▼ 反省するなら猿でも出来る
「長谷川さん?」
「銀ちゃんのマダオ仲間アル。」
まるでダメなおっさん兼お兄さん仲間?
夕食を食べながら前に神楽ちゃんが言っていたマダオ定義を思い出す
「その長谷川さんが今してるバイト先に遊びに来ないかってさっき買い物行った時に言われたんです。遊びにと言っても、人数集めみたいな事言ってましたけどね。」
「どんなバイトなの?」
「肝試し大会のバイトらしいです。」
「……肝試し大会?」
「今日の夜、神社であるんですよ。あまり出場者居ないみたいで、それで遊びに来ないかって。でも名前さん今日体調悪いんですよね? 無理して付き合う事ないですよ。」
「あっ、本当? じゃあ私お留守番してるね!ごめんね、気を付けて行ってきてね。」
私が盛大に寝坊した事を具合悪いからだと、きっと銀さんが説明してくれてたんだろう。
本当は違うけど、でもそうゆう事にしておこう。
肝試しとか無理だもん。
「なら3人で行きましょうか。」
「は? 何で俺も行くワケ? お前らだけで行ってこいよ。 」
「銀さんは強制だそうですよ。飲みのツケ払わなくて良いから代わりに来てくれ、だそうです。」
「……俺、用事あるから。」
「何の用事ですか?依頼なら来てないですよね?」
「……」
銀さんが沈黙した事で3人で行く事が決まったらしい
・
・
食器を洗っていると後ろから銀さんがやって来た
「なァ」
「なに−」
「お前具合悪くねぇよな? 」
「……でも夜はお登勢さんの所にバイト行くから。」
「んなの用あるって言えば良いだけだろ?」
「新八くん無理しなくて良いって言ったもん」
「だから具合悪いって俺が言ったからそう思っただけだろ。」
絶対分かってるのに何なの
あれだけ暗闇怖がったんだから絶対私がホラー駄目なの分かってるよね。
「……なら新八くんに言ってくる。苦手だから行きたくないって。」
きっと新八くんは私がそう言っても無理しなくて良いって言ってくれる。
台所に立っている銀さんの横を通り新八くんの所に行こうとした。でも通り過ぎる前に腕を掴まれて止められた。
「……なに」
「……行こう?」
「は?」
「いやだから行こうってお前も。皆で何かするの楽しいって言ってたろ? 1人で留守番寂しいだろ?だから行こうぜ一緒に。な?」
「……楽しくない。ねぇ、絶対気付いてるよね? 私が苦手なの気付いてるでしょ? 何でそうゆう事言うの? 」
本当に嫌いなんだよ。宣伝のCMすら入った瞬間チャンネル変える。
グロい系のホラーは寧ろ好きだけど、ガチのホラーは無理だ。
「大丈夫だって、俺がついてるし。手ぇ繋いでっから。」
「何なの? 人が怖がってる姿見るのがそんなに楽しい? 」
「いやそんな余裕ねぇからマジで! 行こう? ね?行こう? 手ぇ繋いでたら大丈夫だって!な? 」
…………
何かおかしい。何でこんなに必死なの?
「……まさかとは思うけど、銀さんも苦手なの?」
「は!? いやいや俺は別に怖くねぇよ!? 怖くねぇけど!お前1人で留守番寂しいっつってたから! 」
「え?ほんとに怖いの? だって昨日暗闇ずんずん歩いて行ったじゃん。」
「ただ暗ぇだけだろあれは! 何も居ねぇよ! 暗いだけ! でもこれは居んだよ!いやスタンドじゃねぇよ!? 脅かしてくる奴とか!いや別にビビってるワケじゃねぇけど!! 」
「怖いんじゃん。」
マジか。
昨日平然と暗闇突き進んでたから平気なのかと思った
てかスタンドって何?
