんて思わなかったし、でも明らかに銀さんに対する当て付けだよこれ。そして私の思考を読んでくれた。
指でゴシゴシ擦ってくる沖田くんも中々に力が強いけど。え?こっちもなの?
「安心しなせェ。後で消しときやすんで。」
「それ俺の事か?」
「テメェ以外誰が居んだよ!!!! ふざっけんな、マジでふざけんな!」
「いっ、たい!銀さん痛い!!!! 皮剥ける!力入れすぎ!!」
「うるせぇ!消毒してんだよ!!」
「要らない!! こんな痛いの要らない!」
「くっそ、何考えてんだよお前は!!」
「銀さんが尻軽とか言うから!! そんな事言うならもう近付いて来ないでよ!!!!」
「っ、」
「オメェが悪い」
「尻軽は無ェでさァ」
「っ、……っ、……ごめん、」
「うん。」
「くっ、ははっ、尻に敷かれてやがる。」
「先が思いやられやすね。」
「っ、…うるせェな。延長戦だ、覚悟しとけよ。」
覚悟なんてしなくても、この日常がいつまでも続けば良いと、そう願ってる。
prev / next