▼ 強敵の倒し方
新八くんと神楽ちゃんに手伝って貰いながら居間のテーブルでサヤエンドウの筋を取る。
なんだか皆でゆっくり過ごすの久しぶり。真選組でのお仕事も楽しかったけど、やっぱり万事屋の皆で何かするのは楽しい。例え筋取ってるだけでも楽しく感じてしまうのは本当に重症だな。
「銀さんも手伝ったらどうですか?」
「俺は忙しんだよ、お前らだけでやってろ」
「なに格好付けてるネ。さっきからチラチラチラチラ鬱陶しいアル。名前が居て嬉しいなら素直に隣で筋取りしてろヨ。」
「ばっ!ちっげぇし!!見てねぇし!!俺ァジャンプ読んでんだよ! 今新しい島に出航する所だし!」
「ページ進んで無いですけどね。いつになったら出航するんですか?」
「今からすんだよ!! 黙っててくんない!? 感動的な所だから!!」
「もう時計は見なくて良いアルか? この5日間何千回も見てたのに良いアルか? あ、名前が居るから必要無いネ。」
「はァ!? 時計なんて見てねぇだろ別に。」
「いや見てましたよ。何回止まってないか確認してたの忘れたんですか? 」
「……」
「良かったな、目の前に居るネ。これでもう アイツいつ帰って来んの?は聞かなくてすむアル。」
「6時だって言ってるのに。しかも初日なんて6時になっても帰って来ないとか言い出して、当たり前ですよ、6時に終わってから帰って来るんですから。」
そんなに心配してくれてたんだ。
テーブルを挟んで新八くんと神楽ちゃんが私の後ろのソファーに座っている銀さんに言う会話を黙って聞いていた。
つい口元が笑ってしまって、それを見た新八くんも笑ってる。
「機嫌の悪さをお酒に当てないのは良かったネ。」
「お酒飲むと迎えに行けなくなりますからね。」
「うるっせェェェェェェ!!何なの!? お前らホント何なの!? 」
後ろで叫び出した銀さんに目の前2人は声を上げて笑い出した。
微笑ましい限りだ
「何なのマジで。寄ってたかってよ、」
そう言いながらソファーから隣に降りてきた銀さんは、そのまま横になって私の太腿に頭を乗せてくる。
「うわ、またアルか。そこは私の定位置ネ、勝手に使うなヨ。」
「るっせェよ。つかどうせアイツにもやってんだろ」
下から私を見上げながらそう言われた。アイツって言うのは多分沖田くんの事だろう。
「うん。沖田くんでしょ? 」
「サド!? 何でサドに膝枕するアルか!?」
「え? 何で、何でだろう?深く考えた事無かった。」
「名前さん、大丈夫ですか? ちゃんと嫌な事は嫌って言った方が良いですよ。」
「言ってるよ? 流石に口は止めたもん。」
「あのサド何しようとしてるアルか!!!! 」
「サヤエンドウ潰れちゃったね」
「何で当事者がそんなに冷静なんですか。」
「そんなんだからベタベタされんだよ」
「いやアンタが言える事じゃ無いでしょうが。」
絶賛膝枕中の銀さんも結構ベタベタくっ付いてくるからね。確かに言える事じゃない。
そして新八くんの突っ込み久々。
「なァ、スゲェ落ちてきてんだけど。」
「わ!ごめん、」
話ながら筋取りしてたら、いつの間にか下にある銀さん顔の上に取った筋を落としていたらしい。
乗っかった筋を指で拾って頬に付いた細かいのは払った。どうせ他にも落ちてるから後で掃除するし。
「自分で取れヨ。そもそも銀ちゃんがそんな所に居るから悪いネ。」
「こいつが注意力散漫だからだろ−。しっかり手元見てやれば落ちねぇよ。」
「あれ−、こんな所にゴミ箱が。」
「ぅ、おいっ、口に入れんな!!」
筋を一本口に放り込むと手首を掴んで怒られた。
「ははっ、美味しい?」
「旨いわけねぇだろ、毛入ったみてぇ」
「筋細いからね。はい。」
テーブルに置いてあったチョコを一粒掴み、未だ膝に乗ったままの銀さんの口元に持って行くと素直に開いた。
「落とすからね」
「あ、」
横になりながら食べるのは危ないから直ぐに離さないで、舌の上に触れさせる。口が閉じる前に離すともぐもぐ咀嚼し始めた。
「美味しい?」
「ん、これアイツに貰ったやつ?」
「そう、昨日も帰りに貰ったの」
