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▼ 甘さ半分お返しで



……昨日より酷ぇ。

手を引かれながら歩いてきた名前の顔には昨日とは比べ物にならないくらい泣き腫らした跡。

こいつは一体ここで何してるの?何で毎日泣いて帰ってくんの?


「いつまでメソメソしてるんでィ。笑えってんでしょーが。」

その言葉に口角が少し上がった。
上がったっつーか、口の端に少し力が入っただけ


「はい不合格ー。明日までの課題ですぜ、クリア出来なかったら追試受けさせやすからね。」


何となく、何となーく察してしまった。沖田クンの頬の腫れ、そしてそれを泣きそうな顔して見つめる名前。

叩いたか? 理由は知らねぇけどこの調子じゃ俺の時みてぇに自分の意思じゃない。手が勝手に出たって所か。


「ほら、早く帰りなせェ。旦那来てやすぜ。」

未だ手が離れないのは名前が握っているから。
何だこれ。俺帰った方が良い?


「……明日が最終日ですぜ。笑ってて下せェよ。」

「っ、うん、」

ようやく離した手で沖田クンの腫れた頬を軽く撫でてから俺の元にやって来た。

つかこいつ手に何持ってんだ?
さっきから気になってはいた。繋がれていた反対の手に袋が握らされている。


「土方さんに持たされてやした。」


俺の目線に気付いたのか思考を読み取られた。

「ふーん。中身なに?」

無言で袋を広げて来たから覗いてみた。
菓子か?
チョコの箱にプリンやらゼリーやらと沢山のお菓子が入っている。


「餌付けされてるらしいですぜィ」

「餌付けェ?」

何こいつ、ニコチン野郎に餌付けされてんの?
つか初孫可愛がるじーさんじゃねぇか。


「……帰んぞ」

「………………うん」


間が長ぇ。帰りたくねぇの?