「っ、怖くね−! ……、行くよな?」
「私が行っても怖いものは怖いよ。」
「自分より怖がってるやつ見るとマシになるって言うだろ?」
「絶対行かない。」
「うそうそうそ! 行って下さいッ!!!!おねがいしますッッ!!」
両肩を掴まれて懇願された
行きたくない、心底行きたくない。けど銀さんも同じく行きたくないと思っているのなら、私だけ行かないのは狡い気がする。
結局断ることは出来ず行くことになった。
・
・
「あれ?名前さんも行くんですか?」
「……うん、体調良くなったから。」
「でも顔色悪いですけど、本当に大丈夫ですか?無理しなくて良いんですよ?」
「大丈夫だってぱっつぁん。俺がついてるから心配すんな!」
「いやアンタホラー苦手なくせに何言ってんですか。」
完全に夜になり大会会場に向かった
確かに人数は少ないが、最早そんな事はどうだって良い。早く帰りたいとしか考えられない。
ルールは2人一組でゴールまでのタイムを競い、一番速かったペアが優勝だそう。
「優勝商品はお米アル!! あの米は私が頂くネ!!」
「銀さんは名前さんと行くんですか? なら僕が神楽ちゃんとペアで行きますね。」
「足引っ張んじねーぞ新八。モタモタしてたら置いてくアルよ。」
優勝商品がお米だと知った神楽ちゃんはもうやる気満々だ。
走ってスタート時点に向かって行った。
「米は神楽に任せて俺らはゆっくり行こーぜ。」
「嫌だよ一刻も早く終わらせて帰りたい。」
一組ずつ順番に行くらしく自分の番が来るまで待機しなければならない。取り敢えず一番明るい所に腰掛けて精神統一して待つ事にする
「それ、部屋着のパーカーだよな?」
「……うん、フード付いてるのこれしかなかったから。」
「耳は?」
「中に折って隠してる。」
私は兎の耳付きパーカーを着てフードを被っている。少しでも視界を狭めたかったから。耳をフード中に折り込んで被ればただのモコモコのパーカーだ。
頭の中で何度も、怖くない と呪文のように唱えて時間を待った
そしてその時は来た。
さっさと終わらせて帰る。
ふう、と深呼吸すると隣から手が差し出されてそれを握った。
懐中電灯一つだけで他に灯りはない。
また真っ暗。
私が持ってて良いと言ってくれたから片手に懐中電灯、もう片方の手は銀さんと繋いでいる
何も喋らず黙々と歩くとカサッと、茂みから音が鳴った。
思わず繋いでた手に力が入ると、銀さんはそれ以上の力で握り返してきた
「だだ、だだだだ大丈夫!ただの風だろ!? 」
いや動揺し過ぎ
フードからちらっと銀さんを見上げると冷や汗を垂らしながら顔を引きつらせていた。
本当に怖いんだ。
「っは、別に大した事ねぇな。所詮人の造り出したァァァァァ!! ギャァァァァ!!こっち来んじゃねェェェェェェェ!!!!!!」
「ハァ、ハァ、ははっ、生きてる人間がどんな格好しようがそんなモンただのォアアアアアア!? 何あれ!? 首ィィィィィィィィィ!!!!」
「ハ、ハァ、ゲホ、中身はただの人間、俺達と何も変わァァァァァァるわァァ!!!! 何で追い掛けてくんのォォォォォ!? !?」
「ゲホゲホッ、あんなの、ゲホッ、ただの、」
「銀さん落ち着いて」
そんなに?いや私も苦手だし嫌いだけどそんなに?
噎せながらしゃがみこんでいる銀さんの隣に同じくしゃがみこんで背中を擦る。
今も片手は私と繋いだまま。
私が驚くより早く銀さんは叫びながら手を引っ張って走った、私が転けそうになったら抱き上げてでも走ってくれた。
こうゆう時って置いてかれたりするのがセオリーかと思ってた。
でも絶対離さない、と言う宣言通り本当に離さないでいてくれた。
暫く擦っていると呼吸が落ち着いたようで銀さんが顔を上げた
「大丈夫?」
「……オメー落ち着いてんな。」
「銀さんが居るからね。」
「なにそれ、馬鹿にしてんの?」
「違うって、手繋いでたら大丈夫って言ってたじゃない?本当だった。」
じっとこっちを見ている銀さんに笑って立ち上がった
「行こう? 早く出て帰ろ。」
繋がっている手を引くとすんなり立ち上がってくれて出口に向かう。途中また何度か叫んでたけど、ようやく出口に着く事が出来た。
結果は神楽ちゃんと新八くんペアが優勝していた
ほんの数分で戻って来たらしい。凄い。
・
・
ようやく帰ることが出来、起きてからそこまで時間はたっていないのにまた布団に入る。何だか宜しくない生活だ。
自分の布団に潜ると銀さんは電気を消して当たり前のように私の布団に入ってきた。
「……何で入ってくるの。」
「怖いかと思って。」
「何が?ここ家だから大丈夫。」
「豆電球消してやろうか?」
「……さっきまで怖がってたの銀さんの方じゃん。」
そう言うとガバッと起き上がり何事かと思ったら豆電球を消された。
「っ暗っ! 何で消すの!? 暗いじゃん!」
何も見えない。思わず布団から出ようと身体を起こすと肩を押されて布団に戻された。
いつもの如く正面から腰に腕を回され抱き寄せられているけれど、でも怖い。目の前に居る銀さんの着物を掴むけどそれも見えない。
「っねぇ、やだ、暗い。」
「そんな怖ぇ? つか見えねぇの? 」
「え?銀さん見えるの?」
「まぁ、夜目効く方だからな。」
「なにそれ狡い。私見えない、何も見えない。電気つけてよ。」
「電気つけたら一緒に寝んの嫌がんじゃん。」
「消しても嫌がる」
「ふーん。じゃ、戻るわ。」
「っえ、電気はつけてよ」
目の前にあった温もりは消えて少し離れた所から布団に入る音が聞こえた。
……電気は?