「やけにイチゴ多いよな」
「私が好きそうなの探してくれてるみたい」
「へぇ。仲良いな。」
「だと嬉しいけど」
「嬉しいんだ。」
「え?そりゃあ嬉しいでしょ。」
「ふーん」
「機嫌悪くなった 」
「なってねぇし」
「なってるじゃん。直して。」
目尻をほぐすように指で触ると目線が私を向いた。
不意に手が伸びてきて私の頬に手の平が当てられる。
「直った?」
「最初から悪くねぇし」
「嘘。目元固くなったもん。土方さんの名前出すと直ぐ悪くなるよね。」
「おい」
「あ、今の無しで。」
間違えた。さっきも敢えて出さなかったのに。でも先に話題振ったの銀さんだよね。
今度は完全に睨んでる。さっきほぐしたばっかりなのに。
また指で擦ってほぐしていると向かいの2人が口を開いた。
「目の前でイチャイチャすんなヨ。」
「本当、見てるこっちの身にもなって下さい。」
「えっ、イチャイチャなんてしてないんだけど、ごめんね?私が触ったから? 固くなった目元ほぐしたら機嫌もほぐれるかと思って。」
「名前のせいじゃないアル。銀ちゃんわざと機嫌悪いフリしてるネ。内心触られて喜んでるアルよ。」
「え? 喜んでる要素あった?」
下を見ると顔を確認する前に起き上がって見えなかった。
「どうしたアルか銀ちゃん。嬉しすぎて耐えられなくなったネ?」
「どんだけ変態だよ俺は。昨日ババァにシュークリーム貰ってなかったか?」
「そうだったアル!!!!」
銀さんの言葉に神楽ちゃんは立ち上がりダッシュで台所に向かって行った。
筋取りは殆ど終わってるから片付けよう。
「持ってきたネ!!」
「今片付けるね。2人ともお手伝いありがとう。」
笑ってまた手伝うと言ってくれる2人に私も笑顔で再度お礼を言う。
台所に片付けてから戻ると、テーブルにシュークリームが並んでいた。
「名前さんと食べる為に昨日食べないで待ってたんです。」
「そうなの?ありがとう!シュークリーム凄く久々だ。」
と言うか殆ど食べない。決して嫌いな訳では無いし寧ろ好きなんだけど、どうにも上手く食べられないから。
さっそく頬張ってる神楽ちゃんを見ると、顔小さいのに一口大きいから大丈夫なのかな、上手に食べてる。
「どうしました?シュークリーム嫌いでしたか?」
「えっ、いや、好きだよ? 」
どうしよう、大丈夫かな。一人で食べるならまだしも、ここで大惨事は行儀悪すぎるし恥ずかしいし。
手に持ってじっと眺めていると再び新八くんの声が聞こえた
「名前さん?」
「あ、えと、……私、ちょっと、シュークリーム食べるの下手で、」
「下手? あ、もしかしてクリーム垂らしちゃうとかですか?」
「っ!そ、そう、」
「あー、分かります。僕も良くやりますよ。」
「え!? 本当に!? 」
びっくりして新八くんを見ると笑って頷いてくれた。
「お前何でそんな事気にすんの? 好きなように食えば良いだろうが。」
「だって、凄く垂らしちゃうんだもん。お行儀悪いでしょ、だから人前では絶対食べないようにしてるの。」
「気にしなくて大丈夫ですよ、僕らもそんなに行儀良くないんで。」
「いや、そんなことないけど。……でも頑張って食べるわ。」
「シュークリーム食うのにそんな気合い必要か?」
必要だよ。これを気に上手に食べれるようになる勢いで気合い入れて食べよう。
よし、
最初の一口は大丈夫。と言うかクリーム見えるまでは大丈夫。
食べ進めると思った以上にクリームが入っていた。しかもこれ結構ゆるいやつ。強敵のやつだ。
じっと眺めて考える。何処かじれば垂れないの?端?真ん中?いや、真ん中は無いよね端から垂れちゃうから。なら端か。
端かじって、出てきたクリームを即座に食べれば垂れないよね。そしてそれを繰り返す。よしいける。
悶々とイメージを立てて残りのシュークリームに挑んだ
・
・
「真剣過ぎません?そんな強敵見るような顔して食べる物でしたっけ?」
と言う新八の声はこいつには届いていないようで、さっきからシュークリームを睨み付けながら食べ進めている。
確かにこのクリームゆるいから危ねぇとも思うが、そこまで考える程か?