軽く上げられた手に力無く振り返し俺の後ろに跨がった。
心なしか朝より回された腕の力が強く感じるのは気のせいじゃないと思いたい。






飯は要らないと言うカナに、ならもう寝た方が良いと帰って早々新八達に寝かされていた。
あれから一度も寝室から出てこないまま残り一時間で今日が終わろうとしている

襖を開けて布団が盛り上がっている事を確認し近付くと目が開いていた。何処を見てる訳でもなく起きているのかも疑わしいくらい無表情で横たわっている



「……名前?」

声をかけるとゆっくり目だけ動かして俺を見た


「ずっと起きてたのか? 」

「……うん」

「寝れねぇの?」

「…………」


「なァ、何があってそんな泣いて落ち込んでの」

「…………叩いた。私が、沖田くん叩いた。」


だろうな。それは予想できたわ


「何かされた?」

「何も。虫、捕まえようとしてくれただけ。なのに私は、……。」


話しながら静かに涙を流し始めた。

思わず目尻に指を当てると嫌がるように毛布を引っ張って顔を隠された。


「……優しくしないで」

「なんで優しくしちゃいけねーの」

「私、銀さんも叩いた。皆私に優しいのに、何なの私は。」


は?何でそこで俺の話? つかいつの話してんだよ、そもそもあれは俺が悪い。


「あれはちげぇだろ。お前悪くね―から。」

「そうやって、私悪くないって言う。」


何だコイツ。どんだけネガティブモードだ。



「ごめん、面倒くさい事言ってるの分かってる。お願い、放っておいて。寝て起きればマシになるから。」

「……どうせ寝れねぇんだろ。なら起きろよ、散歩行くぞ。」

「え?」


やっと隠していた顔が出てきた


「お前まだ着替えてねぇし、そのまま出れんだろ。俺着替えるから起きろ。」

「え、でも銀さんお風呂入ったでしょ、湯冷めしちゃうよ。」

「んなヤワじゃねーっての。ほら出てろ。それとも見てく?」


布団から起き上がらないこいつに、自分の腰にある紐をほどきながら言うと困ったような顔をしてゆっくり起き上がって出て行った。






時刻は11時を過ぎている。この辺はまだ静かだ。

大人しく後ろを着いてくるが、足音は聞こえるものの視界に入らない事が気になって仕方無い


「なぁ、後ろ気になんだけど。手ェ繋ぐか隣歩くかにしてくんねぇ?」


選択肢を与えたくせに手を差し出す。
こいつは手を伸ばせば基本繋いでくる。

ホラな。しかももう条件反射みたいになってんじゃね?
特に何かを考えた様子は無かった。ごく自然に差し出した手に重ねてくる。



暫く歩いて中心部から離れ人工的な光が少なくなって来た頃、こいつは口を開いた。


「……暗いね、」

「あ−怖いか?この先もうちょい暗くなるけど。」

「大丈夫、見えるから。それに銀さん居るし。」


…………うん。居るけど。


手を引かれながら俺の後ろを歩くこいつに目だけを向ける。表情は暗く、目を伏せて足元を見ながら引かれるがまま足を動かしている。


更に進み丘の上まで来た。


「上、見てみ」


足を止めて空を確認し、未だ暗い顔してるこいつに言うと顔を上げ俺と目が合う。指で上を指すと顔がゆっくり上に上がった。



「っ、え、なに、これ。星?」


空を見たこいつは分かりやすいくらい目を見開き、息を詰まらせながら声を出した。


「ここは街の光が届かねぇから良く見えんだわ」


口を開けたまま上見て動かない。

こいつが星を好きなのは知っていた。たまに寝室の窓から空を見て笑っていたからな。


「……綺麗。」

そう呟く横顔を眺めていると目から一粒涙が流れた。上を向いているせいで目尻から耳に向かって流れるそれを指を沿わせて止める。


「あ、ごめん。綺麗過ぎて何か泣けてきた。」

「……散々泣いてもまだ泣けんだな。」

「ふふっ本当ね。昨日から泣き過ぎ。」


笑って再び上を向くこいつに、やっと笑ったかと安心しながら俺も空を見る。宇宙船が飛び立つ空。いつか見た空は宇宙船なんざ無かった。


「ね、ちょっと手離していい? 横になりたい。」

「は? 」

言いながら手から離れたこいつは地面に座り、躊躇なく身体を倒した。寸前で頭の下に手を入れて地面との接触を回避。え?みたいな顔してきたがこっちが、え?なんですけど。 何でこんな地面の上に躊躇なく横になれるんだ、お前は女だろ。

頭を支えたまま腰を下ろし自分の足にそれを乗せた。

きょとん、としながら俺を見上げる顔にさっきまでの暗さはない。
後ろに手をついて上を見上げると、こいつも横になったまま空に視線を戻した。






「銀さん。」

どのくらいたったか、暫く無言で空を見ていると下から名前を呼ぶ声に顔を下げる。


「ありがとう。」

笑って言うその顔に俺も「お―」と笑って返す。
すると大きく息を吸い一気に吐いて、吹っ切れたように喋り出した


「っ笑お! 私笑う、少しは気にしろよって思われるくらい全力笑顔振り撒いてくる!笑えって課題出されたし、追試なんて御免だもん。後は沖田くんが喜びそうな事考える事にする!」

「そうしろ。オメーが笑ってるだけでアイツらは満足すんじゃねぇの」

「ふふっ、なにそれ。銀さん甘やかしすぎ。」

笑いながら横を向き、そのまま腰に抱き付いてきた。



オイオイオイオイ、ちょっと待て。え、なに、めっちゃデレてるよこの子。自分から抱き付いてきた。 しかし不味いわ、膝枕した状態だぞ?場所が不味い。落ち着け、考えるな。 腹に顔を埋める感じですり寄って来てて、いや、もうホント何考えてんのコイツ。何も考えてないか。非常に不味いが喜んでる自分も居て引き剥がせない。そして何よりこいつが楽しそうに笑っている。