「……電気つけてから寝てよ。」
「めんどくせーもん、自分でつければ。」
もう本当、何なのこの人。
電気のある位置は分かる。ゆっくり行けば多分たどり着く。起き上がって歩くだけ。
でも起き上がれない、さっきは思わず起き上がったけど、もう無理。暗すぎて動けない。
暗さに目って慣れるものなのかな、そんな長時間暗闇に居たこと無いから分からないけど、このまま我慢すれば少しは見えるようになるのかな。
目を開けてる筈なのに何も見えない。
最近暗闇ばっかり。皆が居なかった夜も暗かった。
頭の中がぐるぐるしてきて毛布を顔に押し付けるようにしていると、頭に温かい物が触れた
「……苛めすぎたわ。」
「いいっ、も、触んないでっ。」
耳に届いた自分の声は途切れ途切れで泣いてる事にようやく気が付いた。
触らないで、の言葉通り頭に置いてあった手は離れ直ぐ傍に居る気配だけある。
私最近泣いてばっかりだな。
「ごめん」
上から謝罪が降ってきた。そうだよ、こんなのただの悪戯なんだ。泣くほどの事じゃない。こんな謝られる事でもない。
「良いってば、大丈夫。ごめん、気にしないで良いから。」
だいぶ落ち着いてきて声が戻って来た。もう涙も流れてないし大丈夫。
未だ目の前に居る銀さんを毛布から少し顔を出し見上げた。
豆電球はつけられていて銀さんの顔が見える
わ、レア。目尻下げてシュンってしてる。
好きで泣いた訳じゃないけど、こんな直ぐ泣く女ウザイって思われそうなのに、そんな顔してくれるんだ。
「本当にもう良いよ。ごめんね、泣くほどの事じゃないのに。」
……何でなにも言わないの?
本当だよな、とか言って布団戻ってくれて良いんだけど。
何でまだ座ってるの?
何も言わず動もせず目の前に座っている銀さん。でもこっちを見てはいない。自分の手を見てる?
……触らないでって言ったから?
そう言えば今朝も言ってた、触られるの嫌とか思ってないかって。
そっと見つめている手に触れた。冷たい。さっきまで温かかったのに。
触った瞬間ぴくりと動き目線がゆっくり私に向いた。
「ごめんね、触らないでって言って。少しパニックになっちゃってそっとしておいて欲しかっただけなの。そんな事思ってないから。」
「……ん、」
今日は本当に弱々しいな。意地悪してくるくせに。
「……仲直りしようか。」
そう言って触れていた手を引くとゆっくり布団に入ってきた。身体も冷えきっちゃってるよ本当どうしたの。
いつもより軽く抱き寄せる腕が更に弱々しく感じ、自分からすり寄って目を閉じた。
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・
俺は馬鹿かと自分を殴りたくなった。
暗闇に怯えんの知ってたのに。
軽い悪戯のつもりだった、家だし多少平気だろって。
でも平気じゃなかった。静かになったこいつは泣いていた。声は出していないけど分かった。
直ぐに豆電球つけて傍に行ったけど、触るなと そう言われた瞬間に動けなくなった
別に寒い部屋でもねーのにどんどん体温が下がっ
ていくのが分かるくらい身体が冷えていった
こいつのお陰で今ようやく体温が戻ったけどな。
マジでどうしたんだ俺。
昨日だってあそこまでキレる必要なかったよな。
だけどずんずん行った事ないであろう道を突き進んで行くのを見てる内に知らねぇ間にキレてた。
あそこホテル街だぞ。しかも治安悪い所の。
でもやりすぎて案の定泣かせた。
あっさり許したけどなこいつは。
何考えてんだ?何も考えてねぇの?
あんな怯えてたのに、それしたやつあっさり許す?
分かんねぇな。だからつけ上がらせて同じ事やられんだよ。やってんの俺だけど……。
何回目か分かんなねぇけど、反省しよう。
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