散々考えたんだろう、ようやく食べるのを再開したのを横目で見ていると、かじった瞬間にこっちの端から垂れそうになってきた。つーか指で押してる。こいつかじりながらシュークリーム押してるわ。そりゃ垂れるワケだ。
垂れそうなのに気付いて上を向き必死で頑張っているが、無理だろこれ。
口からはみ出てるクリームが頬を伝って落ちてきた。
思わず落ちる寸前に指を頬に当てて受け止めた。気付いていないのか、頬張ってるのを飲み込もうとして更に指に力が入りまたクリームが落ちてくる。
指はそのままで垂れてきたクリームを頬に舌を這わせて舐め取った。
何こいつ気付いてねぇの? って目ェ瞑ってんじゃん。眉を下げて咀嚼すんのに必死だ。
唇ギリギリまで舐め取り、ついでに口に加えてるシュークリームもこれ以上垂れないようにはみ出てる部分を一口多めにかじって、頬に置いてる手と一緒に離れた。
自分の指に付いたクリームを舐め取っていると、ようやく口を離して顔を下げたが、まだ口を動かしている。どんだけ口ん中入れたんだ。
「っ、やっぱり垂れた。」
チラリと正面の2人に目を向けているが、そいつら2人は俺を見ている。目線は合わせてねぇけど、視線は感じる。
2人の視線の先を追って、こっちを見た名前と目が合った。
「え?もしかしてクリーム取ってくれたの?」
「……まぁ。」
「うわぁ、ごめんね。手べとべとになったでしょ。」
「そりゃオメ−もだろ。」
「そうだけど、人にまで被害を出してしまって。あ、ごめんね2人も汚い物見せちゃって。」
「汚いのは銀ちゃんアル。気持ち悪いネ。」
「何してんですかアンタ。」
言われると思ったわ。
取り敢えず無視して隣にある手首を掴み軽く潰された残りのシュークリームを口に入れていく。
「え!? 良いよ!自分で食べるし、もう何か潰れちゃってるし、」
いや潰したのお前だぞ。とは口に出さず空いてる手で口の端に付いてるクリームを指で拭う。
「あ、ごめん、後で拭くから良いよ、銀さんもべとべとになっちゃうから、」
両手で持ってるから口でしか抵抗出来ないんだろう。けど俺が止めないから諦めたのか大人しくなった。
最後の一口を食べ終えついでに指を舐めると流石に手を引っ込められた。
「そこまでしなくて良い。」
「ごっそーさん」
「うん、ごめんね、ありがとう。」
「これ、残り銀さんと名前さんのなんで。」
「え?何処か行くの?」
「2人でしっぽりやってろヨ。遊びに行ってくるアル」
「えっ、 」
「気にしないで下さい。名前さんのせいじゃないですから。」
去り際に2人して目を細めて見てきやがった。
「何で突然? 私のせい?」
「ちげーって。ほら、良いから食えよ。」
「いやもう食べないよ、銀さんにあげる。」
「お前に買ってきたっつってたぞ。」
「えっ!そうなの!? 後でお礼行かないと!」
「後でな。今は食え」
「……なら後で食べる」
「どうせ既に手ェべたべただろ。今食えよ。」
「そうゆう問題じゃないんだけど。」
かなり渋々な顔してシュークリームを手に取るのを見て、俺も手を伸ばして取った。
そこまで垂れねぇんだけどな。
4口くらいで食い終わる
「凄いね銀さん。綺麗に食べる」
隣からの声に顔を向けるとまだ半分以上も残ったまま両手で持ってこっちを見ていた。
「お前食いながら指で押してるからクリーム出てくんだよ」
「え?私押してるの?」
言いながら手元を見つめるこいつは、ぐっと少し指で押して出てきたクリームを口に含んだ。唇に付いたクリームを舌で舐め取ってやがるし。あ−、やめろ考えるな俺。
無心になるべくテーブルの端にある傷を眺めてたら視界にシュークリームが映り込んできた。
振り向くと直ぐ目の前にシュークリーム。
なんだ?食えってか?
無言で差し出してくるそれは、既にクリームが見えている。手で持とうかとも思ったが敢えて顔を動かさず口を開けると勝手に口元まで寄ってきた。
一口でクリーム大半を口に入れる
「上手!」
何をそんなに喜んでるのか、楽しそうに笑いながらシュークリームを俺に食わせて来るこいつは何なんだろう。
ある程度食ってからシュークリームを奪い取り、残りを今度は俺が持ってこいつの口元に持って行った。
「え!? いや、私もう、」
「大丈夫だって、もう垂れねぇから。」
少し開いた口に近付けると恐る恐る口に入れてゆっくり閉じた。
「っん、」
垂れる事なく食べれた事が余程嬉しいのか、目を大きく開けて口を動かしている。
「っ、食べれた!!」
「良かったな、ほら、後少し。」
素直に口を開いて俺が持っているシュークリームを食っていく。
最後食い終わった後、別に何も付いてねぇけど親指でまるでクリームを拭うように唇に触れてみたけど今度は嫌がる素振りすらなかった。
手洗いに行こう!と言うこいつに、触れた親指を舐めながら立ち上がった。
何も付いてねぇのに甘く感じんのは脳がやられてきてる証拠だろうか。
prev / next