冷静を装いながらも脳内は騒がしくて仕方無い。

満足したの腰から腕が離れかゆっくり起き上がった。
危なかった……耐えた、頑張った俺。

つか機嫌良いし今なら怒んねぇかも、起きたまま上を向いている横顔に顔を寄せ頬に唇をつけた。


「え? なに?」

「されたことあるって聞いたから。そういや俺してねぇなって思って。」

「あ、沖田くんに聞いたの? 」

「そう、随分仲良いのな。」

「ん−、そうだね。凄くすり寄って来る時ある、甘えてくる感じで。」

「ふーん」

「でも珍しいね。銀さんくっ付いて来るときはあるけど、こうゆう事しないのに。」

怒ったら噛んだり舐めたりはするけどね。と言うこいつ。

確かにそうだ。首に痕は付けたけど軽く触れる事なんてしたことねぇな。
でもそりゃそうだ、そんな甘い関係じゃねぇし。

そう思うと自分のした事に今更ながら恥ずかしくなってきた。

脅しでも何でもねぇ。ただアイツがして俺がしてねぇって事が面白く無くてって理由だ。

幸いこいつは特に気にしてないらしくまた空を見上げている。


少しくらい照れろよ。とも思うが無理な話しか。






さっきまで寝てた布団を軽く直し潜り込もうとするこいつに声を掛けた。


「こっち来る?」

「行かな−い。おやすみ銀さん。」

笑いながら拒否して、しっかり布団に入った。
まぁ来るなんざ思ってねぇけどな。 お決まりの軽い掛け合いみたいなモンだ。

だけど今こいつ機嫌良いしな。このまま寝るのは勿体ない気もする。


膝を付いて近付き、布団の端を掴み引きずって自分の布団にぴったりくっ付けて寝床についた。


「なに?」

「なんも」


不審な目で見られたが俺が大人しく自分の布団に入ったからか再び目を瞑って寝る体勢に入った。
端に寄りこいつの布団の中に手を入れて腰を掴んで引き寄せる。ついでに枕も追いやり頭の下に腕を置く。


「……なんなの」

「なんも?」

「行かないって言ったじゃん。1人で寝ようよ。」

「1人でのびのび寝てんだろ? 俺、自分の布団だしお前も自分の布団だろ。 」

「腕はみ出てるよ。」

「ちょっとぐれ−気にすんなよ。」


ため息を吐いて上を向いたまま寝ようとする。
腹の上に置いていた腕を動かし手を布団と背中の間に忍ばせ俺の方に身体を向けるように動かした。


「ふっ、ふふっ、も−なんなの? 」

いつものように抱き締める体勢に持っていくと腕の中で笑い声が聞こえた。


「結局いつもと同じじゃん。しかも結構無理矢理だよね、どんだけ一緒に寝たいの?」

腕を緩めて顔を確認すると目を瞑りながらも笑って言っている。
やっぱ機嫌良いな。全然抵抗しねぇとは思ったけどよ。


「慰めてやろうと思って」

「もう泣いてないよ。さっき慰めて貰った。」

「さっきのは余興だから。こっからが本番。」

「え−じゃあいいや本番。いらない。」

「遠慮すんなって。とびきりの本番待ってっから」

「とびきり?何待ってるの?」


そう言って瞑っていた目を開き見上げてきた顔に、前髪の上から額に唇を寄せた。


「え、とびきり甘いのきたね。」

「だろ−。」

言いながら後頭部に手を置き胸元に押し付けるように抱き寄せる


「照れるならやらなきゃいいのに。」

「……うるせ−よ。」



即効でバレた。しかも笑い声まで聞こえて来やがるし。くそ。



「……沖田くんに、明日言おうと思うの。私の事。」

「そうか。」

「どう思う?」

「良んじゃねぇの? お前がそうしたいなら。 知ったからって今更アイツら変わんねぇだろ。」

「……うん。ありがとう。」


髪に指を絡ませるように後頭部を撫でながら話していると、いつもはこのまま直ぐ寝るのに顔を上げてくるもんだから瞑っていた目を開けて下を向いた。


「、甘さ半分お返しで。」



…………

っえ!? 今の何!? 何!?
びっくりし過ぎて撫でていた手が止まった。 今、こいつ、

「ねぇ撫でてよ。」

ちょっと待て。今日デレ強くね? 余韻に浸る所かまだ頭追い付いてすらいねぇんだけど。 取り敢えず止まってた手を要望通り動かす。満足したのか一瞬笑って、……寝た。早っ、寝るの早っ! まぁ、泣き過ぎて疲れてんのか。
で、さっきのヤツな。こいつ、顎にちゅーしてきた! したよね!? 俺がしたヤツ半分返してきたの?どうゆう事?しかも何で顎?額は遠くて諦めたの? いや、良いけどね。顎でも何処でも。こいつからしてくる事なんざねぇし。 そりゃそうだ。だから甘い関係じゃねぇからな。…………。ヤベーなこりゃ、どうしたもんか。つかヤベェなら離れりゃいい。こいつに触れなきゃ良いだけだろ。……………………いや−大丈夫だろ。俺、余裕ある大人だし?、うん。頑張るわ。



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