プロローグ

ずっとずっと、好きな人がいた。


その日は何があったかよく覚えてない。
ずっと練習していた。コンクールは終わった。私は歌えなかった。喉を潰した。大事な日だから学校も休むと。何回も友達に言ったのに。何事もなかったかのように教室の端の席に座っていた。

放課後になってもその場所から動けなかった。
冬は日が暮れるのが早い。ふと気づけばうっすらと星が出ていて、

「まだおったん?」

真っ暗な教室に、声と、足音が響いた。
この声はよく知っている。今一番聴きたくない声で、だから、喋らないで。

「はよ帰らなあかんて。変なやつに絡まれたらどないするん?」

現在進行形で絡まれている、と気の利いた冗談を、数日前の私なら言えたのに。私は何も答えられなくて、彼は気まずくなったのか頭をかく。
それから、何言か言われたけど全然頭に入ってこなくて。

「七桜」

名前を呼ばれたところで意識が彼に向いた。

「すまん、もうちょいムードある時に言いたかったんやけど」


私は、


「七桜のこと好きや。ずっと。せやから……」



逃げた。



教室から、立ち去った。